外伝4〜萌編〜

第12話

その女の子は、オレにとってヒーローだった。


格好良くて、逞しいその存在は、オレの心をあっという間にかっさらっていった。



「こらー!よってたかって、イジメるなー!!」


「やべぇ!カイジュウくるめがきたぞ!」


「カミつかれる前に、にげろー!!」



オレの前に立つその背中は、とても大きく見えた。

これは、くるめとの初めての出会った頃の話。




✳︎




「ーーっ」


「あ、ごめんね」



辿々しい手で、オレが怪我したところに、ヒーロー柄の絆創膏を貼る小さな女の子。



「痛い?」



心配そうに、オレの顔を覗き込む。オレは安心させるため、いつもの笑顔で答える。



「ううん。だいじょうぶ」



“だいじょうぶ”と答えたのにも関わらず、じーっとオレの顔を見つめて、何を思ったのか、怪我した場所を突っついた。



「いっ!!!」


「痛いときは、痛いって言わなきゃダメだよ。くるめも、良く強がるけど、お母さんに『ガマンはダメ』って言われる」



そう言って、怪我した場所を両手で包むと、おまじないを唱え始めた。



「痛いの痛いの飛んでいけ〜!」



そして、何故だか嬉しそうに笑うくるめを見て、オレも吊られるように笑った。




「あ、笑った!」



その反応に、“ああ、またか”と、心に影が差す。



「......キミも、変だと思う?みんな変だって言うんだ。何をされてもオレが笑うから。その笑う顔が変だって」


「うん。変」


「ーーは、はっきり言うんだね」


「変だよ。痛いのに我慢して笑う顔は。でも、さっきの笑顔はステキだったよ。いつもそうやって、笑えば良いのに」


「でも、お父さんやお母さんに『だいじょうぶだよ』って言って、こういう風に笑うと安心するんだ。『いい子だね』って、ほめてくれるんだ」



いつからだろう。無理に笑う様になったのは。

いつからだろう。両親に関心を持たれなくなったのは。

ずっと、周囲の人の反応を気にして、勝手に怯えて。

これ以上、嫌われたくない。オレの存在を忘れて欲しくない。

だから、取り繕って、笑う。

それが一番平和だから。



「へー」


「へーって、そうだよね。キョーミないよね」


「うん。くるめ、キョーミないから。お母さんが言ってたよ『よそはよそ、うちはうち』って。くるめが、キョーミあるのは、今日の晩ご飯」


「今日の、晩ご飯......」


「そうだよ。それに、くるめが君だったら、ガマンできない。ムリ。だから、できる君はエライ!スゴイ!」



くるめは、拍手をするとオレの頭を「いーこ、いーこ」と、言いながら撫でる。



「......オレが、えらいの?......すごいの?」


「うん!だって、お父さんとお母さんのために、いーーーっぱい、ガマンしてるんでしょ?」



くるめの言葉に、オレは酷く安心した。

ようやく、誰かに存在を認められた気がして。

今までしてきたことが、凄いことなんだと褒められて。

オレが欲しかったモノを全てーーくるめがくれた。



「ふっ......____うわぁあああ!!!」



きっと、頭を撫でるその小さな手が暖かかったからだろう。

オレは、久しぶりに大泣きした。

泣き止むまで、ずっとくるめは頭を撫でてくれた。



「だいじょうぶ?」



キラキラと、輝く瞳がオレを見つめる。

沢山泣いたからか、心がスッキリしていた。

もう、本当の気持ちを言っても平気な気がする。



「ーーっ、うん、もう、だいじょうぶだよ」



今度こそ、ちゃんと笑えた気がした。


それからはーーお互いの自己紹介をして、

好きな物、興味があることを、ひたすら喋っていた。

時には、ふざけて遊んだりして、笑い合って。


家に帰ってからは、好きなことに打ち込むことにした。

色んな食べ物をたくさん食べたり。

料理に挑戦したり。

時には、両親の仕事を手伝ったり。

そのお陰で、会話をすることが多くなった。


その仕事を手伝う中で、オレが勧めた食品が大ヒットした。

両親は大喜び。

くるめにも報告すると、「凄すぎて、良く分からない」と言われた。


また、両親の勧めで、色々な料理バトルに出場すれば、全て優勝。

食べることが好きだったから、軽い気持ちで大食い選手権に挑戦すれば、ぶっちぎりでトップを勝ち取り、オレは殿堂入りになった。


そんなオレに、くるめは「宇宙人ですか?」と聞いてきた。おまけに、軽く引いてた気がする。


どうやら、食に関する才能がピカイチらしい。


くるめと出会わなければ、一生気付くことはなかっただろう。その思いと感謝の気持ちを伝えれば「絶対関係ないから、むしろ、ヤバいスイッチ押しちゃったんじゃないの?」と焦っていた。


オレとしては、くるめとの出会いは運命だったのではないかと思う。



✳︎




今日も、2人並んで料理を作る。

ここは特別寮のキッチン。

オレにとって、特別な時間。



「ねぇ、くるめ。夫婦って、こんな感じなのかな?」



オレが作った卵焼きを、くるめの口元に運べば迷わず食いついてくる。

ああ、可愛いなぁ。



「うまっ!ーーさぁ?夫婦なんて色々なんじゃないの。あ、でも、萌はどっちかっていうと、お母さんポジションだよね」


「お母さんかぁー。じゃあ、くるめがお父さん?」


「えー?あたしが働きにでるのかぁ」


「愛妻弁当、毎日作ってあげるよ?」


「わぁお、魅力的〜!ってか何であたし達が夫婦設定なのよ」


「だって、興味あるから。くるめとだったら、絶対幸せにしてくれるし。あ、その煮物、味見させて」


「ちょっと!何であたしが幸せにするのよ!普通、逆じゃない?」



文句を言いながらも、オレが口を開ければ、くるめが煮物を食べさせてくれる。



ああ、なんて幸せなのだろうか。



オレを救ってくれたヒーローは、今日も可愛くて、愛しくて、愛おしすぎて仕方ありません。



どうか、叶うならばーー。



オレとハッピーエンドでありますように。

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