外伝3

第11話

今じゃ、7王子とあたしが共に暮らしているのは周知の事実であり、また敬遠されているのも事実である。



曰くーー『望月 くるめに手を出した家は、その存在を消される』らしい。



物騒な話だが、あたしの知る限り数人、その姿を見なくなった人がいる。



この学園に通うようになり、初めて学園でのアイツらの姿を見て、あたしはドン引きした。『王子!王子!』と崇め立てられ、生徒達からの人気は絶大。

ましてや、普段とは違う態度に、どれだけびっくりしたことやら。



まぁそれを見て、あたしは悟りました。「あ、これ、知り合いだって言ったら、痛い目見るやつ」ってね。

だから、知らない人ですよーってな感じで過ごしていた中等2年。



「ねぇ、くるめさんはどの王子様がお好きですの?」



「え」



これは最早鉄板の話題である。

お嬢様方の会話は基本お家自慢か、7王子の話題である。

というか、7王子の話題になるとお嬢様方が集まるのも鉄則で。



「やはり、豪様ですか?あのカリスマ性は素敵ですわ〜」



「私はシト様が宜しいですわ。あの可愛らしいお顔には、癒されます!」



「星様は溢れる出てくる知性とセクシーさが堪りませんわぁ」



「萌様のあの食欲、見てると胸焼けが......あ、違いましたわ、胸がいっぱいに」



「私は、荒々しくも、時々見せる笑顔にキュンとする、リキ様押しよ」



「大様も魅力的です。あの虚な瞳。眠るそのお顔も格好いい......」



「男性でありながら、お美しいその姿......!色様の虜ですわ!!」



みんな、口々に『セブンモンスターズ』を褒め称えるが。

あたしには、どれもしっくりこない。

ああ、お嬢様方は騙されている。あんなの見掛け倒しなだけだ。



「さぁ、くるめさん、どの王子に惹かれますの?!」



視線が一斉に、あたしに突き刺さる。

非常に困るからやめて欲しい。

だが、タイミングよく誰かの携帯のバイヴ音が聞こえた。



「あら、お父様からですわ。今夜、パーティーがあるから、家に戻るようにとのことですわ。それでは皆様、ご機嫌よう」




助かった。毎度毎度、この質問には困っているのだ。

携帯で思い出したが、つい最近、じっちゃんからプレゼントされたのだ。

とは言っても学園にいる間は電源を切っている。




「ま、色様よ!」



「色様だ!」




クラスメイト達が色めき立つ方に視線を向ければ、色が優雅な微笑みを携えて、こちらに向かってくる。



いやいや、まさかあたしに用があるわけじゃないよね?




「くるめ、一緒にお昼食べましょう?」




言った。今、あたしの名前をはっきり言った。その証拠に、みんなの視線があたしに向いている。

一体何の嫌がらせだ。今まで一度もなかったのに。




「え、えーっと。しーー七紫さん。誰かと勘違いしてないかな?」



「まぁ酷い。わたくしが、くるめを間違えるわけないじゃない。わたくし達は幼馴染で、くるめの唯一の大親友でしょ?ね、ほら、いつも通り『色』って呼んで」




もう我慢しないーーそう、色の目が静かに語っている気がする。




「色様と、幼馴染?」



「大親友だって?」




まずいっ!!非常にまずい予感がする!!

質問の嵐が来る前に、ここを抜け出さなければ!!




「お腹空いたね!!ご飯食べよう!!」



色の手を引いて、教室からもうダッシュで抜け出し、空き教室へと逃げ込んだ。




「ここは、食堂じゃないわよ」



「分かってるから、寧ろ一緒にご飯なんか食べたら、それこそ大変な事に。ていうか、どうしたの突然?!頭でも打ったの?!」



「わたくしは、至って普通よ。だってくるめがメールを無視するから」



「メ、メール?」



「そうよ。一緒にお昼を食べましょうって、誘いのメールしたのに、返信してくれないのだもの。だから、直接会いに来たのよ」



「携帯の電源を切ってたから、メール見てなかったの。いやでも!そもそも一緒にお昼食べようなんて一度も無かったのに......」



「くるめが、わたくし達と距離を置いてることは分かってたから、その意思を尊重してただけよ。だから、せめて迷惑が掛からないメールで済まそうと思ったのに、それさえも無視されて。それにちゃんと、個室で食べようと思ったのよ?」




色は眉を寄せて、苦しそうな表情を見せる。珍しく感情を露わにして、その声は微かに震えている。




「し、色?」



「けど、そんなの不公平じゃない。

くるめは、他の子と楽しくお喋りしながらご飯を食べてて。わたくしだって、くるめと楽しくお喋りしながら、ご飯を食べたかった!どれだけ、くるめと一緒に学園に通えることを楽しみにしてたか知らないくせに!こんな事が続くなんて、我慢できない!」




まさか、色がそんな風に思ってたなんて、正直、驚いてしまった。

確かに、自分の身可愛さに、露骨に避けていた。

だって、あたしにとって『セブンモンスターズ』は普通の男の子達で、だけど、学園の生徒達は異常に崇拝しててーーそれを見てると、あたしの感覚がおかしく思えてしまい、怖くなって彼らとの関わりに、目を背けてしまった。



そのせいで、無理をさせてしまったのは申し訳なかった。

もしかしたら、この環境に日々身を置く彼らにとって、あたしは、普通に接せられる数少ない友達なのかもしれない。



周りに流されてしまったあたしは馬鹿だ。




「ごめんね。色。あたし、ひどいことしてたね」




そっと、その身体を抱き締める。




「もう、距離を置くのはやめにする。だからさ、正々堂々、食堂でご飯食べよう」




色から身を離し、教室を出ようとしたが、その手は拒まれた。




「ご飯とかどうでもいい」



「えぇ?!めちゃくちゃこだわってたのに?!」



「それより、くるめから抱き締めてくるなんて初めてだよね?それって、くるめなりの愛の告白ってこと?好きってこと?」




最早、女性言葉を使わなくたった色。声はいつもより低く、完全に素に戻ってる。格好は女子の制服だけど。




「すごい勘違いしてない?!友達として、したまでだから!」



「大親友ね。間違えないで。唯一無二の大親友だから。いや、その肩書きも付き合うなら邪魔だな。唯一無二の彼氏か」



「大親友って初めて今日聞いたからね?!ていうか、彼氏になってる前提で話し進めないで!!唯一無二の彼氏ってなに?!お願いだから、女版に戻ってー!!」





✳︎





それからは、『セブンモンスターズ』の来襲が続いた。



お昼を食べて教室に戻る覚悟をしていれば、校内放送で星兄に呼び出され(また、廊下でも注目を浴び......)




「メールを直ぐ返信しなかった罰として、生徒会の仕事を手伝え」




と、小言というか、説教をされながら仕事を手伝い。



1年生の教室の前を通れば、シトとリキに捕まり、




「ねぇ、ボクのメール無視するなんて、いい度胸だよね。これでも忙しい身分なの。そんな貴重な時間を使って連絡してあげてるんだから、比較的速やかに、かつ簡潔に返信してくれるかな?」



「てめぇ、なんの為に携帯持ってんだよ!何かあったのか心配になるだろうが!!」




暴言を頂きながら、身を心配され。



ようやく、教室に戻れば、何故かあたしの席に大が寝ていて(完全にクラスメイト達はビビってた)




「大?何でいるの?ここ、2年生の教室だよ?」



「ーーん、あ、くるめ。良かった無事だね。携帯電源入れてね〜。そうじゃないと、GPSが追えないから、どこにいるのか分からなくて不安になるからやめてね。危うく、学園の監視カメラ全部ハッキングして探すとこだったよ〜」




危ういのはあたしじゃないかな?

なにGPSって。いつでも居場所知られてるって恐怖なんだけど。



取り敢えず、大を3年生の教室まで強制連行して戻れば、今度は萌が、もうダッシュで駆け寄ってきた。何やら大量のお菓子を抱えて。




「くるめー!!どうしてメール返信してくれないの?オレ、嫌われちゃったの?くるめの好きなお菓子いっぱい作ったから、お願い、嫌わないで!!」




大きな巨大で、泣かないでほしい。ビビるから。

それと、そんなに食べられないから。太らす気か。



有り難く1つだけ頂戴したけど、なんだか不服そうだった。



やっと、席に座れたーーと思ったら、隣の席に豪がいた。



「は?え?違うクラスだよね?」



「俺様にクラスなど関係ない。それより、メールを無視するとは失礼な奴だな。俺様をイラつかせる奴は中々いないぞ」



そんな偉そうな態度を取って、相手をイラつかせることは良いのか。甚だ疑問だ。



「それはそうと、もう俺様達とは普通に接するらしいな」



「そうだけど?」



「そうか。じゃあ、これからは平穏な日々は過ごせないかもな」



「まぁ、そうなるよね」




きっと、クラスメイト達は今まで通り接してくれなくなるだろう。悲しいがしょうがない。

もしかしたら『セブンモンスターズ』とあたしの関係が気に食わなくて、何かしてくるかもしれないが、それはその都度、対処していけばいい。




「安心しろ。俺様達が全力で守ってやる。いやーー」




豪はクラスメイト達を見渡すと、ニヤリと笑った。




「誰を相手にしているのか、思い知らせてやる」





✳︎





それからの事を掻い摘んで話すと。

予想通り、嫌がらせの類はあった。

というか、お嬢様でもやるんだなぁっていう感想を持った。



ただ、その1つ1つの嫌がらせに対する仕返しが(セブンモンスターズがやった。頼んでもいないのに)、えげつないというか、割に合わないというか。



あの翌日には、色と同じクラスに変わってて。

色は大喜び。豪と萌は超がっかりしていた。

で、最初はあたしの席が無くなる嫌がらせを受けたのだが、そこは、天下の色が極上のスマイルを浮かべて言い放った。




「まあ、このクラスから存在を消してほしい方がいらっしゃるのね。くるめじゃないわよ。くるめの席を無くした犯人に言ってるの。さ、くるめ私の隣に座って。さ、貴方、退いてくれるかしら?この学園から」




絶対零度って、あの時のことを言うのかもしれない。そしてクラスメイトが1人消えた。



教科書がぐちゃぐちゃにされれば、私の席の引き出しだけ指紋認証付きのロックに変わり、そして、クラスメイトの教科書は全て撤去され「皆様には必要ないでしょう?」と、色は笑ってた。みんな、必死にノート取ってたなぁ。

そしてまた、クラスメイトが1人が消えた。



女子トイレに入って、水をぶっかけられた日は流石にやばかった(というか、イジメが古典的過ぎる気がする)。



何がやばいって、その水をかけた人達を心配したよね。今度は何をされるか。

バレないように、トイレにずっと篭ってようかなって思ったけど、秒でバレた。どうやら、あたしのクラスメイトには、情報をリークしている人が居るらしい。



1週間、あたし以外の女子生徒達はトイレ使用禁止が出されたが、流石にやり過ぎだと思ったので、何とか頼み込んで1日だけにして貰った。といっても、その残りの日数は外に設置した簡易トイレのみ使用可となった。



「くるめは優し過ぎる」



そう口々に言われが、これは優しさなのか疑問である。

ここまでくると、どちらがいじめっ子なのか分からなくなってくるが、完全にピタリと止んだのは、あたしの写真がネットに出回ったのがきっかけだった。

そこには、酷い書き込みや卑猥な言葉が綴られていた。



それを見つけた大が暴走した。

全生徒の携帯をハッキングして犯人を特定ーーそして、その親会社まで乗っ取り、大パニックだ。

最早犯罪だと思うがーーそこは世界の大。誰も彼に抗えない。



そして大の両親から「大を止めてくれ」と懇願された。

あたしが言ったところで、やめるとは思わなかったが、ものは試し。



「わかった。やめる」



あっさり終わった。



こうして、みんな痛い目にあって学んだ。

“望月 くるめには手を出すな”




「ねぇ、じっちゃん。このGPSの設定解除できない?」



「だめじゃ。くるめの身を守る為に必要なものじゃ」



「もしや、この設定をしたのってじっちゃん?」



「そうじゃぞ!ワシはなんて孫思いなんじゃ!はっはっはっ!」




笑い事じゃない。

思わず白目なったあたしは思った。



今更ながら、とんでもないところに来てしまった。



やっぱり友達やめよっかな。

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