第3話 旅
リックと共に、森を抜けるための旅が始まった。焚き火を後にし、リックが指し示す北の方向へ進む。途中、彼からこの世界の基本的な情報を聞き出しつつ、自分の中で整理していく。
「この世界の名前はエルデリア。俺たちがいるのはベルディア領だ。この領土にはいくつかの村や町があって、冒険者ギルドもいくつか存在している。」
リックの説明によれば、冒険者という職業はこの世界ではごく一般的らしい。ギルドが発注するモンスター討伐や素材収集の依頼をこなし、生計を立てる仕事だ。だが、それと引き換えに命の危険も伴う。
「ギルドが仕事をくれるのはありがたいが、報酬は安いし、スキル持ちじゃないと厳しいのが現実だ。」
リックの言葉に苦笑いを浮かべながらも、心の中で考える。自分がこの世界に転生して得た「分析スキル」は、もしかしたらこの世界でかなり役立つのではないか?戦闘能力はないが、戦略的なサポートなら可能だ。
森を抜けるまで、完全に安全というわけではなかった。次に現れたのは「スティンガーベア」という巨大な熊型の魔物だった。全身に毒針のような毛が生えており、見るからに危険だ。
[分析結果]
名前:スティンガーベア
ランク:C
特徴:毒針による広範囲攻撃
弱点:腹部の毛が薄い部分
「弱点は腹部だ!正面から攻撃するな、回り込め!」
リックは俺の指示に従い、素早く熊の背後に回り込む。だが、スティンガーベアは驚くほど敏捷で、振り返りざまに鋭い爪を振り下ろしてきた。
「くそっ、思った以上に速い!」
俺は咄嗟に地面に転がっていた石を拾い上げ、熊の顔に向かって投げつけた。狙いは目。奇跡的に命中し、熊が一瞬怯む。その隙にリックが素早く剣を腹部に突き立てた。
スティンガーベアは耳障りな咆哮を上げながら倒れた。リックが剣を抜き、息を整える。
「お前、ただの旅人じゃないな……どんな状況でも冷静だし、弱点を正確に指摘してくる。」
「まあ、昔から観察力だけは自信があるんです。」
リックはしばらく俺を見つめた後、ふっと笑った。
「お前、俺の相棒にならないか?こんなスキルを持った奴は見たことがない。」
相棒――その言葉に少し心が揺れたが、まだこの世界で何をすべきか明確ではない。
「ありがとう。でも、まずは村まで行きましょう。考えるのはその後です。」
森を抜けると、視界が急に開けた。遠くに小さな村が見える。木造の家々が立ち並び、煙突からはかすかな煙が上がっている。村の周囲には簡素な木柵が設けられており、いくつかの農地も広がっていた。
「ここがベルド村だ。まあ、見ての通り小さな村だけどな。」
リックが門番に軽く挨拶を交わし、俺も後ろからついていく。村の中は素朴で静かだが、どこか活気がある。行商人らしき人物が荷車を引いて歩き、子供たちが元気に走り回っている。
「宿に行く前にギルドに寄る。少し金が必要でな。」
リックに続いてギルドの建物に入ると、そこは活気のある場所だった。木製のカウンターが設けられ、数人の冒険者らしき人々が酒を飲んだり、依頼を確認したりしている。
リックが受付の女性に話しかけている間、俺は掲示板を眺めた。そこには様々な依頼が貼り出されている。
掲示板に並ぶ依頼の中には、明らかに初心者向けと思われるものから、命がけの高ランク依頼まで幅広く掲示されていた。
「ゴブリン討伐」「薬草の採集」「盗賊の排除」……興味をそそられるが、いずれも自分には荷が重い。武器も防具もなく、戦闘スキルも皆無な状態では選べる仕事がない。
リックが受付から戻ってきて俺に声をかけた。
「金が入った。今日は宿に泊まれるな。」
「助かります。ところで……俺でもできるような依頼って何かありますかね?」
掲示板を見ながら問いかけると、リックは少し考え込んだ後、肩をすくめた。
「初心者向けの採集系依頼ならどうにかなるかもしれないが……お前一人じゃ危険だ。俺がついていれば別だがな。」
「それなら、相棒として試しに一緒に行動してみますか?」
思い切って提案すると、リックは目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「面白いな。じゃあ、腕試しといこう。」
リックと共に掲示板から依頼を選ぶ。内容は「村近くの山道で採れる薬草を10本集める」というもの。報酬は少ないが、戦闘が避けられる可能性が高い。俺にはぴったりだ。
「簡単そうに見えるだろうが、甘く見るなよ。このあたりの山道にはスライムや小型の魔物が出る。」
「スライム?ゲームでお馴染みのあれですか?」
聞き慣れた単語に反応すると、リックは呆れたように笑った。
「ゲームのスライムがどんなもんか知らないが、こっちのスライムは毒を持つこともある。油断するなよ。」
依頼の指定場所に着くと、確かに薬草らしき植物があちこちに生えている。薄い青い花が特徴的だ。俺は「分析スキル」を使い、薬草の正確な種類や効果を確認しながら採取を始めた。
[分析結果]
薬草の名前:ミスティル草
効果:軽度の毒消し、傷の治癒促進
「これが目的の薬草か。効能までわかるなんて便利なスキルだな。」
リックが感心したように声を上げる。しかし、安心したのも束の間、低い音が耳に響いた。振り返ると、スライムが数匹、じりじりとこちらに迫ってくる。
「出たな。油断するなよ。」
リックが剣を抜き、前に出る。俺は冷静に分析スキルを使った。
[分析結果]
名前:ポイズンスライム
ランク:E
特徴:粘液に軽度の毒を含む
弱点:炎、急所への衝撃
「火が弱点だ!でも炎を使えないなら、急所を狙って強い衝撃を与えるしかない。」
リックはスライムに接近し、剣で斬りつけるが、粘液に弾かれたようだ。スライムは形を変えながらリックに襲いかかる。俺は辺りを見渡し、何か使えそうなものを探す。
そして目に入ったのは、尖った石と乾いた枝。火がないのは惜しいが、手をこまねいている暇はない。俺は急いで石を拾い、全力でスライムの中心に投げつけた。
狙いは正確だった。石がスライムの急所に直撃し、ぷしゅっと音を立てて崩れ落ちる。
「やるじゃないか!」
リックが驚いたように振り返る。だが、まだ数匹のスライムが残っている。リックは剣で応戦し、俺は投げられるものを駆使してサポートする。息を合わせた連携で、どうにかスライムたちを全滅させることに成功した。
薬草を全て採取し、村に戻る頃にはすっかり日が暮れていた。ギルドに戻り、採取した薬草をカウンターに提出すると、受付の女性がにっこりと微笑んだ。
「初めての依頼ですね。お疲れ様でした。」
報酬として受け取ったのは銀貨数枚だが、俺にとっては大きな成果だった。自分でも異世界で何かを成し遂げられるという手応えを感じたのだ。
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