第13話 禁域の森までの道中

 俺たちは旧ナガノ県に向けて、出発した。

 禁域の森は、旧ナガノ県の山々に囲まれたところにある。

 というか山があるからこそ、禁域の森は広がらずに済んでいると思われる。


 禁域の森に行くまでの道中に出てくるモンスターは、それほど強くはない。

 レベル換算で、250程度。

 それでもジョブの恩恵を受けていない人間なら、千人単位でいても問題なく撃破できるモンスターたちだ。


 その上、生産職である俺にとっては、そのレベルでも十分命の危険がある。

 多分一人で来ていたら、この時点で死んでいただろう。

 

「エアレイド・ファルコンだ! 急降下攻撃に気をつけろ!!」


 風属性を操り、時速500kmで降下してくる隼の攻撃だ。

 俺たちは対空攻撃をお見舞いしてやる。

 ミナミの放つ炎の散弾が敵にぶち当たり、焦げさせる。

 

 そのまま隼は、地面に墜落した。

 それでもなお原型を保っているのだから、高位モンスターの身体能力は侮れない。

 十分食用にできそうだ。


「ちょうどいい。今日はここで、飯にするとしよう」

「了解です」

「携帯食料の類もキョウマくんのおかげで、いいものが買えましたからね」

「奮発しましょう」

「食用となるキノコも色々、用意してますよ」

「お、そりゃ楽しみだな! 俺は赤肉茸が大好物なんだ」


 そういうわけで晩飯はキノコシチューと、携行パンということになった。

 


 □



「あったかい……」


 キノコシチューを食べて、舌鼓を打つ。

 季節は夏だが、高地は冷え込む。

 だからこそのシチューだった。


「美味いな。さすが『キノコ』の専門家なだけはある」

「たしか、キノコ村の出身だったけか?」

「ちょっと、デリカシーないわよ」


 村が滅んだのはニュースにもなった。

 それゆえの言葉だろう。


「すまねえ」

「いいですよ。……今回薬を取りに行くのも、同郷の子のためなんです。四百四病の王の病に犯されているから、それを助けるために」


 狙った薬効があるのかも、そもそも存在するのかも、賭けになる。

 それでも俺は行くのだ。

 たった一人の親友を助けるために。

 

「そうか……。見つかるといいな、冬獣夏草」

「はい」


 なんとしても見つけなければならない。

 ミライを助けるために。



 □



「すげぇ絶壁だぜ」

「これは登るのに苦労しそうですね……」


 目の前にあるのは、断崖絶壁だった。

 切り立った岩によってほとんど垂直にそびえ立っている。

 これを踏破するのは至難の技だろう。

 通常ならば。


「みなさん、菌糸網を打ち込みます」

「菌糸網?」


 文字通り、菌糸でできた網のことを言う。

 俺はそれを即席栽培して、頑丈なロープで編んだ、網を作ることに成功したのだ。

 これを張っておけば、大幅に上りは楽になるだろう。


「うん、素晴らしい頑丈さだ。これなら上りは問題ないな」

「一応こっちも用意しておきますね」


 そう言って地面に満遍なく胞子を撒く。

 すると大ぶりの、キノコの傘が成人男性よりも大きなモノが大量に出来上がった。

 

「これは?」

「クッション・マッシュです」


 これはその名の通り弾力性に長けたキノコだ。

 食用にもならないが、このキノコの子実体は、成人男性が三階から飛び降りても無傷で済ませるほどの弾力性を備えている。

 ジョブの恩恵を備えた人間ならばこの断崖の一番上から飛び降りても、かすり傷で済むだろう。


「さすがだな。こんなキノコもあるとはな」

「まだまだ色々ありますよ」


 俺たちは断崖絶壁を難なく乗り越えていった。


 そうして、俺たちはついに。

 禁域の森に到達した。

 鬱蒼と茂る、森。

 木々の葉が幾重にも折り重なり、日光を遮っている。

 林床は苔むしており、所々にキノコが生えている。


 危機察知に反応はない。

 毒ガスが蔓延している可能性はなさそうだ。


 火山の近くならまだしも、森の中でそんな心配が必要なのかと思うかもしれない。

 しかし、魔力を影響を受けた植物は、時折虫除けに人類にも有害なガスを出すのだ。


 通常の木々もフィトンチッドという、森の香りの成分を出している。

 それは虫除けの効果があり、人類には害はない。


 それと似たようなものだと思えばいい。

 有害、無害の違いがあるが。


「! 来たか!」


 木々が粉砕される音と共に、地鳴りがする。

 重量級のモンスターだ。


「アーマード・ベア!!」


 レベル500近い、『禁域の森』屈指のモンスター。

 その堅牢な甲殻は戦車砲すらも弾き返す。

 その爪は鋼鉄を通り越して魔法金属——魔力の影響の受けた金属——をも容易く引き裂く。


 俺はそいつを相手に迷わず、切り札を切った。


「『寄生菌』!」


 矢尻が眼球にぶち当たる。

 特訓の甲斐あって、俺の命中精度は本職にも引けを取らないレベルだ。

 しかし。


「眼球で矢尻を受け止めるか!」


 威力が足りない。

 ジョブの恩恵を受けていない人間よりも遥かに強いはずだが、それでもレベル500近いモンスター相手には痛痒を与えるには至らない。

 

「ここは俺に任せろ! 『剛裂』!!」


 闘技スキルを発動。

 赤井さんの持っていた大剣が赤い閃光を纏った。

 そのままソレを、アーマードベアの脳天に振り下ろす。

 空を裂いて唸りを上げる大剣を、アーマードベアはその両腕をクロスさせて受け止める。


 ガキィッ! と強烈な金属音を奏でる両者。

 生物の部位が出す音とは到底思えない。

 

「『エアロ・スラッシュ』!!」


 ミナミが詠唱破棄での魔術を行使して、的確に相手の眼球を狙う。

 しかしそれは瞼を閉じることで防がれる。

 これは柔らかいところを狙うべきだろう。


「甲殻の無いところを狙え! グレン、受け止められるか!?」

「問題なし!」


 赤井さんも同じ結論に達したらしい。

 五メートル近いその巨体から繰り出される拳を、『鉄壁騎士』のグレンさんが受け止める。

 踏みしめた両足が地面を抉り取るのが、拳の威力を物語っていた。


「今だ!」


 各々が自らの最大火力を叩き込む。

 しかしアーマードベアの装甲はいささかも衰えることがない。

 

「くっ、コイツが森の主ならいいんだがな。そうではないだろう」

「となると、下手に消耗してらんねえな」

「もう大丈夫ですよ。そろそろ毒が回るはずです」


 アーマードベアが、悶え始めた。

 そしてそのまま地面を転がる。

 まるで子供が駄々をこねるように、いいや、どちらかというと火あぶりになった人間が地面を転がるようにか。


「何が起きているんだ!?」

「さっき俺が寄生菌が、粘膜から侵入したんです。眼球から入りましたからね。速やかに脳みそに届いたのでしょう」


 そのままアーマードベアはゆっくりと動かなくなっていった。


「ふう。これで第一関門突破ですね」

「頼もしいな。キノコ博士」

「あの毒には限りがあります。そう何回も同じ芸当はできませんよ」

「分かった。細心の注意を払って行動しよう」


 そうして俺たちは森の中へと進んでいく。

 冬獣夏草を求めて。

 ミライを助ける手段を求めて。 



——―――


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貴重な時間を拙作に割いていただき、重ねてお礼を申し上げます。

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