第19話 side:U 下調べとご奉仕と

「自分で脱いで見せて?」


ん・・・?

上体を起こした嗣にぃは、それはとてもとても良い笑顔で俺に言った。


「・・・え。じ、自分、で・・・?」


困惑する俺の手を嗣にぃが取って、引き起こされる。

笑顔の男は頷いて、先程、俺がそこに立った時と同じように、俺を自分の前に立たせた。


「そう。下着だって、着けないで来てくれたんでしょう?浴衣も自分で脱いでご覧?」


仄かな光の中、足を組んで俺を見上げる。悠然と微笑み優しそうな口調とは裏腹に有無を言わせない圧があった。俺は唾を飲み込む。

いや、てかさ?俺、結構頑張ったんですよね、これでも!

下着だってさ、キ、キスだってさ・・・!自分で考えてしてるんですけどね?!

まあ、正直なところ、下着をつけていかないのはやりすぎな気がしなくもなかったが・・・嗣にぃの反応を見ると、まんざら失敗ではない・・・ような、気もする。

何せ相談相手がいないので、俺の知識はスマホ様頼り。

ちなみに本日の教科書は『瞬殺!片思いの彼を落とす三つの方法~お触り編~』である。このチョイスがあっているのかどうかも分からない・・・が、それによると


1、とことん満足させる

2、好きとは伝えない

3、謎を残しておく


らしい。この三つがまた枝分かれしているのだが、1についてはそう難しくはなかった。「相手の要望をきく」とか「照れつつも大胆に」とか。そうした上で「身体の相性が抜群」と思わせれば良い、と。目の前の男はどう見ても慣れているようにしか見えないので、俺程度の浅知恵で満足するのか心配だが。

そして2が結構難しい。気持ちなんて伝えればいいものだとーー簡単かそうじゃないかは別としてーー思っていたのだが、著者によれば「好き好きアピールはセフレへの第一歩!注意!」とのことだった。「自分を好きでいてくれてセックスできる相手」と認識されるらしいのだが、恋愛経験のない俺からすればよくわからない話だ。若干男への偏見が入っていないだろうか。いや、もうよくわからない。ただその文章の結びには「好きという気持ちが彼に重たく感じられる可能性があります」とあり、地味に納得してしまった。そこは避けたい。

そして最大の謎が3である。「セックスをしてしまうと「ゴール』と勘違いしてしまう男性も多くありません。征服感を出させないためにも謎や影は残しておきましょう」・・・難しいぃ・・・。なんだそれ。結局のところ、こういう行為って有用性があるのかないのか・・・。しかし順番からすれば1が重要事項にも思えて、色々と実践に移したわけだ。


「ほら、ゆうくん」


まごまごとする俺にもう一度、嗣にぃは声をかけて来た。

くっそっくっそ!ああ、もう!いいじゃないか!やってやりますよ!ええ!

籠絡すると決めたからには、やってやろうじゃないか・・・!

・・・と、心の中で息巻いてはみるものの、実際にやるとなると、そうもいかずなかなか手は動かない。

今まで生きてきて、病院や風呂以外で『服を脱げ』なんて言われることはそうそうなかった。ましてやこんな状態なわけで・・・。

それとは反対に、俺のことをじっと見ている嗣にぃは、楽しげだ。


「・・・っ・・・・・・」


観念して、俺は帯へと手をかける。

浴衣の結び方なんかわからないから、適当に蝶結びをしたので、紐を引っ張れば、それは簡単に解けた。もう一つ残る結び目を解くのには、少しだけ時間がかかってしまった。何せ恥ずかしさで手が震えて仕方ない。

どうにか解いた帯を手から離して、床に落とす。

そうすると、浴衣の前がはだけて、肌が嗣にぃの前へと晒された。

見られるの、恥ずかしい・・・!

肩にはまだ浴衣が残っていたが、もうこれで勘弁してほしい。

・・・俺のライフはゼロよ。


「・・・こ、これで、いい・・・?」


俺の顔は絶対に真っ赤だ。首まで熱く感じるので間違いない。

首を傾げると、嗣にぃは、


「いい子だねそれにしても・・・」


手を伸ばしてきて、俺の脇腹に触れる。思わず漏れそうになる声を飲み込むが、身体が揺れるのはどうしようもなかった。それさえも楽しむかのように、嗣にぃの指先が脇腹から臍へと滑り下腹へと落ちていった。


「ゆうくん、体毛が薄いよね。ほら、ここも」


つ、と下の毛の上に指が乗って、俺は思わず腰を引いたが、嗣にぃのもう一つの手が俺の腰へと伸びる。その手が、引いたはずの腰を強めの力で、嗣にぃの前へと戻した。結果、俺は下半身を嗣にぃに向けて突き出す形となった。


「ちょっ・・・!や、やだっ・・・!」


流石にこの格好はない・・・!嗣にぃの肩に手を置いて、抵抗を試みるが、そもそも俺に力が入っていないのか嗣にぃの力が強いのか、格好を変えることができなかった。それどころか嗣にぃが、俺の腹へ顔を寄せて、臍の上にキスをする。


「っぁ・・・何して・・・っ!」


繰り返されるキスの間に、舌が時折、臍の穴の中を突つく。擽ったさが大きかったが、たまにぞくりとしたものが背中に走った。嗣にぃの指は指で、下腹と俺のものとの境目をゆるゆると撫でてくる。ともすれば反応しかける自分自身を食い止めるために、俺は深呼吸を繰り返した。

まずい、このままじゃされるがままだ。俺には教本様の「相手を満足させる」をこなす使命がある。


「つ、嗣にぃ・・・!俺、したいことが・・・!・・・っぅ」


だから触るのをやめて、と身を捩る。嗣にぃは視線をあげて、俺を見た。

顔面偏差値バカ高のその表情は色気がダダ漏れていて、格好いい、では済まない風情だ。本当に、ただの人をやっている意味がわからない。なんたらコレクションとか出れそうなのに。


「何を、したいの・・・?」


嗣にぃから聞かれる。そりゃ、提案をしたのだから聞かれるのはごく自然なことではあるのだが。どう説明したらいいのだろうか。俺は迷いながらも、えっと、と続けた。


「そ、その・・・その、ね。ご、ご奉仕・・・?しようかな、と・・・」


いや、これさぁ。なんて言えばいいんだよ?!

嗣にぃがきょとんとしながら首を傾げる。うん、もう聞かないでほしい。動くので!俺は嗣にぃの肩を叩いて、離して、と告げる。それで嗣にぃが解放してくれたので俺は一つ息を飲み込んで、床に跪いた。視線が逆になり、今度は俺が嗣にぃを見上げる形となる。

今から自分がしようとすることを考えると、心臓がばくばくと煩い。


「ゆうくん・・・?」


嗣にぃは相変わらず首を傾げたままだ。もう一つ、息を飲み込んで俺は嗣にぃの膝に手を置いた。


「俺、嗣にぃの、舐める」


俺のしたいことは、いわゆるお口のご奉仕・・・口淫だ。相手を、しかも男を満足させるだなんて、これくらいしか浮かばなかったのだ。短絡的だとは思うし、どん引かれやしないか怖い。それでもスマホ様で検索はしたのだ!

緊張のあまり、カタコトしか出ない。な、情けない・・・!

一昨日の俺に教えてやりたい。二日後にとんでもないことするし、なんなら新婚旅行一日目からやばいですよ、って。たった二日でここまで意味のわからない状況に進むなんて、ありえないだろ。普通。姉の夫とこんなの。俺が代役中なので、俺の夫ではあるけども。ただ片思いの俺としては、好都合といえば好都合なので、受け入れて利用しますけどね!

嗣にぃが何を思って俺とこういうことするかは、もう知らない。考えない。どうせわからない。

暫くの間、嗣にぃは俺を見ていたが、また笑顔に戻った。これ、引かれてない?大丈夫か・・・?


「いいよ。ゆうくんのしたいように、してみてご覧」


なんて、俺の頬を撫でながら言った。余裕ですね・・・悔しい。

嗣にぃは組んだ足を開き、俺が股間に近づきやすいようにスペースを作ってくれる。俺は身体を少しばかり進ませて、嗣にぃの股間に両手を伸ばした。


「し、失礼します・・・」


わけのわからない声をかけつつ、浴衣を開き俺と同じボクサータイプの下着の上からそっと触った。そこは反応を示しており、硬さがある。その様で、俺に興奮してくれているのだと知って、ちょっと安堵する。少なくとも、引かれてはなさそうだ。顔を近づけて、布越しに口付けると、嗣にぃが身動いだ。


「お手柔らかにね、奥さん」


慣れてるくせに、何を言ってるんだか、この男。

下着をずらして、ソレを取り出す。昨日にチラッとは見たが・・・やはり、大きい。俺のものとは何もかもが違う。人間だし、千差万別だろうけども・・・こんなに違うのか、と一瞬怯む。だって、嗣にぃのソレは太いわ長いわ硬いわの三揃いである。しかもガッツリと勃っているわけでもなさそうで・・・。これ、まだ大きくなるってことだろうか。


「どうしたの?ゆうくん」


ついついソレに見入ってた俺に、嗣にぃの声がかかった。俺は我に帰り、首を横に振り、改めて、出したものの先っぽへと唇をつける。

舐める、とは言ったし取り組んでみたものの・・・どうすんだ、これ。されたこともないししたことなんて、勿論ない。男であるが故に、多少、弱いところはわかるが・・・ああ、もう、AVでも見ておくべきだった。

唇をつけた場所から舌を這わせて、裏筋の部分を舐める。血管が浮くそこは舌触りがデコボコだ。


「んっ・・・」


袋へと続く場所にも舌を持っていき、そこからまた上に戻した。ぺろぺろと舐めながら、嗣にぃのものに唾液を塗す。

ええと、どうすんだ、本当に・・・必死で考えつつ、得た情報を脳内で思い出す。

そうだ、咥えたらいいんだっけか・・・?

俺は口を開いて、亀頭の部分を口内に入れた。


「・・・っ、うん・・・ゆうくんの口の中で、気持ちいいよ・・・」


嗣にいが俺の頭を撫でる。たったそれだけの言葉なのに、気をよくしてしまう俺はチョロい。はじめよりも膨らんだソレの根本へと指を回しながら、口内へと深く咥え込んだ。


「ふっ、う・・・っ」


俺の口の中いっぱいに嗣にぃのそれはあるというのに、信じられないことに全部ではない。せいぜい半分くらいしか入っていないのだ。身体が大きいと、ここも一緒に大きくなるのだろうか・・・?出来るだけ深く口の中に進めたが、喉の奥までいれても根元まではいかないのだ。嘘だろ・・・確かに大きくはあったけれど・・・。

えずきそうになる前に、顔を戻す。

こんなん、どうやってイかせればいいんだよ・・・とりあえず、扱かなきゃかな?

そう思いながら、唇を窄めて、顔を動かした。


「ん。いいよ、ゆうくん。手も動かしてみて」


言われるままに、根元へと回していた手も動かす。色々と忙しすぎて、わけがわからないが、口元からは俺が竿を扱くたびにじゅぼっじゅぼっ、と水音がしだした。

嗣にぃの手が俺の髪を撫でて、たまに、耳を緩く摘む。


「んっ、んっ・・・」


耳から伝わる感触と、舌の上を滑る剛直からの感触と、更に重なる水音で俺もだいぶん興奮していた。自分のものも反応していて、俺は太ももを擦り合わせながら必死に、ソレをしゃぶる。ぐ、っと喉の奥まで数回飲み込んで、苦しくなり、一旦口を離す。


「随分と・・・やらしくしゃぶってくれるね。僕のものは美味しい?」


上から聞こえる声は聞いたことのないトーンだ。見上げると、そこには見たことないくらい欲情した男の顔があった。色気にあてられ、ぎゅっと腹の奥が熱で疼く。味なんてよくわかりもしないが、嗣にぃものが萎えずにいてくれるのは嬉しい。なので、小さく頷いた。すると、そんな俺の唾液に濡れた唇を、嗣にぃの指先が拭って口内に入り込む。


「んふっ・・・あ・・・っ」


舌が敏感になっていて、押されると声が出てしまう。


「こんなに可愛い舌で・・・まだ続ける?」


蠱惑的に嗣にぃの唇が笑みを刻み、俺は何度も頷く。口内をぐるりと指が撫でて出て行った。ぬらりと唾液に濡れる亀頭を、俺はまた食む。先走りが出ているのか、舌の上にはしょっぱさが広がった。大したこともないだろう口淫でも感じてくれているらしい。素直に嬉しくて、懸命に舌を顔を指を、動かした。


「んふっ、ん、ん、んっ」


顔を前後させて、剛直を扱く。感じてはくれているようだが、まだソレが達することはないようで、たまに嗣にぃは身体を揺らしたり息を漏らしたりするのみだ。結構時間は経過してるとは思うが・・・。俺も初めてのことなので、上手くはない。

気持ち良くなってほしいし、出来ればイってほしい。

頑張って、喉の奥まで咥えるが、なかなかうまくいかないのだ。舌をもっと使いたいが、何せ口内いっぱいに嗣にぃのものがあった。


「ふふ、驚いた。ゆうくん、僕をイかせたいんだ?」


俺の頭を撫でながら、嗣にぃが俺に問う。口の中にソレがあるので、声では答えられず、俺は小さな動作で頷いた。すると、嗣にぃはゆっくりと立ち上がる。俺も動きに合わせて、膝立ちになった。


「じゃあ、手伝うね。ちょっと苦しいと思うけど・・・我慢してね」


頷く前にそれは開始された。嗣にいの両手が俺の頭を掴み、腰が動き始める。自分で頭を動かしていた時と違って、力強く早かった。


「んぐっ、んっ、ふっ、う、ん・・・っ」


歯を立てないようにするだけで、俺は精一杯だ。口内で繰り返される律動は激しいもので、喉奥と思っていた場所よりも更に奥へ亀頭が入り込んで、苦しいし、涙が出た。


「ごめんね・・・っ、もう少し、だから」


顎なんかとうに疲れ果てていて、加えて強制的な前後運動は止まらない。俺は嗣にぃの太腿に軽く爪を立てていた。苦しいからやめて欲しい、でも、イってもらいたいから続けて欲しい。相反した気持ちでぐちゃぐちゃになっていた。

どれくらい、そうやって口内を犯されたのか。嗣にぃの腰の動きが一段と早くなり、


「・・・っ、ゆう、くん・・・」


俺の名前が呼ばれ、舌の奥の方で動きが止まりーー唐突にビュルっと体液が放たれた。2度、3度、と出された液体が、独特な生臭さと苦味を口内に広げる。

漸く嗣にぃは達したようで、俺の上で浅く呼吸を繰り返した後に、大人しくなったものを俺の口から引き抜いた。頭からも手を離される。


「ん、うっ・・・」


吐き出されたものは、喉の奥で射精されたこともあって、半分は勝手に流れ落ちて行ったが、半分は口内に残っている。

これ、どうすれば・・・飲めば、いいんだろうか・・・。

そうだ、どっかの18禁なサイトには『飲むと彼氏は喜ぶ』みたいなことを書いてあった気がする。俺は口元を両手で押さえて、粘度のある液体を無理やりに飲み込んだ。


「ごめんね、ゆうくん。口の中に出して・・・今、ティッシュを・・・ゆうくん?」


嗣にぃが俺の顔を上げさせた。

ええと・・・飲み込んだ後はどうすんだっけ・・・『口の中を見せる』だっけ?

俺は口元にあった手を退かす。


「・・・ぜんぶ、のんだ、よ・・・?嗣にぃ、みて・・・」


口を開いて、何も残ってないことを示す。

嗣にぃは目を見開いて俺を凝視したあと、天井を仰いだ。

・・・あれ??俺、何か間違いました・・・?

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