致命的な駄メイジ!~幼馴染が最強の暗黒魔法の使い手ですが、俺がいないと何もできないので、一緒に世界最強を目指します~

ブサカワ商事

第一部 駄メイジ

第一章 ハジマリ

Episode001 駄メイジ(意味:ダメな魔法使いのこと)

俺たちは、モンスターと呼ばれる、異形の怪物たちと戦う。

その理由は、富や名声を得たいからだったり、単純に世界を守りたいからだったりと、人によって十人十色で分かれる。

そのくらい多くの人が、武器や技術を身に着けて戦う。

日常のように思えるその光景は、昔は普通のことじゃなかったらしい。

だが、こうやって時代が積み重ねられてきている今となれば、俺たちみたいに、生まれる前からこの状況だったヤツとしては、当然のことのようにも思える。

だからこそ、俺は平和な時代ってヤツを見てみたい。

あと、楽しそうだし、有名になってみたい気もするし……と思い、俺は今、幼馴染と一緒に冒険者をしている。


「……セイッ!」


俺の放った横薙ぎの一撃が、デカいトカゲみたいなモンスターの首に命中する。

コイツはブトウトカゲとかいい、武術に似た技で戦ってくる。

しかも、集団行動を基本としていて、数匹で飛び掛かってくるのだ。

結構面倒な相手だが、俺たちみたいに、冒険者になって半年経ったヤツからしてみれば、ちょうどいい相手と呼べるくらいでしかない。

だから、俺はさっさとケリをつけるべく、こうして、統領を相手している。

何でも、コイツ等は、統領が1対1をしているとき、どうしても動けないらしい。

統領になるブトウトカゲが真剣勝負を望むことから、そういう風習なんだろう。

あと、統領が倒れさえすれば、集団は解散するらしい。

俺としては、そんな野生の本能で行われていることが、本当に助かっている。

何故なら、俺がこうしているのは、意外と時間稼ぎの意味が大きいからだ。

俺の後ろでは、幼馴染が、杖を構えて詠唱をしている。


「『深淵の奥底に眠る力の根源は、我が欲望の化身。言わば我が分身』……」


お、どうやら、もう詠唱は終盤に入っているらしい。

約1分に及ぶ大詠唱は個人戦なら圧倒的に不利だが、こうして俺が時間稼ぎをして、その間に魔法を完成させてくれれば、一瞬で蹴散らすことができるのだ。

その戦略は、別に流行っているとか、普通なんてことはない。


何故なら……俺の幼馴染は、世界で唯一、最強の暗黒魔法を習得した魔法使いなのだから。


「ギウス! もう放つよ!」

「おう! そろそろお前の実力を見せつけやがれ!」


激励するように、統領との闘いのイライラをぶつけるように――たぶんどっちの意味もあるように、自分の中で思った――、俺はそう叫ぶ。

そして、剣で統領を薙ぎ払うと、俺は勢いよく後ろに跳んだ。

次の瞬間、この世界で最も威力の高い魔法が放たれた。


「『ダークネス・アブソーブ・バースト』!」


アイツがそう叫ぶと同時、15匹くらいのブトウトカゲの集団を、地面に現れた紫色の光を放つ魔法陣が包み込んだ。

そして、天高く、深淵から直接持って来られたとすら思えるような漆黒の柱が、今日も突き立つのだった――。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * *


……そして俺はいつも通り、地に伏して、力なく幼馴染を見つめる。

感謝とか、尊敬とか、そういうのではなく。


「……お前、またやってくれたな」


……怒り半分、呆れ半分の表情と声で。


「しょうがないじゃない。だって、あたしの魔力だけで発動できるようになるまでに、少なくともあと5年はかかる予定なのよ?」

「いや、それさっさとどうにかしてくれよ。このままだと、『世界最強のデネブ様』の称号は永遠にお預けだぞ?」


そう言い返すと、幼馴染――デネブは悔しそうな表情をする。

俺はそんなソイツと少し睨み合うと、またいつものように、2人して肩の力を抜く。

さっきまであんなことを言っていた俺がこんなことを思うのは自分勝手だろうが、俺は意外とアイツの魔法を頼りにしているし、何より信用している。

だが、やはりデメリットがあるらしく、それは、『バカみたいな量の魔力を必要とすること』なのである。

具体的にどのくらい必要なのかは全く分かっていないが、俺とデネブ、両方の魔力を枯渇させてやっと発動させることができるくらいらしい。

そもそも、アイツが習得するまで、誰も習得することができなかったんだから、どのくらいの魔力が必要かなんて、知り得るはずがないのである。

とりあえず、今日も魔力が回復するまでどうにもできないから、愚痴るようにして、アイツに色々と言いがかりを投げつけるしかない。


「……はぁ……。俺は構わないんだけどさ、お前、そろそろ街の連中から『致命的な駄メイジ』って呼ばれてるの、理解した方がいいんじゃないか?」

「なッ、フツー、今ここでソレを口にする!?」


デネブは、俺がいつものように狙った通り、頬を膨らませ、面白い怒り顔をする。

俺が投げかけた言葉――『致命的な駄メイジ』というのは、俺たちが拠点としている街『ケルエス』の冒険者たちの中での、デネブの呼ばれ方だ。

どうしてそんな名前がついたのか説明するとすれば、誰かが「アイツの魔法、一人で何発も放てるんなら、魔王軍にも致命的なダメージを与えられるのにな」と言ったところ、他の誰かが「まあ、アイツ自体が『致命的な駄メイジ』って呼べるけどな!」と、そう酒の席で話していたことが発端らしい。

俺はその件には関わりはないから、初めて聞いたときは吹き出しそうになった。

幼馴染が変な呼ばれ方をされていると聞けば、普通の人は怒るのかもしれないが、別に俺はそんなに気にしていなかった。

冒険者相手にそんなことで怒っていてはキリがないと考えた面もあるが、アイツがどんな呼ばれ方をされていようと、虐められていないのならそれでいい。

いや、十分にイジメかもしれないが、俺はそうは思っちゃいない。

何せ、その呼び方を最初に俺たちに伝えたヤツとすら、結構仲良く……と呼べるのかどうかは微妙なところだが、ワチャワチャしているしな。

だから俺は、この楽しい冒険者生活に免じて、それを許しているのだった。


次回 Episode002 討伐の後は

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