第13話

「さて、これが最初の障害だね」


リベラが軽い口調で言いながら、校門の前で立ち止まった。目の前には、しっかりと施錠された正門と、暗がりに沈む校舎がある。


「どうするの?」


私は少し不安げに聞いた。私から言い出したことだけど正直、夜の学校に忍び込むなんて初めてだ。


「どうするも何も、これくらい簡単でしょ?」


リベラは不敵に笑い、ポケットから色々な物がはいったケースを取り出した。


「もしかして、ピッキングでもするつもり?」


驚いて聞くと、彼女は肩をすくめて軽くうなずく。


「正攻法で入れるわけないでしょ。……まあ、こういうこともたまには役に立つんだよね」


あっという間に、リベラは錠を開けた。その手際の良さに目を見張る私を横目に、彼女は淡々と作業を続ける。


「はい、オープン」


小さな音を立てて鍵が外れた。リベラは手を払うような仕草をして私に振り返る。


「これでOK。さ、入ろうか」


「リベラ……何者なの?」


思わずつぶやくと、彼女はくすりと笑った。


「ただの異世界人だよ。気にしないで」


そんなこと言われても気にならないわけがない。けれど、彼女の態度に押されて、それ以上は聞けなかった。



静まり返った夜の校舎は、昼間の活気が嘘のように冷たい空気に包まれていた。薄暗い廊下に響く足音だけが、妙に大きく聞こえる。


「……ほんとに行くんだね」


リベラは呆れたように言いながら、前を歩いていた。


「もちろん。ここまで来たんだから!」


私は胸を張って答える。心の中では少し怖いけれど、今そんな素振りを見せたら彼女に笑われそうだ。


「それにしても、赤い目の女の噂か……興味深いね。透空とあ、本気で信じてるの?」

リベラは振り返りもせずに聞いてきた。


「信じてるよ!」


私は力強く答えた。


「だって、化け物のことがあったでしょ? あの時、非日常って本当に存在するんだって分かったから。それに……リベラがいるから、何が起きても平気だと思うし」


リベラはちらりと振り返ると、苦笑したように見えた。


「へぇ、そう言われるとちょっと責任感じるね。でも期待しすぎないでよ。僕も万能じゃないから」


そんな言葉とは裏腹に、彼女の歩調はまったくぶれることがない。私はその背中を見ながら、少し安心したような気持ちになっていた。

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