第9話
リベラの体調も大分落ち着いてきたように見えたから、一緒に散歩をすることになった。
リベラと夕方の街を歩いていると、不意に空気が変わった。夕焼けに染まる美しい路地にはひどく不釣り合いな、重苦しい気配が漂っている。
「…
リベラがいつもより落ち着いた声で言い、軽く腕を引いた。その瞬間、足音が複数近づいてくるのが聞こえた。振り返ると、薄汚れたローブを纏った数人の男たちが歩いてくる。彼らの目はどこか焦点が合っていなくて、不気味な笑みを浮かべていた。
「ようやく見つけた…我らがずっと探し求めていた『災厄』…」
一人の男が低い声でつぶやき、他の者たちもそれに同調するようにくぐもった笑い声を漏らす。その様子はこの世のものには見えなくて、本能的な恐怖が湧き上がってきた。
「ねぇリベラ、この人達、知り合い…?」
私は震える声で尋ねてみる。
「どうだろうね。こんな人達記憶にないけど…」
リベラは軽く肩をすくめたが、その表情はどこか険しい。
「貴様…どれほどの業を重ねれば気が済む…?」
先頭の男が一歩前に出てリベラを指差した。目はぎらぎらと光り、その声には狂気が滲んでいる。
「我らが守護する聖地を次々と汚し、壊し、そして…」
「はぁ。またその話?しかも長いし…もっと簡潔にまとめられないの?」
リベラは気怠そうにため息をついた。
「どうせいくつかの拠点を潰したことを根に持ってるんでしょ。まだ怒ってるの?」
その返答に、男たちの顔がさらに歪む。
「貴様の軽口…すぐに永遠の沈黙に変えてやる…!」
「我らが選ばれし教義を…その存在で汚す異形よ…」
男たちの手には、どこかおぞましい光を帯びた短剣が握られていた。彼らは一斉に何かの呪文を唱え始める。周囲の空気がじわりじわりと冷たくなり、体の芯に響くような嫌な音が耳元に残る。あの怪物ほどじゃないけれど、やっぱり怖い…
「透空、少し下がってて」
リベラは私に振り返り、微笑むように見えたけれど、その瞳には冷たい光が宿っていた。
「でも…リベラ、あんまり無理しないで――」
「大丈夫だって」
彼女は軽く手を振る。
「こんな連中、すぐに黙らせてあげるよ」
リベラが前に出た瞬間、男たちは一斉に襲い掛かろうとした。でも、その動きはぎこちなく、まるで操り人形のように不自然だった。
「な、何だ…動けない…?」
「ぐっ…見える…あいつの…!」
突然、男たちは空中に向かって苦しげにもがき始めた。その様子があまりにも異様で、私は凍りついたように動けない。リベラが何をしたのか、私には全くわからない。
「何をしているんだ…あれを引き裂け…!」
男たちの中の一人が叫び声を上げるが、彼らはただ怯えたように動けなくなっている。
「ふふ、滑稽だね」
リベラは小さく笑いながら、指先を軽く動かす。それに合わせるように、男たちの顔がさらに歪んでいく。
「ひっ…見える、見える…!」
「逃げられない…やめろ、やめてくれ…!」
私には、何が起こっているのか全く理解できない。何かが見えているらしい…でも、それは私には見えない。
「これでおしまい」
リベラが静かに呟くと、男たちは一斉に地面に倒れ込んだ。呻き声もなく、その場に崩れ落ちる。
「透空、帰ろっか」
リベラは何事もなかったように振り返る。その背後には動かない男たちが横たわっている。
「これ、リベラ…どうしてこんなことを…?」
「何でって言われてもね」
彼女は軽く笑いながら言う。
「向こうが喧嘩を売ってきたんだから、仕方ないじゃないか。正当防衛だよ」
その言葉はあまりにも軽くて、現実感が薄れるほどだった。でも、私の胸の中には嫌な違和感が残っていた。
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