第4話 火竜
「とりあえず魚も食べ終わったことだし、川を下って行ってみましょうか」
魚を食べ終え、ボク達は再び人がいる場所を目指して歩き始める。
「そういえばまた飛んで探したりはしないの?」
「予想以上に力が失われててできないのよ。長時間維持できないし、もし魔物と戦うことになった時のために余力を残しておかないと」
「魔物……ゲームの敵みたいな?」
「そうね。とっても凶悪で残虐な存在よ。まぁでもそう簡単に強い奴と出会うことはないから大丈夫よ!」
ボクはあまり動いたりするタイプではないのでできれば遭遇は避けたい。ただどうしてもの時のために覚悟は必要だ。
「うぅ……ん?」
緊張のせいかと思っていたが、先程から体に違和感がある。ほんのりと体温が高くなっており、呼吸や心臓の鼓動が少し速くなっている。
「どうかしたの?」
「いや体に違和感が……」
「違和感? ならステータスを見てみたら? 異常があればそれも表示されるはずよ」
ボクはあの神々しい空間でセリシアから渡されたカードを取り出す。
「えっと確か……ステータスオープン」
LV 02
HP 115/115
MP76/76
力22
魔力03
素早さ22
防御13
魔法抵抗12
所持スキル
《喰らい人》
《漁夫の鱗》
浮かび上がったビジョンの内容は先程見たものとは全く違うものだった。
まずレベルが上がっている。RPGなどだと基本的には魔物等を倒さないと上がらないはずだが、ボクはこっちに来てから魚を一匹倒しただけだ。
「あれ? スキルも増えてる……ねぇセリシア? これって何?」
「聞いたことのないスキルね……まぁでもとにかく状態異常がなくて良かったわ。それに表示されないってことは深刻な怪我や病気はないってことだから。
でも念の為に少し休んでおく?」
「うーん……そこまでじゃないかな。それにボクも早くこの世界の街並みとかを見てみたいし……」
そこまで言いかけたところでボク達は大きな揺れに襲われる。地面が揺れ小鳥達が逃げ出す。揺れの感じと音からして近くで爆発が起こったようだ。
それに段々と人の、女性のものと思われる叫び声が聞こえてくる。
「この声……もしかして誰かが魔物と戦っているのかしら?」
「魔物……それってボク達は逃げないとまずくない?」
ボク達はやっと危機感を覚えるが時既に遅し。前方から爆炎と共に一人の鎧を纏った女性が吹き飛んでくる。
「くっ……サラマンダーめ……ん? 君達は……?」
赤い三つ編みを後ろに下げた背丈の高い女性は土埃を上げながら地面に着地する。
「あの……何かあったんですか?」
「説明する暇はない! 今すぐここから逃げるんだ!」
赤髪のお姉さんは苦虫を噛み潰した顔で必死に訴えるが、ボク達が行動に移す前にそのサラマンダーとやらが姿を現す。
黒ずんだ赤く刺々しい皮膚に細い黒線が入った二つの瞳。爬虫類のような長舌をチロチロ出しそこから火の粉を吐く。
ボクの背丈よりも大きく人を丸呑みにできそうなトカゲが明確な殺意をこちらに向けてくる。
「奴はBランク指定の魔物でわたしは駆除に来た冒険者だ! 旅の者か知らないがとにかく逃げろ!」
彼女の激昂と共にサラマンダーは口から真紅の炎を吐き出す。それは赤髪の女性に向けられたものでボク達の方には来なかったが、それでも肌をひりつかせる熱が伝わってくる。
「早く逃げよう冥矢君!!」
セリシアはボクの手を引っ張ってここから逃げ出そうとする。それが正しい判断であることは間違いない。
ただボクの目には息を切らし辛い表情を浮かべる赤髪の彼女が映ってしまった。
苦しそう……このままじゃあの人は……
その考えが過った途端ボクは無意識の内にセリシアの手を振り払っていた。
「でやぁぁぁぁ!!」
そして今にも彼女を捉えてしまいそうな炎の矛先を奴の頭に飛び蹴りを放つことによって逸らす。
本来なら愚行とも取れる自らの命を崖から落とすような行為。それでもボクの中には後悔の二文字はなかった。
奴が首を切り返しこちらにその口を向ける。ボクの蹴りが顔面に命中したというのに痛がる素振りすらない。
「危ないっ!!」
赤髪の彼女が持っていた剣で奴の下顎を裂き鮮血が辺りに舞う。しかしそれも奴にとっては軽微な傷なようで絶命には届かない。
ボクは彼女に抱えられ奴から離され距離ができる。
「中々良い蹴りだった少年。しかしこれ以上は無謀だ早く逃げるんだ」
「そうだよ何やってるの! 死んじゃうよ!?」
僅かにできた隙に二人に諭され体を揺らされる。その時に顔に付いた奴の血液が頬を伝って落ちボクの口の中に入るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます