第5話 間男の歪み切った思想

「や、そこだめ……っ! んっ! だめだめっ……!」

「そう言って、ここがいいんだろっ!」

「んんんんんんんっ!? 奥だめ……っ!」


 男は、脳内に広がる麻薬のような快楽で頭がしびれていた。本能に任せ、ひたすらに腰を振る。


 彼の名前は、松田ゆうと。

 隆弘たちの通う高校の一個上の先輩であり、有名人でもある。


 なぜならゆうとは、高校生でありながら役者・俳優を務めているからだ。朝ドラで一気に脚光を浴び、そこからはとんとん拍子で売れていった。顔も良かったゆうとは、モデルとしての仕事もこなすようになり、現在は2.5次元の舞台を中心に活動している。


 今、彼の目の前では 女子高生ミスコンでグランプリを獲得した女子──黒沢日向くろさわひなたが、動物のような格好で無様におしりを突き出していた。


 ホテルに来るのは、別に今日が初めてじゃない。

 だというのに、堪えても、堪えても、笑いが止まらなかった。

 日本で一番の女子高生が自分の前で屈服しているのだ。世界に一つしかないトロフィーを手にしたような、勝利の感覚があった。


 ゆうとは、日向の柔らかい身体を堪能しながら、彼女の元カレのことを考えていた。


(あの陰キャ、今頃どんな顔してるんだろうな)


 絶望に染まった顔をしているのだろうか。

 それとも、激情でその身を焦がしているのだろうか。


(今度会ったら、このトロフィーの体の良さについて教えてやってもいいなァ……)


 膝をついて泣き崩れるだろうか。

 それとも、全てを信じられなくなって不登校になるだろうか。


 その時を想像しただけで、ブルンと体を震わせるゆうとはイキそうになってしまった。

 実際、ゆうとは誰かを寝取るのが初めてじゃないのだ。

 

 一年ほど前。

 ゆうとは人の彼女を始めて寝取った。美容師志望の女子大生とそんな彼女を応援する陰キャ男子。二人は幼馴染カップルで、将来はお店を持つことが二人の夢だと言っていた。


 ゆうとは嬉々として、それをビリビリに引き裂いたのだ。


 優しく接し、俺が悪いんだと言い訳を用意してあげて、仕事で得たお金で良い思いをさせてあげたらすぐだった。挙句の果て「あんなのが彼氏だったんて人生最大の汚点」「私の運命の相手はあなた」と言うのだから、ゆうとは笑いをこらえるのに必死だった。


 そしてとめどは、彼氏相手に彼女とのハメ撮り動画を送ってあげた。


(あの時の陰キャ男子君の泣き崩れた顔が忘れられないんだよなぁ……!)


 恍惚とした表情のゆうとは、口の端から零れそうになる涎を慌てて拭う。


 寝取った女性の体の柔らかさを堪能しながら、寝取られた男性に追い打ちをかけるのが、ゆうとにとって最高の幸せを感じ取れる瞬間だった。


(そういう意味では、全ての女性は俺に寝取られるために存在してるもんだよなぁ。人生って最高だぜ!)


 最も、ゆうとにも気になることはあった。


(この女、やけにチョロかったんだよな)


 日向を寝取ろうと思った時、ゆうとは慎重に事を進めるつもりだった。相手は芸能人だからガードが堅い上に、彼氏持ち。だと言うのに、連絡先はすぐに教えてくれるし、食事に誘えば簡単についてくる。キスだってあっさりとできた。勿論、その先も。しかも反応を見る限り、両方初めて。


 その理由を、ゆうとはなんとなくでだが気づいている。


(元々、彼氏のことが好きじゃなかったんだろうな。それと、自分が世界の中心にいないと気が済まないタイプ)


 高校生ながら俳優を務めるゆうとは、様々な性格を持った人物を演じてきた経験から、他者の性格を読むことに非常に長けていた。


(だからこそ、こんな簡単にヤレたわけなんだが……)


 こういうタイプは、お姫様扱いで自尊心を満たしてあげて、都合の良いことを言っておけばすぐ。そう分析した結果、ゆうとの思い通りにことは進んでいたのだが。


(もう一つの疑問は、このバカ女が、なんであんな陰キャと付き合ってたのかってことなんだが……)


 ぼんやりと考えるゆうとだったが、その思考は、日向の「もっとぉ……」という声にあっさりと上書きされてしまう。この世界に一つしかないトロフィーで、自分の欲望を満たすことでゆうとの頭はいっぱいになってしまったのだ。


 それから少しして。

 お互いが余韻に浸っていた時、ゆうとは日向の体を見ながらふと思った。


(そういえば、コイツには妹がいたよな)


 姉の日向に比べて地味ではあったが、血が繋がっているだけに、よくよく見れば容姿はそんなに悪くなかった。何よりも。


(コイツとは比べ物にならないくらいに、胸がデカいんだよな)


「確か、名前は結月だったか……?」


その瞬間、日向の顔が嫌悪感丸出しになった。聞かないでも分かる。私といる時に、他の女の名前を出さないでよって態度だ。最も、妹の名前を出された時の姉の表情でもないのだが。「ごめん、ごめん」と言って、ゆうとは日向のおでこにキスをする。


「ほら、前に妹がいるっていってただろ。どんな子かなーって、ちょっと疑問に思っただけだよ」

「ん~、結月はね、地味すぎてキモいかな? ヒナタってそんなに可愛いくないのにさ~、私よりも可愛くないんだよ、流石にヤバいでしょ?」

「大丈夫、日向は可愛いよ」

「え~、そんなことないって。まぁ、みんながそう言ってくれるから~」


 気分よく話す日向の話を聞き流しながら、ゆうとは改めて日向の体を眺める。


 姉の日向は容姿こそいいが、発育は貧相だった。

 妹の結月は地味だが、発育の良さには目を奪われるものがあった。


 その時、ゆうとにとって聞き逃せないことを日向が話した。


「あ、そう言えば結月はね、隆弘君のことが好きなんだよ。二人は幼馴染で──」

「──っ!」


 その瞬間、ゆうとの頭に電流が奔った。


(なんてこった! もう一度、あの陰キャ男子から女を寝取れるのか!)


 ゆうとの頭の中はこうだ。

 大好きな彼女を寝取られ、絶望にいる隆弘をきっと結月は励ましているのだろう。 

 そして二人がいい感じになった頃を見計らって、自分が結月を奪う。


 彼がどんな表情をするのか、ゆうとは今から楽しみで仕方なかった。


(そしたら、姉妹二人のケツを並べて絶対に一晩中過ごす)


 その瞬間を想像しただけで、全身の血流がかっと逆流した。

 とりあえずは、このトロフィーで一時的に熱を鎮める。そう決めて、日向の体に再び手を伸ばした。


(そして最後は、二人とのハメ撮り動画を送ってあげれば……)


 ゆうとは、自分が失敗するとは微塵も思っていなかった。その傲慢さが、取り返しのつかないことになるとは知らずに。


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 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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