“望月 くるめ”について
第8話
あたしの両親は、いわゆる駆け落ちだ。
じっちゃんの娘(あたしのお母さん)は、じっちゃんの部下だったお父さんとの結婚を認めて貰えず、無理矢理、他の人と結婚させられそうだったので、じっちゃんを殴って出て行ったとのこと。
そして、お父さんと結婚して、あたしが産まれた。
貧乏な暮らしではあったが、とても幸せに暮らしていた。
じっちゃんとの出会いは、あたしが7歳の誕生日を迎えた日だった。
公園に1人で遊んでいたあたしは、大きなため息をついた。
「ーーおじちゃん。もうバレバレだから、出ておいでよ」
そう、草むらに声を掛ければ、ザワザワと、葉が揺れる。
「ワシはおじちゃんではない!葉っぱの妖精だ!」
「くるめは、そういうの信じないタイプだから。どうしていつも、くるめを見てるの?いっしょに遊びたいの?」
随分前から、居たのは気づいていた。いや、気付かない方がおかしい。むしろ隠す気はあったのだろうか。
草むらにボールが飛んでいけば、勝手に戻ってきたり。
転べば、全身に草をはっつけた髭面の“妖精”が、駆け寄って来て手当てしてくれたり。
変な人が話しかけて来れば、全身黒スーツの人達がどっか連れったり。
とにかく、見守る視線が熱いのだ。鬱陶しい位に。
「ワシーー妖精は、子供達を見守るのが仕事なのじゃ」
未だ姿を現さない、草むらに向かって話しかける。
「でも、ちょっとウザイ」
がーん!という効果音が聞こえて来そうな程、落ち込み具合が分かった。
「ねぇ、おじちゃん。おじちゃんは、くるめのじっちゃんなんでしょ?」
そう尋ねれば、草むらを薙ぎ倒して現れた“妖精”。相変わらず、全身に草をはっつけた髭面の姿だ。
一部の子供達からは、怖がられているのを知ってるのだろうか。
「やっと、出てきたね」
「な、何故知ってるのじゃ。未来子から聞いたのか?」
未来子(みきこ)というのは、母さんの名前だ。
「うん。写真を見せてくれたの。じっちゃんだよって。お父さんに意地悪した人だって、お母さんプリプリしてた。だから、憶えてたの。おじちゃんに初めて会ったとき、じっちゃんに写真に似てたから、もしかしたら、そうなのかなぁって」
「そうか。未来子は怒ってるだろうな。とても悪いことをしたからのぅ。今更、会わせる顔も無い。だから、こうして遠くから見守ろうと決めたのじゃ」
「悪い事したら『ごめんなさい』だよ」
「ーーそうじゃな。だが、会ってはくれないだろう」
「ねぇ、じっちゃん。さっきのお話にはね、つづきがあるの。お母さん、プリプリしてたのに、嬉しそうな顔になって言ったの。『けど、大好きな人だよ』って。くるめと、お父さんの次に」
「ーーそうか、そうか未来子が」
目元を潤ませる“妖精”は、その顔を手で覆い隠した。
あたしは、そっと、その大きな身体に抱きつく。
「くるめもね、じっちゃんが大好きだよ。いつも、助けてくれてありがとう。会えて嬉しい」
「ううっ。じっちゃんと呼ばれるのは、こんなにも喜ばしい事だとは......。ワシもくるめが大好きじゃ」
「ねぇ、じっちゃん。くるめね、今日お誕生日なの。おねだりして良い?」
「良い良い!何でもあげるぞ、お人形か?洋服か?甘いお菓子か?」
「それもステキだけど、くるめはね。お母さん達と仲直りして欲しい」
「ーーそれで、良いのか?」
「うん!そしたら、皆んな、笑顔になるから、嬉しい」
そう返事をすれば、また泣き出す“妖精”に扮したじっちゃん。
無事、お母さん達とは仲直りしたみたいだが、お父さんにした嫌がらせの数々(会社をクビにさせたり、仕事に就かせないよう根回しをしたり)には、完璧には許すことが出来ないお母さんは、条件を出した。
それは、あたしと会うのは公園でのみ。
それでも許可が下りれば(じっちゃんとあたしが、駄々をこねて)、長い休みの時だけだが、じっちゃんの家と学園に遊びに行かせてくれた。
おかげで、彼ら『セブンモンスターズ』と出会う羽目になる。
ーー時を今に戻して。
あたしは、理事長室でフォトアルバムを開いていた。
そこには、両親の結婚式の写真が並んでいる。
あたしが、じっちゃんに取り付けた約束の証。
学園に行くから、両親に結婚式を挙げさせて欲しいと約束したのだ。
じっちゃんは、めちゃくちゃ張り切って、盛大な結婚式を準備した。
若干、両親が引いていた気もするが、まぁ、笑ってたから良しとしよう。
「着てみたいなぁ、ウェディングドレス」
あたしの呟きに、椅子から落っこちるじっちゃん。大丈夫かな?
「なんと?!まだ早いぞ!結婚なんて、じっちゃんは認めない!はっ!相手はどこの若造だ!じっちゃんが、懲らしめてやる!」
「ねぇ、じっちゃん。お父さんのこと反省したのに、またやるの?今度こそ、お母さんに嫌われるよ」
「うっ!!」
「それに、結婚がしたいんじゃなくて、ウェディングドレスが着てみたいの」
「な、なんじゃ、そうか。びっくりしたわいーーそれなら、じっちゃんが、叶えてやるぞ」
「えぇー?なんか、凄いことになりそうだから嫌だなぁ」
「何を言う!孫の為なら、惜しむものなどない!一流の写真家を呼ぼう!」
「ちょっーー!」
じっちゃんが張りきり出したら、大変なことになる!
制止の声を上げようとしたら、理事長室の扉が開いた。
ノックをしろノックを。
「今の話、聞かせてもらったぞ!」
現れたのは『セブンモンスターズ』だ。
「なんじゃい。騒々しい」
「1人で写真を撮るのも寂しかろう。俺様がタキシードを着て一緒に写ってやろう」
「ナルシストは黙ってて。ボクの方が良いに決まってるでしょ。芸能人と撮れる方が、貴重なんだから」
「ふん。お子様にはまだ早い。くるめに慕われている俺の方が安心だろう」
「星兄は、仏頂面だから無理だよ。比べてオレの笑顔を見ると、安心出来るってくるめは言ってたよ」
「アンタら、下心が見え見えなんだよ!くるめ、ぜぇってぇ、嫌だよな!!俺の方が良いよな!!」
「くるめ〜、一緒に寝よう〜」
「ウェディングドレスだけじゃなくて、白無垢姿もどう?わたくしの家が懇意にしている着物屋さんがあるの。ねぇ、だから一緒に撮りましょう」
我が我がと、写真を一緒に撮りたがる(1人を除いて)、『セブンモンスターズ』。
ただ、願望を口にしただけなのに、大事になってきた。
「黙れ!小童ども!一緒に撮れるのはじっちゃんであるワシの特権じゃ!誰にも譲らん!!」
えぇええええええっ?!じっちゃんもかいっ!!
「お爺様だからといって、それはいただけない」
「いい歳して、ガキみたいなこと言うのやめてよね」
「理事長殿は引っ込んでいろ」
「一緒に撮られる、くるめが可愛そう」
「黙れジジイ」
「zzzzzz………」
「いい加減、孫離れしては如何かしら」
みんな、口々に言うが、内容に悪意が感じられる。
「「「「「「「くるめ!誰にする?!」」」」」」」
息ぴったりに声を合わせ、全員があたしを見る(一部は寝ております)。
ちょっとまって。
何故一緒に撮る前提で尋ねるの?!
そもそも、同意してないからね?!
いい加減にしてくれーーっ!!
×××××7王子は、しち面倒くさい!×××××
〜マジで、辞退させてください〜
END............?
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