第11話

その日は静かな夜だった。隣でリベラがベッドに寝転び、穏やかな寝息を立てている。私は布団にくるまって天井を見つめながら、なかなか訪れない眠気を待っていた。


「はぁ……」


ふと、隣に視線を向ける。リベラの寝顔は、昼間見せていた笑顔や軽口とは違って穏やかで、どこか儚げだった。彼女は自由奔放で、何を考えているか分からないところがあるけれど、こうしていると普通の女の子に見える。

けれど、その静けさは突然破られた。


「……ゆづき……待って……」


リベラが小さな声で何かを呟いた。目を閉じたまま、眉が少し寄せられ、苦しげな表情を浮かべている。


「え……?」


耳を澄ませると、断片的な言葉が漏れる。


「ごめん……僕が……間違いだった……」


私は思わず息を飲んだ。だって、彼女がこんなふうに弱々しく何かを訴えるなんて想像もできなかったからだ。


「リベラ……?」


声をかけようとするが、彼女はそれ以上何も言わず、寝返りを打って再び静かになった。



翌朝、私は寝不足のまま目を覚ました。隣ではリベラがすでに起きていて、いつものように軽い調子で話しかけてくる。


「おはよ、透空とあ。寝不足みたいだけど、もしかして僕のせい?」


「あ、いや……」


少し迷ってから、私は昨夜のことを切り出した。


「リベラ、昨日寝てるときに誰かの名前呼んでたよ。『ゆづき』って。」


リベラの表情が一瞬固まったように見えた。でも、それはすぐにいつもの笑みに変わった。


「へぇ、そうなんだ。僕なんかの寝言に付き合わされるなんて、透空も災難だね。」


軽い調子でそう言いながら、彼女はベッドから立ち上がる。


「ねえ、本当に覚えてないの? 夢の中で誰かに会ってたんじゃないの?」


私が食い下がると、リベラは目をそらしながら答える。


「はぁ…夢の中のことなんて覚えてないよ。ほら、透空だって変な夢見ることあるでしょ? 同じ同じ。」


そう言って、肩をすくめる彼女の仕草はあまりにも自然だった。でも、私の胸の中には小さな違和感が残る。

彼女の口から漏れた「ごめん」という言葉。そして、「ゆづき」という名前。それは、リベラの過去の断片だとしか思えなかった。


「……わかった。」


でも、それ以上は追及できなかった。

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