第20話 side:H 三日目と約束と

僕を見上げ、口を開くゆうくんの瞳は涙で濡れていた。

元より留めるものもない浴衣の片方は肘まで落ち、細い肩がむき出しで、そこに立ち込める精の匂い。

ゆうくんの見た目が幼いこともあって、どこか禁忌を犯したような気にさえなる。

その光景が未だに僕の興奮を掻き立てて、出したばかりだというのに僕のものは硬さを保ったままだった。

脳内なんか更に酷いもので、その愛らしい顔にかけたい、とか、純真無垢なこの子を汚し尽くしたい、だとか・・・おかしな考えばかりが湧き出していた。

落ち着け落ち着け落ち着け。やりすぎは逆効果でしかない。

いや、しかし・・・やられた。なんてことをしでかしてくれたのだか。

ご奉仕、という言葉にも驚きはしたが内容がオーラルとは・・・跪いた時点で「ん?」とは思ったが。

どう考えたらああいうことになったのだろうか。ゆうくんに経験はないだろうから、誰かが実地で教えたわけではなさそうだった。実際、僕のものを扱うのも戸惑っていたし。

と、なると・・・ネットあたりで仕入れてきた情報かもしれない。一度聞いてみたほうがよさそうだ。兎角ネットというものは役に立つ反面、欠点も大きい。間違った情報で溢れていて、若い子は踊らされがちだ。


「・・・嗣にぃ・・・?」


不安そうにゆうくんが僕を呼んだ。思うところが多すぎてゆうくんを放置してしまっていた。剥き出しになっていた自分の下半身は、ひとまず正して、ゆうくんに手を伸ばす。膝立ちになっていた身体を引き起こして腕の中に抱いた。


「ごめんね、ゆうくん。凄く、良かったよ」


額に口付けると、安堵したようにゆうくんは息を吐いた。

ゆうくんの様子で、今の行為が経緯はどうあれ、間違いなく僕のためなのだとわかる。年齢が年齢なので興味もあったのかもしれないが、調べて実施したのは僕を喜ばせるためだ。

嬉しさと同時に、ゾクゾクとしたものを感じる。・・・なんてことだ。興奮しっぱなしじゃないか。年下の男の子に。ゆうくんに見えないよう、僕は苦笑した。


「ゆうくん、疲れてない?・・・次は僕がしたいことをしても、いい?」


ゆうくんの顔を覗き込む。可愛いその子は、薄らと目元を紅潮させながら目を伏せて頷いた。小さな声で、いいよ、と答える。

抗うことのない様も可愛くて、もう一度額に口付けた。ーーが、この従順さは少し不安にもなる。ゆうくんはきっと、僕でなくても素直に従うだろう。特に今は新婦の代役だなんてありえない状況だ。役柄に徹し、雰囲気に飲まれて僕とこういうことをしている可能性も大いにありえる。

今後は僕だけを見て、僕とだけこういうことをしてほしいーーて、結局、渦巻くのは独占欲か。

結婚式からここ三日ーー怒涛の三日。花嫁に逃げられて、その弟に代役を押し付けた挙句、その子を可愛いと思うだけではなく、不埒な行為に及んでいる。しかも元の花嫁のことは大事だと言いつつ放置して。衝撃も混乱もあったにせよ・・・大分酷い。

性的対象は女性だったはずだ。男性に興奮を覚えたことは一度もないし、対象として見たこともなかった。けれど僕が腕に抱いているのは間違いなく幼馴染の男の子でーーぐだぐだと状況だ環境だショックだ、と言い訳してはいるものの。軽い接触が止まらなくなり、キスをして抱きたいと思って、僕だけだと言い聞かせながら、閉じ込めたいと独占欲を持ち、僕の元に堕ちろと思う。

・・・立派に恋愛感情じゃないのか、これは。あーちゃんの手前、良い人を続けたい僕は言い訳したくて認められないだけで。

たった三日。されど三日。人が気持ちに気付くには十分な時間というわけらしい。


「・・・嗣にぃ?」


ゆうくんが僕を呼ぶ。見つめてくる瞳に吸い寄せられるように口付けた。自身が吐精したそこに、多少の抵抗はあったものの、それよりも口付けたい気持ちが勝った。角度を変えて舌を差し込み、深く口付ける。そうしながら、抱き込んだゆうくんをベッドに誘って押し倒した。


「ゆうくん・・・」


顔を上げると、小柄な身体が白いシーツの上で息を喘がせている。それがとても扇状的で、今すぐに貪って僕のものにしてしまいたい気持ちと、ゆっくりと教え込んで開発していきたいという気持ちがせめぎ合う。

・・・これだものな、僕は。少しは落ち着け。

いやぁ・・・いつからこの可愛い子を、そんな目で見ていたのだろうか。意識をしてこなかっただけで、僕は随分と愛着を執着に変えていたのかもしれない。あーちゃんは、動物的な感が凄まじい子だったから感じ取っていたのかもしれないな。僕の意識の下にあるものを。・・・逃げて、正解だ。寧ろ、あーちゃんに感謝しないといけないかもしれない。そうでないと、二人に対してもっと不義理なことになっていたかもしれない。両方に手を出す、とか。凡そ人間として如何なものか?という感じに陥っていた可能性がある。大濠くんに介錯を頼まねばならないところだったかもね。してくれなさそうだけど。


「ゆうくん、可愛い」


首筋から肩にかけてキスを落として、耳朶を甘噛みする。そのまま耳孔へと続く表面を舐めると、ゆうくんが小さく喘いだ。ぴちゃぴちゃとわざと音を立てて舐めていると、


「・・・っやぁ、お、と・・・やらしい、から・・・っ」


手を僕の胸元に添えて、押す。

そんなゆうくんの反応の一つ一つが僕を興奮させた。

・・・堪らないな、本当に。


「やらしいことを、しているんだよ・・・?」


じゅ、と音を立てて吸うと、びくりとゆうくんの身体が震えた。

あー・・・抱きたい。小さな身体の中に僕のものを突っ込んで喘がせて出したい。

そう思う僕のものは、浴衣と下着の下で、がっつりと屹立している。半勃ちだったのが、ものの数分でこれだ。今までの性体験の中で一番元気な気がする。

観光した時に見かけたドラッグストアで、ローションとコンドームを購入すべきだった、と後悔しかない。が。その反面、指先を薄い腹へと伸ばして撫で回しながら思う。ここの中に僕を埋め込むのは、気兼ねのない自分のテリトリーが良い、とも。

うーん、凄いなぁ・・・このせめぎ合いは。これも経験したことのない感情だ。

どちらにせよ、何も準備がないのだからゆうくんを抱くことはできないが。


「ゆうくん、キスして?」

「あっ・・・・・・ぅ、ん・・・・・・」


僕の下にいる子にそう告げれば、逡巡したもののゆっくりと自分から僕の唇に自分のそれを重ねてきた。それをまた、貪る。

今日明日までの旅行だ。今はこれで良い。ゆうくんには今しばらく、じっくりと覚えてもらおう。更けていく夜の中で、僕はそんなことを考えたのだった。



色々と好きなようにした結果ーーラムネも忘れないで食べさせたーー、ゆうくんはまた倒れるように眠ってしまった。

やはり出してしまうと眠くなってしまうようだ。それも可愛い。

ゆうくんと自分を小綺麗にしてから、僕もゆうくんを抱き枕にして眠った。

そんな風に夜を越して、今は次の日だ。

朝食も終えて、荷物も纏めた。最終目的地は別府である。

ホテルは山の上に立つ、眺望が良いところで、観光地からは若干遠いが、大きい系列のところなので不備はないだろう。

ただ、ゆうくんから出がけに一つ、宣言されてしまった。


「きょ、今日はやらしいこと、なし!!風呂も夜もダメ・・・!」

「えー・・・寝るのは?一緒でいいよね?」


不満さを隠すこともなく、僕は問い返す。


「え、う・・・う、ん・・・変なことしない、なら・・・」


そこで迷ったら駄目だよ、ゆうくん。

ゆうくんの身体を抱き寄せて、唇へと啄むようなキスをした。

あんな宣言したくせに隙だらけすぎて面白い。


「キスと抱きしめるくらいもいいよね?」


ゆうくんは真っ赤になりつつ、ううう、と唸っている。

もう一度、いいよね?と耳元で囁く。と。


「あ、あまり長いのはやだ・・・気持ち良くて、おかしくなる・・・」

「・・・っ、ゆうくんーー・・・」


気持ちよいって、気持ち良いって!!それ、僕に言ったら駄目だってば!

僕は我慢できず、ゆうくんの唇を塞いで濃厚な口付けを長めにお見舞いした。

蕩けたゆうくんをもう一度押し倒さなかっただけ、僕は偉いと思うよ。



「ワニがいるんだけど?!嗣にぃ、ワニ!」


ホテルは夕方に入ればいいので、そのまま僕達は観光へと向かった。

ところでゆうくんの格好は、またワンピースである。今日は薄い藤色のもので、デザインも素材も昨日に着せたものと似通っていた。少し冷えるので白いカーディガンを羽織っており、やはり見た目はとてつもなく美少女だ。

あーちゃんと似通っている姿は中性的だったが、格好一つでこうも様変わりするとは。というか、ストッキングなんだよねぇ・・・あの下。また破ってしまわないか心配だ。いやぁ、お馬鹿すぎるな。


「ゆうくん、動物好きだね」


温泉を使ってワニを飼育している地獄に着くなり、ゆうくんは興奮していた。

そういえば昔から動物園とかは好きだった気がするな。水族館とかも。


「んー。好き。もうちょっと理数できれば獣医になりたかった」

「え、そうなの?それは知らなかった・・・」

「だって言ったら、勉強させられるじゃん」


双子のことで僕が知らないことがあるとは・・・まあ、それもそうか。ここ数年、昔ほど近しくは接していなかったのだし。


「でもゆうくん、そんなに理数ができないわけじゃないよね・・・?」


近くなかったとは言っても勉強は見ていたので、それを思い出しながら首を傾げた。ゆうくんは、いやいや、と手を振る。


「2年の頃から文系コースだったしね。そんなに難しいのがなかっただけで・・・俺、動く点Pをいつも呪ってたよ。止まれ!動くな!って。あ、私・・・?口調変えるの難しいなぁ・・・」


自分の口元を抑えながらゆうくんはため息を吐いた。どうやらゆうくんは帰っても女装を続けるらしい。流石に大学に行くような平日はゆうくん本来の格好だが、休日に僕と出かけるような時は、ということらしいのだが・・・本来の姿でも僕はいいと思っている。ちょっとボーイッシュな女の子、で通らないこともないのだし。

でも、そうやって気遣ってくれることは嬉しく思っているわけで。


「僕の知り合いの前でだけ気を付ければ良いんじゃないかな?普段は気にしないでいいよ」

「うーん・・・あんまり器用じゃないからなぁ・・・お、私・・・」


苦笑を落としながら頭を掻く。そんな手を取って繋いだ。


「大丈夫だよ。あっちも回ってみようか、奥さん」


ゆうくんを引き寄せる。一瞬だけ驚いたように表情を変えたが、すぐに笑顔になって頷いた。

それからも観光地を色々と回った。お昼は地獄蒸し、というのを二人で楽しむ。温泉の湯気を使っての蒸籠蒸しのようなものだ。湯気の立ちこめる竈門に食材をいれるのだが、何人かは「熱い」と叫んでいる。器用でないとゆうくんは言ったが不器用でもない。それでも湯気の中にゆうくんが手を突っ込むのは若干ハラハラしてしまった。杞憂に終わって良かったけれど。

お土産もたくさん買った。僕は会社の関係があるので、どうしても多くなる。


「社会人になったらそんなにいるの・・・?!」


とゆうくんは顔を青ざめさせていた。ちょっと多く用意しておいた方が便利だと、社会経験上知っているのでこういう所はお金を抑えないようにしていただけなのだが・・・確かに、ゆうくんが買い求めたものは少なかったように思う。大学生活が心配ではあるものの、仲の良い友人が出来ればいいな、とも思う。・・・ゆうくんを変な目で見ない子限定にはなるが。


「あーこれ、あさが喜びそう・・・買っとこう」


ちょっとヘンテコな絵柄の手拭いを取りつつ、ゆうくんは笑った。

やはり片割れのことは思い出すのだろう。ずっと一緒だったしなぁ・・・。でもその寂しさも利用できてしまうわけで。おっと、悪魔の僕には寝ていてもらおう。今は。

ああ、そうだ。大濠くんにも色々と買って帰らなければ。僕の脳内で随分と活躍してくれたしね。


そんなこんなで時間は過ぎて、日が傾きかけた時間、ホテルへと向かう。疲れたのか、ゆうくんは移動中、助手席で眠っていた。到着したときにキスして起こしたら、胸を叩かれる。・・・かっわい・・・。

部屋に入ったので、ゆうくんを抱き寄せようとしたら、察知したゆうくんが身をかわして部屋の奥へと走った。そして僕を振り返る。


「今日は!しないって!俺!言ったからな!!」


大きなガラス窓を背にして、頬を赤くしながら僕に叫んだ。

どうしてそっちに逃げちゃうかなぁ。後ろに逃げ場がないのに。

僕は一歩一歩ゆうくんに近付いた。そんな広いわけでもないし、ゆうくんの前に辿り着くのに時間は有しない。あっという間に僕はゆうくんの前だ。


「え、ちょ、なんでこっちに来るのかなぁ?!は、離れて!!」


あたふたとゆうくんは慌てている。僕が手を伸ばすと傍をすり抜けようとするが、逃すわけもなく。ゆうくんの身体をしっかりと捉えて抱き込んだ。


「逃げたら追いたくなるのが男ってもんじゃない?」

「はーなーせーーー!!嗣にぃ・・・!ちょっと・・・」


腕の中で暴れるゆうくんの首筋に顔を寄せる。滑らかなその場所に口付けて、吸い付いた。


「あぅっ・・・やだっ、しないって、ば・・・っ!」

「ゆうくんが上手く逃げれたら、何もしないよ」


そのまま文句を言う唇を塞いだ。

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