第2話 研究と発見

 早速俺は研究に取り掛かった。

 まずは大前提となる知識を揃えるために、ミライのお母さんである、『薬師』のアスカさんに弟子入りを申し込んだ。

 そうして、一通りの薬草の知識と共に、危険なキノコや薬用や食用のキノコの知識を教えてもらったりした。


 次に、村の『狩人』や『銃士』など、モンスターの肉を狩ってきたり、採集をする人に頼んでキノコの生えている環境をメモしてもらうことにした。

 村に十台あるマギフォーンの一つに、写真を撮ってもらったり、どんな木の近くに生えているかを教えてもらったりした。

 その手間賃として、獣の解体を手伝ったりした。


 ……多分、俺がいない方がスムーズに解体が進んだだろうから、俺に解体の経験を積ませてやろうという心遣いだろう。

 

 そうしてデータと知識の収集に精を出した。

 そうして半年が経った頃、アスカさんに免許皆伝の証をもらった。

 このスピードははっきり言って異常らしい。

 普通ならば、五年、早くても三年はかかるようなのだ。


 そんな感じで免許皆伝をもらった俺は、父さんと母さんからプレゼントをもらった。

 電子教科書だ。

 マギ・インターネットに接続されているソレは、学校に通えないほど僻地いる子供たち向けに作られた教材だった。

 そこを介して送られるテストに合格すれば、より高度な教科書を読むことができるという代物だ。


 俺は片っ端から教科書を読み漁り、キノコについての知見を深めていった。

 そうして三年経つと、狩人の人たちに同行して、自分でキノコ採集をすることも多くなった。

 取り尽くさないように、一定数を残しながら俺はキノコたちを採集していた。


 そうして採取したキノコから、胞子を獲得して『大工』の宮地さんが作ってくれた養殖小屋で幾つものキノコを栽培していった。

 

 この過程で大いに役立ったのが、『キノコ農家』というジョブだった。

 『キノコ農家』の初期スキルは三つ。

 『鑑定:キノコ』と『成長促進:キノコ』と『生命力強化:菌類』だ。

 特に『鑑定:キノコ』が役に立った。


 『鑑定』スキルは、この世界における人類の叡智そのものに、アクセスするスキルである。

 『鑑定』スキルが高位であればあるほど引き出せる知識も高度になっていき、中にはそれらの叡智から答えを推測してくれるようなスキルもあるそうだ。


 俺の『鑑定:キノコ』はキノコ以外には一切反応しない。

 しかしキノコに関することならば、相当高位の権限で叡智にアクセスできるようだった。流石に答えを自動的に推測してくれるレベルではないが。

 そう言った既存の知識に大いに助けられて、遂に俺は食用キノコの養殖に成功するのであった。


「うっめぇ」

「美味しいわね。『赤肉茸』のクリームシチュー」

「ああ。キノコとは思えない肉感だ!」


 赤肉茸とは、その名の通り肉のような味わいのするキノコの事である。

 モンスターが溢れて魔力が満ちる半世紀前以前は、存在しなかったキノコらしい。

 タンパク質も大量に含まれているため、肉の代わりになるキノコでもある。


「ははは、これじゃあ狩人の仕事は廃業かもしれんな!」

「そんなことないよ。赤肉茸の供給量は限られているし、これからも沢山肉を取ってもらわないと」

「お、そうか? なら頑張らないとな!」


 ちなみに赤肉茸は、村中のみんなに配っている。

 そのお礼で物々交換してもらったりと、我が家はかなり豊かになった。

 この調子で今度はこの村全体を豊かにしてみせる。

 そうしてゆくゆくはもっとビッグになってみせる。


 

 □



「うーん、近くに薬効成分のある木の近くに繁殖することは分かったんだけど、その木を持ち出すことはできないしなぁ」


 俺が次に取り掛かったのは薬用キノコである『青薬茸』の栽培だった。

 このキノコが見つかるのは常に森の奥地で、近くにモンスターがいることが多い。

 そうした危険性があると言えど、その薬効は絶大。

 簡単な傷ならその胞子を振りかけるだけで、すぐに治ってしまう。他の薬草と組み合わせて作られる回復薬に至っては、骨折すらも数時間で治せる代物になる。


 このキノコを安定供給することができるようになれば、大幅に狩りの安全性も不慮の事故の際の応急処置にも使えるようになるだろう。

 そして栽培方法を確立させることができるのならば、俺の名声はひときわ大きく高まるだろう。


 なので是非とも栽培方法を確立したいのだが……。


「うーん、分からん。薬効成分の有るクスリスギの近くに生えることは分かったけど、そのクスリスギの薬効成分は全然大したことないぞ」


 火傷とかに付けるとほんの少し治りが早くなる程度だ。

 とてもじゃないが、天然のポーションと言われる青薬茸のようにはいかない。

 

「一応栽培自体は、クスリスギの丸太を使えばできるけど、それじゃあほとんど薬効成分を持たない個体に仕上がるしな」


 青薬茸の養殖は難航していた。

 

「青薬茸は、クスリスギと共存関係にあるんだよな。そこから何かわからないだろうか?」


 これは『鑑定:キノコ』で獲得した情報だ。

 しかしこれ以上の情報は手に入らなかった。

 つまり人類種が未だたどり着いていない領域であるということだ。


「共生関係ってことは、クスリスギから栄養供給を受けて、青薬茸は成長していく。しかしその成長にクスリスギにもメリットがないといけない。メリットがない単なる寄生ならば、共存とは言わないからな」


 と考えるとクスリスギが切り倒されない、もしくはその生育を手助けするような機能が含まれていると考えたほうがいい。


「クスリスギの薬効は虫よけにもつかわれるんだよな。青薬茸は虫よけのための胞子を分泌している? ……なんか違う気がするな」


 クスリスギ単体の虫よけ効果でも、虫に食べられる心配はほとんどないぐらいだ。

 ソレに青薬茸を追加したところで、意味あるのか?


「むしろクスリスギにとって天敵というべきなのは、知恵のあるモンスターとか人間なんだよな。クスリスギの薬効成分を狙ってくるから。まあ、その心配も青薬茸が生えているならないけ、ど……」


 そうか!

 分かったぞ。


「薬効成分を圧縮しているんだ。そうすることで、薬として使われるのを青薬茸に絞っているんだ!」


 これは良いことに気付いたぞ。

 青薬茸には薬効を圧縮する可能性が高い。

 ならば……。

 俺は小屋を飛び出て、薬師のアスカさんのもとに駆け寄る。


「アスカおばさん! 低級ポーションをください!」

「あら、キョウマ君。どうしたの?」

「青薬茸の養殖ができそうなんだ!」

「えっ!?」


 そう言うと、アスカさんは急いで低級ポーションを用意してくれた。

 ポーションというのは熱を入れると薬効が飛んでしまう。だから煮詰めて圧縮するなんて芸当はできない。

 しかし、青薬茸の養殖が成功したのならば……。

 これは楽しみになってきたぞ。



 □




 結論から言うと、成功した。

 かすり傷を治す程度しか効果のない低級ポーションを、土壌や菌床となるクスリスギの幹にしみこませることによって、その薬効成分を吸い上げる。

 そうし吸い上げた薬効成分を圧縮する青薬茸は、従来以上の薬効成分を発揮した。

 

 俺はこの栽培方法を、電子教科書を通して偉い学者さんにメールで送った。

 するとすぐに返事が来て、その実験を協力させてほしいという旨のメールが返ってきた。


 そこから先はとんとん拍子だ。

 実験がより大規模に行われ。

 その全てで成功して。

 俺は最年少で博士号を手に入れ。

 さらに特許を取得し。


 そして村の名前が『キノコ村』になってしまった。


「えぇ……」


 突然の改名だった。

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