第12話 日向、絶望する

「大好きな彼氏がさ、他の人と仲良くしてたらショックだもんね」


 姫野の言葉に、心臓にぶすりとナイフを刺されたような痛みが奔った。


 むしろ、本当に刺された方がマシだったかもしれない。それほどの痛みが、日向を襲っていた。


「彼氏の子に、何か誤解されるような──」

「──じゃない」


 姫野の言葉を遮る日向。

 姫野は口を閉じて、日向が続きを話すのを待つ。


「誤解じゃないっ!」


 日向は叫ぶように真実を話す。


 もはや姫野の言葉など、日向は聞きたくなかった。彼女の正論を聞いているだけで、心が苦しい。痛い、取り出して握りつぶしたいほどだった。


「だって、隆弘君を裏切って浮気したのは本当だもん」


 日向は自暴自棄になっていた。自分を案じてくれた姫野に対して、日向は嘲笑している。色々と、どうでもよくなっているのだろう。


「というか、隆弘君のことなんて元から好きじゃないし」

「え、ど、どうして……」

「だって、松田先輩の方が隆弘君よりもカッコ良かったんだもん。美味しいご飯に連れて行ってくれるし、エスコートだって上手だったんだから仕方ないでしょ……」


(そうだよ、姫野さんだって私と同じ立場なら、絶対に浮気してたよ)


 日向の言葉に口を閉ざしてしまう姫野だったが、少しして口を開いた。


「じゃ、じゃあ……今は、松田先輩のことが好きなの?」

「…………そうだよ」

「じゃあどうして、そんなに辛そうな顔をして──」


「うるさいなぁ! なんだっていいじゃん……というか、姫野さんはなんなの!? そうやって、クラスのみんなみたいにヒナタのことをバカにして楽しい? そりゃあ、楽しいよね!」


「ち、違う……私はそんなつもりじゃ……」


 瞳を潤ませて、声を震わせる姫野さんを見ていると、余計にイラだった気持ちが止まらなかった。


「ヒナタみたいに可愛くて、成功してる人間が失敗したら、みんなそうやってすぐに色々と言ってくるもんね! もうほっといてよ!」


 日向はそう吐き捨てて、どこかに逃げてしまう。日向の視界にチラッと写る姫野の表情は見えなかった。八つ当たりして彼女を傷つけてしまったのは、日向にも分かっている。それでも、「ごめんなさい」の一言が、日向の頭の中にはなかった。


            ※


 あてもなく廊下を歩く日向。


(どうしてこんなことになっちゃったの……)

 

 自問自答を繰り返しても、答えは出ない。


(ゆうと君と遊んだのがバレちゃったし、隆弘君と……)


 そこで何かに気づいたように、ピタッと止まる日向。


「そっか、そうじゃん! 隆弘君は、あの写真のことをまだ知らないじゃん!」


 日向の胸の内で、希望が生まれた瞬間だった。

 隆弘の元に、あの写真が渡るのは時間の問題だろう。 

 なら、例の写真が渡る前に、自分が被害者であること、反省していることを説明すればいいと思ったのだ。


「結月なんかと仲良くしたのも謝ってもらってないし、隆弘君と早く話をしないと……」


 日向は、隆弘がいるであろう園芸部の花壇へと向かうことに決めた。隆弘がいるか確認するために、日向は校舎の窓から花壇を見下ろす。そこには予想通り、ホースをで水やりをする隆弘の姿があった。


「あ、隆弘く──」


 声をかけようとした日向だったが、そこで口を閉ざしてしまった。

 隆弘の元に、結月が現れたからだ。結月は楽しそうな表情で、花壇の縁に溜まった雪を固めて、隆弘にぶつける。すると、負けじと隆弘も雪玉をぶつけてと、楽しそうにじゃれ合っている。


 その光景に、日向は頭が真っ白になった。 


 そして、結月が何かに気づいたように顔を上げようとした瞬間、日向は顔を下げた。膝を抱えて、校舎の陰に隠れる。


(なんで、日向が結月なんかに隠れないといけないの……これじゃいつもと逆じゃん……)


 今までは日向がいると、結月が居心地悪そうにしてどこかに行ってしまう。今回は、日向が結月を避けるようにして隠れてしまった。


(結月がいると、誤解だって伝わらないかも……ヒナタだって冷静に話せないかもだし、もう少し後でも大丈夫なはず……)


 そう自分に言い聞かせて、日向は早退した。


 その日の放課後、隆弘から日向にメッセが届く。


 ──二人のこれからについて、大事な話がしたい


──────────────────────────────────────


 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


近況ノートにも記載しましたが、この続きの話(13話)が間に合わなっかったので、本日(12/02)の更新はお休みです、スイマセン。

 明日、二話投稿にしますのでよろしくお願いします。


 十三話──妹の分際で私だけの大切を奪おうだなんて

→12:24投稿


 十四話──隆弘と結月のデート① 

→21時台を目安に投稿

 

上記の予定です、お願いします。

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