第6話 学院生活
「やっぱり問題は、耐性そのものを低下させてしまう部分だな」
俺はそう呟きながら、本を読みながら歩いていく。
器用に人を避けながら、広々とした廊下を歩いていく。
ここは『ナゴヤ研究育成学院』。
ニホン有数の教育機関兼研究機関だ。
ジョブというチカラによって、個人の能力が世界を左右する時代となった現代において、こうした育成にはどの国も格別に力を入れている。
俺が故郷で買ってもらった、電子教科書もその一環だ。
その中でも『天下六校』と呼ばれる仙台・東京・名古屋・大阪・京都・福岡にある六つの国直属機関は、世界に名だたるレベルだと言われている。
これは六校全てが常にライバル意識を持ち、予算の取り合いという名目でひたすら研究と教育による実績を積むのを重視しているからだ。
俺はそこに特別待遇生徒として入学することとなった。
特別待遇生徒とは、他の学生が中高生のように決められたカリキュラムで学院側が選定したカリキュラムを受けるのに対して、俺は大学生のように好きな授業を受けることができるという違いがある。
他にも自由に使っていい研究資金や、それとは別の生活資金が支給されたりと色々優遇されている立場なのだ。
その分、実績を出さないとそう言ったお金は少しずつ削減されていってしまうが。
無論俺も学習と研究を怠ったことはない。
もらっているお金の量も、学内トップクラスだ。
「おい、見ろよ。キノコ博士だぜ」
「うえ、カビ臭ぇ」
だからこんな陰口も気にならない。
嫉妬ややっかみの類だと受け流せる。
そんなこんなで、気にせず廊下を歩いていると姦しい声が響いてきた。
大勢の女子生徒に囲まれた、剣を腰からぶら下げた筋肉質の少年。
「ケン様! こっちを向いて!」
「ケン様! 私と一緒にダンジョンに行きましょう!」
「ケン君、今日私と一緒にご飯でも……」
「ちょっと、抜け駆けしないでよ!」
ケンだ。
俺と同郷の。
そう、奴もこの学院に入学することができたのだ。
今や剣士系上級職の『剣豪』として、学院内でかなりモテる部類の人間となっている。
理由は二つ。顔と戦闘能力だ。
俺はそのまま奴の隣を通り過ぎようとしたところを、奴は立ち止まる。
「キョウマ」
「どうした」
「ちょっと、ケン君に名前を呼ばれたら敬語でしょ!」
「そうよ、失礼よ! この年で上級職なのよ! 彼は!」
「ちょっと静かにしててくれないか?」
「「「はい!」」」
目からハートマークを迸らせた少女たちの壁を割り込んで、ケンが問いかけてくる。
「調子はどうだ」
「対症療法としては、まずまず。けれど原因治療ができていないって感じだ」
「? もっとわかりやすく言ってくれ」
「そんぐらい勉強しとけよ……。いいか、ミライは今免疫力を含めた耐性が低下している。そのせいで普段他の人がかからないような病気にも感染してしまうんだ。『日和見感染』っていう奴だ。けれどそこら辺の病気に関しては、俺が開発したいくつかのクスリで、対処できている」
「けど根本の免疫力の低下はどうにもならねぇってことか」
「そうだ。……くっそ」
「しっかりしろよ。そこがお前のとりえなんだからよ、キノコ野郎」
「うるせえ、剣一本のバカが」
そう言って俺とケンは通り過ぎていく。
見ての通り、俺とケンは特別仲がよろしいわけではない。けれど時折こうしてミライの容態を聞いてくることがある。
というかアイツも見舞いに行っているのだからその時聞けばいいと思うのだが、やっぱり彼女が話してくれないとかあるのだろうか。
そんなことはさておき、俺は移動を続けて自身の研究室へとたどり着く。
そこには十四歳の俺より三歳年上の少女がいた。
茶髪をウルフカットにした、背の高い女の子だ。
「おや、キョウマ君。ようやく来たかね」
「先輩、今日はどうしたんですか?」
「ちょっと研究成果を見てほしくてね」
彼女の名前は、暮星トオル。
俺と同様に、特別待遇生徒であり、俺と同様にトップクラスの功績を残している生徒だ。
トオル先輩は自然と俺に近寄り、俺の目の前にパソコンを立ち上げた。
「これなんだけどね。私の可愛いゴーレムたちなんだけどね」
「木製ですか。珍しいですね。……うん、木製というよりは木そのもの?」
「流石だね。これはトレントをイメージした、生やして増える植物型ゴーレムなんだ」
「また面白そうなものを作りましたね」
「そうだろう、そうだろう!」
彼女は目を爛々と輝かせながら俺の肩を掴む。
ふわりと鼻腔を彼女の甘い香りがくすぐる。
「こうしたゴーレムを安定栽培することができれば、兵力が増強することができる! この国の都市の安全性はさらに向上するということだ!」
「村とかの安全性も上がりますね」
村は都市と違って、街壁に覆われていない。
その代わりモンスター除けの結界が張ってある。
そうした村に常駐している戦力は村の戦闘職だけだ。
つまりその人口がそのままその村の防衛力に換算されるということだ。
「しかしこれの素体にする中々いい植物が見つからないんだ。竹もいいかなと思ったんだけど、生育が早い分中がスカスカになってしまうしね」
「なるほど、それで『毒茸の叡智』を持つ俺にお呼びがかかったわけですね」
「その通り。君のその年で『
「本当ですか! 有難いです」
そう、俺は既に『キノコ農家』のジョブを最上級職にまで極めているのであった。
ついでに今就いているジョブは『病毒術師』という下級職だ。これは病気を操ることによって相手に状態異常を発生させるジョブだ。
ソレを流用することによって、ミライの病気をどうにかすることができないかと考えたのだ。
「ふふふ、君との研究は楽しみだな」
「そうですね。俺も先輩と研究しているといろんなアイデアが湧いてきて有難いです」
三笠社長の提案を受け入れてよかった。
そうしなければ、生まれない薬も沢山あっただろうから。
「そう言えば先輩、今日はⅡ型で来ているんですね」
「む!? ……やはり君には見抜かれてしまうか。流石だね」
トオル先輩は国内屈指のゴーレム生産者だ。
そんな彼女は自身の技量を高めるために、ゴーレムを自分の分身として移動させることがある。
そんなゴーレムにはいくつか種類がある。
手指の正確な動きとDEXに重きを置いたⅡ型。
戦闘能力に重きを置いたⅢ型。
他にも飛行能力を備えたⅣ型や水中戦に長けた機体も存在している。
ちなみにすべてトオル先輩の姿形をそっくりそのまま象っている。
凄まじい技術力だ。
尊敬に値する。
「次は本体で会おうね。キョウマ君」
「はい。トオル先輩」
そう言って彼女は去っていく。
その寸前でちらりと振り返って、立ち止まった。
その場で少し腕組みをしながら、何かを考え込むようにしている。
「ら、来週の土曜だけど、一緒に研究について話し合わないかい? ああ、なに、大したことじゃない。ただお互い二人きりで話すことによって、何かいいアイデアが湧いてくるんじゃないかと思ってね。そうだ、カフェ巡りを兼ねるのもどうだろうか?それなら息抜きになるから——「すいません、先輩。その日は用事がありまして……」
「……ああ、そうか。お見舞いか。すまない。一人で先走ってしまった」
「いえ。また今度、お茶をしましょう」
「本当かい!? ……失礼。それじゃあ、楽しみにしておくよ」
そう言って彼女は今度こそ去っていった。
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