第8話 成果発表
さて、今日はデモンストレーションの日だ。
一応動物実験や犯罪者での実験は行ったけど、普通の人で公開実験を行うのは今回が初めてだ。
一応副作用は生じないように、色々と調整をしたが、それでも少し緊張してしまう。
「よし、行くか」
俺はそうして、デモンストレーションの会場の控室から出る。
そんな俺の横に現れたのは俺と薬を共同開発をした、『秘薬師』のソウイチロウ先輩だった。
「キョウマ君。今日が正念場だね」
「そうですね。この薬で大量のスポンサーを獲得して、より医療薬の研究を進めないといけません」
今回、発表する薬は、微生物の分泌物から取れる代物を薬化したモノだ。
俺とソウイチロウ先輩が必死こいて作り上げたモノだ。
二人とも特別待遇生徒なので、色々と研究を発表しているが今回は規模が違う。
何せ今回の薬は『手足を生やす』ことすらできる薬なのだから。
「皆さん、お待たせいたしました。今回の研究の立役者である二人の登場です」
一斉にフラッシュがたかれる。
まぶしい。
けれどそんな感情は緊張の前ではすぐに霧散していった。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
主に俺が喋り、ソウイチロウ先輩がパワポの操作を行う。
「今回皆様にご紹介させていただくのは、『リム・リバイブ』という薬品です。その名の通り、四肢すらも、あるいは臓器すらも完全に復元可能な薬です」
「今回はデモンストレーションを行うべく、一人の冒険者の方に来ていただきました。こちらへどうぞ」
「よろしくお願いします」
「『緋色の刃』のリーダー、赤井さんです。今回は彼にこの薬のデモンストレーションを行ってもらいます」
現れた筋骨隆々の男性の右袖は、中身が無かった。
片腕を冒険の最中に無くしてしまったのだ。
「まず初めに、皆さんはお手持ちの鑑定スキルで、彼が再生系のスキルを持っていないことを確認してください」
さすがに手足を目に見える速度で生やせるようなスキルを持っていたら、有名人だが、念のためだ。
こうして、指摘されそうな点はあらかじめ潰しておかないといけない。
「この薬は患部に塗る、あるいは投与することで効果を発揮します。では赤井さん。薬を塗ってください」
「分かりました」
彼は片腕を失う前は、大剣を操る『豪剣士』だった。その戦闘能力は四百レベルを超える、相当なモノだった。
四百レベルともなれば、戦車と正面戦闘をして勝利できるほどだ。
しかしそれだけの強さを誇っていようと人間は、人間。
手足を生やすような芸当はできはしない。
そして手足を生やすことができるような術師は、国内に三人しかいないためその治療費も極めて高額だ。
その上その全員が何年も予約待ちを必要としているという現状である。
だからこの薬は革命児足りうる。
成功すればの話だが。
露出され、すでに塞がった断面に薬を塗る。
効果はすぐに現れた。
その断面から水蒸気が上がり始めたのだ。
「ぐぅ……!」
「今回の薬は、使用の際に絶大なカロリーを消費します。平衡開発したカロリー圧縮錠剤を事前に投与していますが、そうでない場合は餓死の危険性がありますのでご注意ください」
「ぐぅ…………!」
断面がボコりと盛り上がる。
そしてズルズルと湿った音と共に、腕が生えていく。
なかなかグロテスクな光景だ。
しかし、これまでの実験通りの光景でもあった。
「「「おお!!」」」
観客や取材班から歓声が上がる。
そして腕は完全に元通りになった。
筋肉量は少ないが、棒切れと言えてしまいそうなほどではない。
そして指先に至るまで完璧に再生されている。
「腕が、腕が動くぞ!!」
少しぎこちなさがあるが、彼の腕は確かに動いていた。
五指も問題なく開閉できている。
「凄い!」
「素晴らしい!!」
「革命だ!」
『鑑定:生物』にランクアップした俺の鑑定スキルで彼の状態を調べる。
うん。少しやせ気味になっているが、許容範囲内だ。神経もしっかり張り巡らされているな。
「腕の調子はどうですか?」
「ああ、問題ない。……ありがとう。本当にありがとう……!」
そう言って、男性は俺の手を無くなったはずの手で握ってくる。
「それでは、質疑応答に移らせていただきます。皆さん、質問のあるかたは挙手でお願いします」
□
「いやー、大成功だったね」
「そうですね。おかげでスポンサーも殺到してますよ」
ひっきりなしになり続けるマギ・フォーンをマナーモードにしながら、俺は独り言ちる。
「これで、彼女を救う術がもっと早く見つけられるはずだ……」
そんな感じで歩いていると、人だかりを見つけた。
女子生徒ばかりだ。いや、男子生徒も何人か紛れ込んでいるか。
「あれは……」
「知らないのかい? 遂に最上級職を十代で手に入れた学生が出たんだって。確か名前は……、そう『ケン』だったかな」
「……ついに『剣聖』に就いたか」
その人混みをするりと流れるように通り抜けて、そいつは俺の目の前に立った。
「よう。キノコ野郎。調子はどうだ」
「……あまりよくないな。彼女の容態は」
「そうか。……急げよ」
「言われなくてもそのつもりだ」
俺たちの会話はこんなものだ。
必要最低限でいい。
何せ話す内容が彼女の事しかないのだから。
「知り合いなの?」
「同郷なんですよ」
二人とも着実に進んでいる。
その歩みはきっと止まることはないだろうと思っていた。
俺たち二人とも。
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