第4話 スキル

 宿に戻り、簡素な食事を取った後、リックが話しかけてきた。

「お前、思ってた以上にやれるな。本気で俺と組む気はないか?」


「まだわからないですが……でも、もっと知りたいです。この世界のことも、自分のことも。」


 リックは笑い、肩を軽く叩いた。

「いいだろう。しばらく俺が鍛えてやるよ。相棒として、な。」


 俺はその言葉に軽く頷いた。こうして、この世界での生活が本格的に始まったのだった。


 宿のベッドに横たわりながら、俺は考えを巡らせていた。この世界に転生してからわかったことは、俺がこの「分析スキル」を使いこなせれば、単なる旅人以上の存在になれる可能性があるということだ。


 だが、問題はそこに留まらない。このスキルの真価はまだ掴めていない――そう感じていた。特に、スライムとの戦闘中に頭の奥から響いた言葉、「さらなるスキル解放には条件を満たせ」という謎の声が気になって仕方がない。


「条件ってなんだ……?」

 ぼそっとつぶやき、手の甲に浮かぶ緑と金色の紋様を見つめる。この模様が、俺の運命を握っているような気がしてならない。


 翌朝、リックと共にギルドへ向かおうとしていると、村の北門近くが妙に騒がしいことに気づいた。村人たちが口々に何かを叫び、顔を青ざめている。俺たちが近づくと、門番が慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。


「リック!あんたに頼みがある!北のダンジョンから魔物が出てきて、村の近くまで来てるんだ!」


「ダンジョン……?」俺が首をかしげると、リックが簡単に説明してくれた。

「ダンジョンってのは、この世界じゃ当たり前の存在だ。中にはモンスターや宝物が眠ってるが、こうして時々魔物が外に漏れ出すことがある。」


 門番は続けた。

「今のところはまだ下級の魔物だけだが、これ以上放置すればもっと危険な奴らが出てくるかもしれない。冒険者の手が足りなくてな、助けてほしいんだ!」


 リックは一瞬考え込み、俺に目を向けた。

「お前、どうする?危険だが……ダンジョンってのは、力を試すにはうってつけだ。」


 俺は迷わなかった。この異世界で生き抜くために、力をつける必要がある。そして、ダンジョンには俺の「分析スキル」が役立つ場面が多いはずだ。


「行くよ。必要なら力を貸す。」


 北門を抜け、リックと共に北へ向かうと、鬱蒼とした森の奥に岩肌が剥き出しの崖が見えた。その中央にぽっかりと開いた洞窟が「ダンジョン」だという。近づくにつれ、冷たい空気と不気味な静けさが漂ってくる。


「ここが北のダンジョン、『影狼の巣』だ。名前の通り、中にはシャドウウルフをはじめとする獣型の魔物が多いらしい。気をつけろよ。」

 リックが剣を抜きながら注意を促す。俺も緊張感を抱きつつ洞窟の入口に足を踏み入れた。



 洞窟内に入ると、薄暗い通路が続き、時折、壁に埋め込まれた水晶がぼんやりと光を放っている。自然の岩肌と人工的な痕跡が混在しており、どうやらこのダンジョンは長い間放置されているようだ。


「分析スキル」を発動して周囲を確認する。視界に文字情報が浮かび上がった。


[ダンジョン分析]

 名前:影狼の巣

 階層:3階層構造

 主な魔物:シャドウウルフ、ダークバイパー

 トラップ:毒矢、落とし穴

 希少アイテム:月光石(第2階層以降)



「3階層か……慎重に進めば攻略できそうだな。リック、トラップがあるみたいだ。特に毒矢と落とし穴に気をつけて。」


 リックは少し驚いた様子で頷く。

「そんなことまでわかるのか。やっぱりお前のスキル、ただの知識じゃねえな。」


 ダンジョンを進むうちに、最初の魔物「シャドウウルフ」が姿を現した。暗闇に紛れる黒い毛並みと鋭い赤い目が、敵意をむき出しにしてこちらを睨んでいる。


「来るぞ!」リックが剣を構える。俺も分析スキルを発動した。

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