外伝1〜シト編〜
第9話
「ーー最近の目覚ましい活躍は凄いですね!シト君をテレビで見かけない日はありませんよ!」
「いえいえそんな。ボクなんて、まだまだです」
MCの女性が、大げなリアクションを見せる。
今日はバラエティ番組の収録だ。
「これでも“まだ”なんですね?大物になりそうな予感がしますよ!では視聴者の方から頂いた、お便りを読みたいと思います。『アイドルを目指したきっかけは何ですか?』、あーこれは気になります!」
「えー本当ですか?そんな、大層な話ではないですけどーーキッカケは多分、対抗意識というか......」
それは、ボクが小学5年生の頃に遡る。
✳︎
例年の通り、親が海外で出張している間、ボクは知り合いのおじさんの家で居候していた。
世間は夏休みに入っていた。
「はぁ〜、ジルコ様〜ステキ」
「ーーーぶっ!!」
素麺を啜ってる最中、くるめの発言にボクはむせた。
おじさんが隣で、背中をさすってくれる。
「ーーっごほっ!ジルコ、さま?なに、だれ?」
ボクの質問を聞いていないのか、素麺も食べず、うっとりと天井を見上げるくるめ。
その様子に少し苛立つ。
「ほっほー。ジルコというのは、くるめが好きな有名人でのぅ。この間、サイン会に行ってからあの調子で」
「有名人?」
そんなの初耳だった。今まで、そういう人達には興味がないと思っていた。
「まさか、アイドルじゃないよね?」
自分で言うのもアレだが、ボクはそんじゃそこらのイケメンアイドルにも負けない、完成された顔立ちだし、スカウトだって沢山来ている。
「アイドル?まぁーくるめからしたら、アイドルみたいなもんかのう?歌も出してるし、踊りも上手みたいだからなあ」
衝撃だった。
こんなイケメンハイスペック小学生が隣に居るのに、そこら辺のゴロツキに惹かれるなんて。
「くるめ!嘘だよね?ボクの方がよっぽどイケメンだと思うけど?!寧ろ、可愛さも備えてるし!!もしや年齢?くるめは年上が良いの?」
「はぁ〜ジルコ様っ」
ダメだ!意識を完全に持ってかれてる!
ライバルは幼馴染’ズだけかと思ってたが、とんでもない所に布石が!
早く手を打たねば!
ボクは鞄から沢山の名刺を取り出した。
✳︎
あれから一週間。
親を説得して、ボクは芸能プロダクションに入る事になった。
「ねぇ、くるめ!ボク、アイドルになる!くるめの好きな“ジルコ様”なんて、直ぐに追い越してやるんだから、絶対見ててよ!」
「へぇ〜?そりゃまた突然だね。でも、ジルコ様は追い越すなんて、絶対無理だよ?」
「はぁ?!喧嘩売ってる?やってみなきゃ分からないじゃん!」
「やってみなくても分かるって。そもそも、戦う土俵が違うじゃん。シトはアイドル。ジルコ様はプロレスラー。そんなヒョロッヒョロの身体で挑んだら、即座にぶちのめされるよ?」
くるめの言葉に、思わずボクは固まった。
今、なんて言った?
「ジルコ様って有名人だよね?」
「うん」
「歌って踊るんだよね?」
「ちょっと違うような?歌うのが好きでCD出したよ。試合前に踊りはするかなぁ」
「くるめにとって、アイドルみたいな存在だって」
「なんか、さっきから微妙に間違ってない?あたしは、そういう風に思ったことないけど」
騙された。あのおじさん、真実を語ってるようで大事な事を言ってないじゃないか。
相手はプロレスラーだって。
というか、勘違いするような言い方だった。
「ーーばか。くるめのばーか!」
「いたっ!えっ、なに?座布団投げないでよ!いたっ、ちょっ、ぶへぇっ!!」
「ふんだっ!畑違いだろうが何だろうが、やってやるよ!くるめが余所見出来ないくらい、大スターになって、絶対、惚れさせてやる!忘れるなよ!!」
そうして、ボクのアイドル人生がスタートしたのだった。
✳︎
「ーー親の名声に負けない、大スターになる。キッカケは、そんな気持ちだったと思います」
「成る程!確かにビッグネームですからね!では次の質問ーー」
真実を話すことは、アイドルとしての“シト”をやっている間は、一生ないだろう。『好きな女の子に振り向いてもらうため』だなんて。
まだ、ダメだ。
まだ、足りない。
アイツらに、取られる前に。
余所見出来ないくらい、魅了してやるさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。