“五蒼 大”は怠け者(頼むから、自分の部屋で寝て)
第6話
『セブンモンスターズ』の中で1番の問題児は、
五蒼 大(ごそう だい)だと、あたしは思う。
というのも。
プロレスラーのグッズが鎮座するこの部屋のベットで、その先客が健やかな顔で寝ている。藍色の髪は寝癖だらけだ。
あたしが部屋を間違えたわけではない。
大が、あたしの部屋で、寝ているのだ。
「っこの、自分の部屋で、寝なさいっ!」
ぬいぐるみで、その顔面を殴る。
「ーーんんっ、なーにー?」
「なーにー?じゃない。また勝手に人の部屋に入りおって......」
「あ、くるめ〜待ってたんだよ〜。一緒に寝よう」
大は、あたしの部屋の合鍵を持ってる2人目だ。
どういう理由なのか知らないが、夜眠る時だけ、毎回あたしの部屋で寝るのだ。追い出しても、朝目覚めれば隣にいて、今度はソファで寝てれば、いつの間にかベットに運ばれて一緒に寝てるという始末。
もはや無駄な抵抗なのだが、これでも一応乙女なのだ。異性と寝るなんて......まぁ、大に関しては小さい頃から一緒に寝てるから、今更何も思わないんだけど。
「あのね。毎度毎度言ってるけど、もう、18歳なんだから、1人で寝てよ!」
「やだ。くるめと寝るのが1番心地いいんだもん。僕の部屋、散らかってるし」
「散らかしてるのは大でしょ」
基本、大の部屋は散らかっている。
掃除しても、ものの数分で元に戻るのだ。もはや怪奇現象である。
オマケに怠け者で、1日の大半は睡眠に費やしているが、それ以外の時間は嫌々働いている。
実は、天才的ハッカーとして名を馳せる大は、各国の、ど偉い所からの依頼で、ハッキングの調査や、セキュリティシステムの構築をしているらしい。
また、IT企業の社長である親の仕事を手伝ったりと、忙しいらしく、脳がフル回転するので、休息が必要だとか。
だからといって、あたしと一緒に寝る理由にはならない。
「もう、観念しなよ〜くるめ。ほぼ毎日一緒に寝てるんだから、今更別々に寝るのも変でしょ?」
「変ではない。それ当たり前だから」
「わがままだなぁ。はいはいー良い子は寝る時間だよ〜」
そして、強引にあたしの腕を引っ張り、ベッドの中へ引きずる。
「ちょっと!我儘なのは大の方でしょ!いつになったら一人で寝てくれるのよ!」
「んー、一生無理かも。だから、結婚しちゃおうか」
「ーー絶対嫌。毎日こんなの耐えられない」
「正直だなぁくるめは。けどさぁ......僕はくるめがいなきゃダメなの。くるめと寝る時が、1番何も考えなくても良い。頭の中がスッキリするんだ」
「大、しんどいの?」
「うん。しんどい。起きてるとね、シゴトをしなきゃいけないでしょ?それに頭の中で、ずーっと、記号の羅列が流れるの。それが辛い」
きっと、当事者にしか分からない辛さなのだろう。
あたしには、どうすることもできない。
「そっか」
「でもね。くるめといると、そういうことがないんだよ。不思議だよねぇ。記号の代わりに、くるめのコトで、一杯になるんだ」
「なんか、それはそれで嫌なんだけど」
「僕は嫌じゃないよ。ねぇ、くるめ頭ナデナデして」
「え」
まるで、子供のように甘える大。スリスリと、首筋に顔を埋める。
「ちょっ、くすぐったいんだけど」
「ね、ナデナデして。お願い」
「分かったから、スリスリするのやめて......!」
そっと、フワフワとした髪を撫でる。
「ふふ。あー好きだなぁ。好きだよ、くるめ。だーい好き。別の誰かを好きなっても、僕のことを捨てないでね。一緒にいてね」
まるで、飼い主に嫌われることを恐れる、ペットのように言う大。これは、眠る直前にいつも言うセリフだ。幼少期から変わらない、大なりのおまじないだとか。
次第に聞こえる静かな寝息。
「ーーおやすみ」
そしてあたしも、襲ってくる眠気に勝てず目を閉じたのだった。
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