Episode002 討伐の後は

俺たちはその後も色々と言い合ったが、俺たちは仲が悪いということはない。

かと言って、仲が良いだなんて、恥ずかしくて口にできないが。

それに、そう呼べるかどうかは怪しいところではあるし。

言い合いを続けていると、俺たちは魔力が回復してきたから、さっさと冒険者ギルドの職員を呼び、討伐したブトウトカゲの遺体をどうにかしてもらうことにした。

今回挑んだクエストは『街の近くのブトウトカゲの集団の殲滅』というものだったから、最悪の場合は遺体が残っていなくてもよかったそうだ。

だが、『ダークネス・アブソーブ・バースト』は、魔法の対象となった相手の魂と精神を、強すぎる闇で浸食するというものだから、遺体は傷つかないのだ。

おかげで、ブトウトカゲの売却代も報酬に入る。

質がいいヤツだと、1体10万ラエルだったかな……と考えつつ、俺とデネブは街に向けて歩き出す。

がしかし、その直後に言い争いは再開された。


「ねぇ! さっきあたしのこと『致命的な駄メイジ』って言ったの謝って!」

「いや待ってくれ。俺はケルエスでの一般常識を口にしただけだ。謝らせるんなら、俺じゃなくて、そのあだ名を作った本人を吊るし上げるんだな」

「むぅ……、それもそうね。そろそろ探してもいい頃かしら」


そんなことを言いながら、俺たちは平原を去る。

そのとき、向かいから、ブトウトカゲを積む為の荷台を引いた馬車が、俺たちのいる方向に走ってきていた。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「今回の報酬は、クエスト報酬本体が15万ラエル、上質なブトウトカゲの遺体が16体で160万ラエル、1体あたりの処理代で3万ラエルずつ、合計127万ラエルです!」

「「おお~!」」


冒険者ギルドの受付カウンター前で待つこと1時間。

やっと買い取りのアレコレが終わり、報酬がまとまったらしく、このギルドで人気ナンバーワンの受付嬢であるエリサさんが、俺たちに袋を差し出してきた。

これで、今月の冒険者業績ランキングも、俺たちが首位だろう。

俺たちは袋の重みに満足そうな表情を浮かべたまま、周囲の冒険者たちに羨ましがられつつ、ギルドの横の建物にある酒場に入る。

すると、マスターのエル爺さんがすぐに反応してくれた。


「よう兄弟。今日も儲けたみたいだな」

「おうよ。ま、いつも通り、デネブの功績だけどな」

「ちょっと!? そうやって人前でだけ善人ヅラするのやめてくれる!?」


そう言いながら、俺たちはカウンター席に座る。

まあ、酒場に入ったとは言え、俺とデネブは今年で17歳だ。

だから、今日もエル爺さんは、俺たちにジンジャーエールを出してくれる。

コイツは市販のヤツとかじゃなく、エル爺さん特製のヤツだ。

ここでしか飲めないし、エル爺さんが死んだら飲めなくなる一品である。

俺としては、コイツが飲めなくなるのは嫌だが、このレシピを訊いてしまえば、エル爺さんが安心して死んでしまいそうな気がしているから、レシピを訊いたことは一度もない。

それはそれとして、俺とデネブは、さっそく今日受け取った金の配分を話し合うことにした。

結果はだいたい見えているんだけど。


「なあ、今日の報酬だけど、俺3割でデネブ7割でいいよな?」

「ええ、いいわよ」


そう言って、デネブは俺に38万ラエル渡してきた。

やはり、どうしてか金を多く受け取りたがるらしい。

こりゃ、ますますデネブの前世がドラゴンだった気がしてきて仕方がない。

ドラゴンには光るものを集める習性があるらしいし、そもそも、『ダークネス・アブソーブ・バースト』は、ドラゴンが使ってたって言われてるしな。

かと言って、そういうところからデネブを差別しているヤツはいないのだが。

流石に俺だって、コイツが差別されることは擁護するつもりはない。

その場合にどうなるのか分かんないから何もしないって言うんなら、それは大層な臆病者だと俺が笑ってやる。

……まあ、俺はデネブがドラゴンの生まれ変わりでも、気にする気はないが。


「……これであと少しね」


俺はデネブのその一言で、思考の深みに沈んでいた意識が戻る。

どうやら、俺にしては珍しく、変に深く考えてしまっていたらしい。

そんなこともあるんだなー、と思いつつ。


「どした? 何があと少しなんだ?」


俺は今のデネブの言葉について訊いてみることにした。

そういうことについて質問することが野暮だというのは、俺だって分かっている。

だが、ここでどう反応を示すかによって、一体何がそうなのか分かるものだのだ。

半年も一緒に冒険者をやっていれば、幼馴染じゃなくたってそうなるだろう。

……いや、俺とデネブが幼馴染だから、そのことに関しては証明できないけど。

と思いながらどう反応するかワクワクしていると、デネブはそっぽを向いて。


「べ、別に。……あたしの買いたいものが買えるようになるだけよ」


ただそれだけ答えた。

どうやら、俺へのプレゼントとか、そういうのではないらしい。

やはり、最強の魔法を使っても批判的なことを言う相棒なんぞに、プレゼントやら何やらを期待するだけの権利はないのだろう。

でもねぇ、俺としても、幼馴染だからイジれるとか、そういう感覚で言ってるワケじゃないんだよな。

例えば、俺が不意打ちをくらって死んだとして、そのとき、コイツにどうにか逃げ切れるだけの体力や筋力、その他諸々はない。

その辺のステータスの不足だけじゃ飽き足らず、家事や楽器の演奏、勉強も苦手、という面から、『致命的な駄メイジ』と言われるようになったのもあるしな。

だからこそ、一人前に『ダークネス・アブソーブ・バースト』が使えるようになってほしいものなんだけどね。

コレを言うのは恥ずかしいから、まだ言うに言えてないのは秘密だ。

おっと、また思考が深みに嵌りかけていた。

何だか今日は、変に考えすぎてしまうことが多い気がする。


「ふーん、そっか。頑張ってるんだし、いいんじゃないか?」


俺は何も返さないのはいけないんじゃないかと思い、そう返しておく。

つっけんどんな、というか、突き放すような口調になってしまった気はしたが、後半の言葉で何とかカバーできた……はず。

デネブが少しピクッとしたのが気になったが、傷ついただろうか……?

やっぱ、コイツが本気で傷つくことはあんまり言いたくないなぁ……。


次回 Episode003 気まずさ、そして、葛藤。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る