“三桃 シト”はアイドル(あたしは二重人格だと思います)

第2話

『みんなー今日は来てくれてありがとう!大好きだよー!!』



ピンク色の髪がチャームポイントの彼は、

キラッキラッの笑顔とウインクを振りまき、客席からは悲鳴やら歓声やらが溢れて出てくる。




現在地を言うと、豪華絢爛の特別寮の1階の共有スペースにあたしはいて、先程の流れは、超デカイテレビから流れ出てきたもの。


ああ、なるほどね。ライブDVD発売のコマーシャルね。




「ねぇーくるめー、お茶ー」



「目の前に茶葉と、お湯のポットがあるでしょ」




テレビの印象とは打って変わって、不機嫌そうな表情で、こちらを睨むアイドル様の名はーー三桃(さんとう)シト。



「えぇ?!ボクに安いお茶を飲めって言うの?」



「その茶葉、十分高い値段だけど」



「ボクが言ってるのはさー、ちゃんと淹れたお茶が飲みたいの。じゃあ、ヨロシクね」




そして、ソファーで寝転がるシト。どうやら今回も徹夜で仕事だったらしく、お疲れの様子。

しょうがない。お茶を入れてあげようーー。



なんて、そんな優しい気持ちには一切ならず。




手にしていた携帯が、少しミシッとした。


どうして、ここにいるヤツらは、ふてぶてしい態度ばかりなのか。

説明させてもらうが、あたしが授業中なのにも関わらず、シトに呼び出されたのである。


うちの学園は、芸能活動をしている子など、特殊な家庭が多いので、基本携帯は、マナーモードに設定しておいて、都度メールチェックは可能なのである。


あたしは、特段そういう事情を持ち合わせて居ないので、以前は電源を切っていた。

が、あの『セブンモンスターズ』に強行手段を取られ、大分辱めを受けたので、ヤツらからのメールは直ぐチェックするようになった。


例にもなく、シトからのメールをチェックすれば、

『ねぇ、ボクが帰ってきたのに、なにも出迎えとか無いわけ?早く戻って、ボクの世話してよ』



なんて、ふざけた文面だったのでスルー。

そして、間髪入れずにまたメールが。



『10分以内に来なきゃ、くるめが大事にしてるプロレスラーのサイン、捨てるから』



ダッシュで帰宅。先生ごめんなさい。


非常に不本意なのたが、シトともう1人の同居人は、何故かあたしの部屋の合鍵を持っているのだ。勿論、鍵を交換してもだ。プライバシーなんてあったもんじゃない。



「はい。お茶です」



「というかさー。そんなにあのサイン大事なの?ボクの方が有名だし、価値が高いと思うけど」




シトはお茶を飲みながら、失礼なことを言う。




「あたしには大事なモノなの。シトのサインなんて、テストの答案用紙と、子供の頃に描いた絵だけあれば十分だわ」



シトはアイドルグループの中でも群を抜いて人気があるが、それがなくても注目の的である。


それは両親が、世界をまたに駆ける一流デザイナーだからだ。しかもだ。スポンサーは両親。衣装のデザインまで手掛けているときた。実に親バカである。


シトが小さい頃、両親が外国で仕事に行ってる間、仲の良かったじっちゃんの家に預けられていた。


良くじっちゃんの家で過ごしていたあたしと、一緒に暮らすこともあり、一つ歳下のシトを弟の様に可愛いがってたが、その悪魔の様な本性に直ぐに嫌気がさして、早く帰れと何度願ったことか。





「ーーーーはっ?なんて言った今?」



「だから、悪魔のような本性にーーって、え?なに?」



おっと、いけない。過去を振り返っていたらぼーっとしてしまった。



「ボクの、サインあるって!」



焦ったようにソファから起き上がったシトは、必死の形相で尋ねる。



「あ、答案用紙はシトがゴミ箱に捨てたのを拾っておいて、絵はね、きちんと額縁に入れて、何かの時のためにーー」



「額縁に?!子供の頃の絵を!?何で取っといてるのさ?!」



え、そこぉ?食いつくとかそこなの?




「別にいいじゃない。ピュアっピュアで可愛げがあった頃のシトが『くるめ、だいしゅき』って言って、プレゼントしてくれたあたしの、似顔絵」



あの後、じっちゃんが「くるめ、大事に額縁に飾って保存しておくんじゃぞ!将来億ションものになるかも知れんぞ!がっはっは!」って、言ってたっけ。



「くるめ、それ、そんなに嬉しかったんだ?」



「え、うん。まぁね」



「ボクに大好きって、言われたから?」



「えーそうだねー」



そりゃあ、あの頃は可愛かったし、懐かれてたから嬉しかったけどね。本当、アイドルやってる時のシトがキラキラの笑顔を振りまいてる時と同じ表情で。



「ねぇ、くるめ抱き締めてもいい?」



「やだ」



って、断ってるのに抱き締めたぞコイツ!




「ちょっと!断ったでしょ今!」



「聞こえなかった」



「嘘つけ!」



「だって、くるめが、昔の思い出を大事にしてくれたから。嬉しくって」



「はぁ?当たり前でしょ」



だって、億ションものになるかもだし!



「言っておくけど、あの頃と気持ちは変わってないからね」



「?」



「くるめ、大すーーー」




シトの言葉を遮るように、爆音のクラッシック音楽が流れたのであった。

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