第5話 喰らうスキル


 体が火照り感情が昂ってくる。じっとしてるとこのまま体温に焼き殺されてしまいそうだ。

 息が荒れて明らかに尋常ではないボクの様子にセリシアから心配の視線が飛ばされる。


「まずい……また奴の攻撃が来るぞ!!」


 二人は咄嗟に横に跳んで奴が吐き出した炎を容易に躱すが、ボクは一歩も動かない。


「冥矢君!!」


 その声は鼓膜を鳴らし確かに届いていた。だがボクの本能が伝えてくる。

 "躱す必要はない"と。


「う"ぉぉぉぁぁぁ!!」


 雄叫びと共にボクは右腕を奴の炎に向かって突き出す。腕は鱗に覆われていき、更に手のひらから奴に勝るとも劣らない勢いで炎が噴き出る。

 自らの熱から体を鱗で守り、こちらも強気に前に出て炎を押し返す。

 お互いこれ以上は不毛だと判断し同時に引き下がり炎という矛を一旦収める。


「冥矢君……? 何その力……?」


「わ、分からない……」


 頭では理解が追いつかずこのような返答をしてしまったが、直感的に今自分の体に何が起こっているのかは理解っていた。

 食ったモノの力を取り込んでいる。

 鱗は魚特有のもので、炎は目の前のサラマンダーだ。恐らく血液が口に入ったからであろう。


 あのスキル……!! 《喰らう者》ってまさか……!?


「ともかく少年は戦えるんだな?」


「……はい! そうみたい……です」


 自信はなかったが、こうなってしまった以上やるしかない。それに動いたせいか、はたまた別の要因か、今ボクのお腹の中はまた満たされていない状態になっている。


 あのトカゲ……焼いたら美味しいのかな?


 生き物も食文化も何も知らないこの世界で、好奇心と食欲が掻き立てられる。

 赤髪の女性がボクの意思を感じ取った直後。こちらの様子を窺い動かない奴を挟むようにして接近する。


「わ、私も援護くらいなら……!!」


 セリシアが奴の眼前に向かって小さな光の球を飛ばす。それは光り輝きながら爆散する。

 威力もなくボクらにとっては視界の妨害にすらならない。しかし眼前でやられた奴は例外で一瞬怯み明確な隙が生まれる。


 ここだっ!!


 ボクは鱗を立たせ鋭利な部分で奴の首元に切り込みを入れる。勢いそのまま通り抜け地面を転がってしまうが後を託した彼女がしっかりと繋いでくれた。

 彼女の刃がその切れ込みを沿うようにして入り込み、傷口を抉り奴の首を跳ね飛ばす。


「ふぅ……なんとか窮地を脱したな」


 赤髪の女性が垂れる汗を手で拭う。ボクもかなり汗をかいてしまったが全身の熱が一気に引いたことにより少し寒気を覚えてしまう。


「あの……ところでお姉さんは誰なんですか?」


「わたしはパルテ。田舎の家族を養うために近くの街で冒険者をやっている者だ」


「近くの街……? やっぱりここを下れば人が居る所があるのね!」


「そうだが……二人ともそれを知らずにフラフラほっつき歩いていたのか?」


 パルテさんから懐疑の視線が向けられる。目的地も特に決めず遭難かのようにほっつき歩いていたボク達を疑うまではいかなくても不思議に思う。

 

「いや詮索はやめよう。それよりその反応だと街に行きたいんだろ? 案内するが……少し時間をくれるかな?」


 パルテさんは懐から小型のナイフを取り出し今倒したサラマンダーの牙や皮を剥ぎ取っていく。


「そういえばサラマンダーの素材は薬や防具にも使われるらしいわね。冒険者ギルドで売るの?」


「あぁそうだ。わたしは魔物を倒すのが主だからな」


 なるほど……地球で動物の皮とかを使うようにこっちでも素材として利用してるのか。


「えっとボクも手伝えることはあるかな? その……こういうの経験はないけどやってみたくて」


「ん……ならこれで牙を切り落としてくれ」


 黙々と作業をしていたパルテから小型のナイフを受け取りボクも素材回収をやってみる。


「そういえば冥矢君。さっきの鱗と炎は何だったの? 鱗はともかく炎に関してはステータスに表示されてなかったよね?」


「多分だけど……あの《喰らう者》ってスキルのせいじゃないかな……ステータスオープン」


 ボクは一旦手を止めてカードを取り出してステータスを表示させる。



LV 03

HP 167/167

MP81/82

力29

魔力19

素早さ28

防御16

魔法抵抗17


所持スキル

《喰らい人》

《漁夫の鱗》

《龍炎》


 またレベルが上がっており、予想通り龍炎というそれらしいスキルも見当たる。

 しかし一つだけ予想外の出来事が起きる。《漁夫の鱗》と《龍炎》のスキルの表記が点滅しだしたのだ。


「えっ? 何で……」


 ボクがそう言いかけた時には点滅が更に激しくなっており、セリシアが何か言い出す前にスキルの表記が完全に消えてしまうのだった。

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