第15話 side:U 観光と俺の弱さと
いや、もう本当に・・・昨夜からまずいだろうのオンパレード。
明らかにお互い、一線・・・いや、それどころでなく二線も三線も超えている。
嗣にぃは嗣にぃで俺を抱こうとしているし、俺は俺でそれを拒んでいない。
嗣にぃがそういうことをしてくる理由なんて、相変わらず想像もつかない。
身代わりだからなのか?ーーでも俺は男だし。見た目はともかく、抱くともなれば勝手が違うだろう。柔らかくもないし。
じゃあ勢いなのか?ーーにしては、夜もキスしたい触りたいと言ってくる。勢いならば二度三度はない気もする。
ううううううん・・・わけがわからない。
まあ、ね・・・嫌われてはいないと思う。それは確かだろうけど。
あー・・・実は男も好きとかあるんだろうか?いや、あさとの結婚を選んでいた時点で・・・どうなんだろうか?聞いてみようか。
「ね、ねえ・・・嗣にぃって、男も好き・・・なの?」
俺が問いかけると、嗣にぃが咽せた。あっちゃぁ。
手を伸ばして、嗣にぃの背中を撫でる。大丈夫だろうか?
「・・・吃驚した。なんでそんなこと・・・」
嗣にぃは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして俺に聞いてくる。
そりゃなぁ、俺にあんなことしてればさぁ・・・。
「・・・だって、嗣にぃ・・・俺に、その、色々とするじゃん・・・キ、キスとか・・・」
言葉にするのはなかなかに恥ずかしいもので、声は尻窄みになる。
嗣にぃは一時、俺を見つめた後にふは、と笑い俺の頬を撫でた。
「それは、ゆうくんが特別だからだよ。男だから、とか、女だから・・・とかではなく、ゆうくんは特別だから。可愛いしね。それに・・・」
大事な奥さんだからね、と額に口付けてきた。
特別。特別か。喜んで良いのやらわからないが・・・正直、嬉しい。そうか特別か。
嗣にぃといれる時間は一年。でもこれは・・・幼馴染という立場にあぐらをかかず、奥さん役を務めつつ励めばーー・・・もしかして、ずっと一緒にいられるのでは?!
いやいやいやいやいやいや!でも、もしかしたら?!
最悪の話、振り向かれなくても、この一年、短くて長い一年、俺の思い出にすれば良いだろうし、嗣にぃに俺への情が残れば・・・ずっと暮らしてくれるかもしれない。
そう思うと、なんとなく光明が差した気がして心が明るくなった。それに、特別だなんて言われて浮かれたのもある。
俺は近くにあった嗣にぃの顎に、自分から初めて口付けた。
「ゆうくん・・・」
嗣にぃが驚いて、俺を見る。
まー、そもそもだ。俺はキスもそれ以上も、気持ちいいと知ってしまったわけで。
嗣にぃから触られている、という事実も手伝って、やらしい行為もほぼ受け入れてしまっており、拒む気持ちも少ない。
・・・弱すぎだろ。やっばい。いやいやいや。誰が相手でもいいと言うわけではなく、嗣にぃが相手だからだけどね?!
ああー・・・なんちゅう状況・・・・・・。
嗣にぃはにっこりと笑むと、水を含み、もう一度俺の唇を塞いできた。
「ふぁ・・・っ・・・」
舌と舌が擦れあって、熱い。口内に水分が流れ込んできて、飲み込む。
ああ、本当、これ気持ちいい・・・。
・・・って、いやいやいや!このままだとまた押し倒されるのでは?!
それもさぁ・・・いや、うううううん・・・悪くはないけど、せっかく九州まで来ているわけだし。ずっと宿にいるわけにも・・・!とか考えていたら、割とあっさりと嗣にぃの唇は離れた。俺のエロ杞憂過ぎた。
離れ際に俺の口の端へと口付けて、
「夜にもっとしようね」
なんて、嗣にぃが微笑んだ。
おあああああああああああああ!ほんっと!その!顔面!好きぃ!
ご馳走様ですうううううう!・・・黙れ、俺。
※
軽く身なりを整えて、俺たちは朝食に向かう。
朝食は和食と洋食とで選べて、和食の方をチョイスした。
椎茸を小さな七輪で焼くなんて初めての経験で面白かったし、昨日の夕食と同じくとても美味しかった。その後は観光に出ることになった。
「うーん・・・外に行くなら着替えるよ。あさの格好をする」
そう言うと、嗣にぃは俺のままの服装で良いとは言ったが、これも代役のうちの一つだろう。写真とか撮って飾ったりもするかもしれないし。
なので、服は空港で購入してもらった、ワンピースを着ることにした。
桜色でヒラヒラしていてーーシフォンワンピースというらしい。嗣にぃが教えてくれた。おいおい・・・よく知ってるな。女物も把握してんのかいーーあさに似合いそうなものだ。なので、まあ、俺が着てもおかしくはないだろう。骨っぽい足を隠せるようにロング丈で、靴やバックもそれに合わせたものだ。この辺りは嗣にぃが選んでくれた。
ストッキングがなんとも不思議な感触で吃驚する。女の子って大変だなぁ・・・男なんて下をチャッとはいて、上をパッと着れば終わりだ。
ワンピースを着るのも、髪型を整えるのも嗣にぃが手伝ってくれる。
なんでも出来るの凄いな・・・。出来過ぎじゃね?
嗣にぃの手伝いがなくても、あさの格好が出来るようにしないと。
仕上がった鏡の中に映る俺は、髪は短くあるものの、あさだ。
凄い、向こうであさが喋り出しそうなくらいだ。
「可愛いよ」
嗣にぃが俺の頬にキスをする。ほんっとこの男な・・・。
そういえば朝食の時も椅子を引いてくれたりしたのを思い出す。さりげなく扉を開けたりもしていた。これがスパダリと言うものか・・・。
しかし何かと言えばこの『可愛い』を繰り返されるが、俺には俺のどの辺が可愛いのかさっぱりわからない。これなぁ・・・分かれば、こう、攻略的な?ことも出来そうなのだが・・・。何せこの人俺がモリモリと食べていても「可愛いね」だし、なんなら歩いても立ち止まっても「可愛い」とか言うのだ。可愛いがゲシュタルト崩壊。
顔なのか?言動なのか?仕草なのか?・・・さーーーっぱり分からない。
まあ、おいおい研究していくしかないんだろうなぁ・・・。オラ、頑張っぞ!
※
さて、湯布院の中心へと繰り出したわけだが。
天気が良いことも影響して、とにかく壮観だ。周囲を見渡せば山が近く、緑も目に眩しい。大分に着いた時から思っていたが、山も海も近い。
尤も、今いる場所は盆地なので海は見えないが、明日に移動する別府市はそんな場所らしい。
湯布院の街には観光客がかなり居て、混み合っている。国内外から訪れているようで、日本語以外もチラホラと聞こえた。
物珍しいものも多く見所も多いのだが、狭い道に車なんかも通ったりする場所で、俺がウロウロとしていると、
「ゆうくん、危ないよ。こちらにおいで」
と、嗣にぃは俺の腰に手を回して、引き寄せる。
その間近を車が走っていく。あまりにもスマートな流れ。これがスパダリと言うものか・・・(二度目)。
街中にはドクターフィッシュなんてのもあった。何でも魚が古い角質を食べてくれるらしい。二人で足をつけるとーーストッキングの着脱が面倒くさかったーー嗣にぃの方に魚がたくさん群がっており、それを見た嗣にぃが天井を仰ぎながら「老廃物が多いってこと!?」てショックを受けていたのはちょっと面白く笑ってしまった。
魚繋がりで鯉に餌もやった。
鯉の餌は自販機で売っていたのだが、その中にはおみくじ付きなんてのもあった。しかもそれは恋みくじだ。
「面白いねぇ。こっちにしてみようか?」
そう言いながら嗣にぃがボタンを押して出たのはなんと大吉だ。中を覗き見ると、
『正直な心を持ち励めば、さらに幸運多し』
『願望 期待してよし』
これはどっちにとってだろうか・・・?
嗣にぃはにっこりと笑って、俺にもう一度中を見せる。
「学業、万事思うがままだって。よかったね、ゆうくん」
着眼点そこですか。あーそうですか・・・ばーか。ばかばかばーか。
しかし、群がる鯉ってなかなか凄まじい・・・ところで鯉の喉には歯があって十円も曲げる力だと嗣にぃが教えてくれる。鯉こっわ!絶対に口に手は突っ込まないでおこう。そもそも、あさがやりそうなことだけど。
途中で街中を走る馬車にも乗った。観光辻馬車と言うらしい。これも珍しくて楽しかった。
色々と食べたりお土産を買ったり・・・そんな具合に、観光の時間は平穏に流れる。
一通り街中を周った後、俺達は嗣にぃの提案により、一度宿へと戻ることになった。何でも夜は夜で夜景を見に行きたいらしい。
で、だ。
宿に戻ったわけだけれど・・・皆に教えてしんぜよう。
俺の目の前にいる男、手が早いですーー・・・。
あ、知ってました?知ってました?!いや、もしかしたらそうじゃないかなって、思ってたよ!思ってたけどね!俺も薄々感じてた!
でもさ、ほらね。朝に夜がどうのこうのと言ってたからね!油断していたんですよね、俺もさ!
まだおやつの時間よりも少し前ですしね?!
今ね、俺ね、キスされてまーーーす!!もうそりゃ、めっちゃ濃いのーー!
それは開けられたドアを潜り、部屋に入った時のことだ。
後ろで嗣にぃが扉を閉める音を聞きつつ、俺は着替えるかどうかを考えていた。
先ほど帰り際に夜景を見にいくことは聞いたのだが、夜なら普通の格好でいいかな?とかそんなことを考えていたら、いきなり手を引っ張られて嗣にぃに抱き込まれる。
「うわっ?!え、な、なに・・・っ?!ひあっ」
腕の中で、嗣にぃが俺の頸に齧り付く。
え、なんだ?!何が起こった?!振り向こうとした途端、俺の身体は嗣にぃの手に回されて、今度は壁に背中を押し付けられていた。
嗣にぃの手が俺の顔横に置かれる。
あ、これ知ってます。結婚式の時もされた壁ドンってやつですよね?!
え、なになに?!なんで?!何故、いきなり俺はこんなことをされているのか?!
吃驚して俺は嗣にぃを見上げる。
「ゆうくん・・・」
そこには熱っぽい眼差しを向けてくる嗣にぃが居た。
えっと、これはその・・・そういう?え、そういう?どこ?!どこで?!この人どこでそんな気になった?!スイッチあったか?!
混乱していたら、あっという間に唇が塞がれる。
「んあっ・・・っ」
舌が遠慮なく咥内に入ってくる。ぬるっとしたものが俺の舌を絡め取って、ぐにりぐにりと絡み合う。混じり合った唾液が咥内に流れてくるので、俺は懸命にそれを飲み込んだ。
「んぅっ・・・ふあっ・・・あっ・・・」
キスをしている間に、嗣にぃの手が動いて俺の腰を撫でながら降りていく。
ワンピースの裾を手繰り上げて、その指がストッキング越しに俺の太腿を撫で上げた。思わぬ感触に俺の身体が震える。
「ひゃっ・・・・・・っ・・・んっ・・・つぐに、ぃっ・・・」
重なり合う唇の合間から名前を読んだら、少しだけ嗣にぃの唇が離れた。
俺は息を浅くしながら、その顔を見つめる。
ちょ、もう・・・なにこれ・・・嗣にぃの表情が、色気が・・・ダダ漏れてえろいぃ・・・。
あと、気持ちいい、キス、気持ちいい。非常にまずい。何がまずいって、ナニが・・・。勃ってきているわけで・・・何せ十代なもので・・・!
「ゆうくんの可愛い姿に我慢できなくて・・・ごめんね?」
悪いとか思ってるのだろうか、この人。再び唇が重なって、貪られる。何せ気持ちが良いものだから、俺は拒めないままされるがまま。舌が重なり合って、ぴちゃぴちゃと水音が聞こえて、恥ずかしさに耳が熱くなる。その間も、嗣にぃの手は太腿を撫で。足の間に嗣にぃの片足が入り込んで、その膝が上がって、ぐに、と反応し始めた俺のものを刺激した。
「んんんっ・・・・・・っ・・・」
口は依然と塞がれたままで、くぐもった声が咥内で響く。
何度も何度も嗣にぃの膝が俺のものを押し上げて、そこからの快感も入り混じり、堪らなくなって、俺は嗣にぃの胸元を服の上から緩く引っ掻いた。
すると嗣にぃの顔が離れ、ふふ、と微笑が刻まれる。
「ゆうくん、キスが好きだねぇ・・・ほら、ゆうくんの・・・僕とのキスで興奮しちゃったね?」
耳の奥へと届けるように、耳朶を舐めながら嗣にぃが呟く。
すっかりと下着の下で硬くなったそれを、柔らかいワンピースの生地ごと握り込まれ、俺は身体を跳ねさせた。
もーーーーーーー!まずいってーーーーーーー!!本当に・・・!!この男・・・!
「ひゃ、ぁっ・・・やだぁ、あんっ」
色々と言ってやりたいのに、快楽に惨敗気味な俺から漏れるのは甲高いものばかりだ。嗣にぃはそんな俺を嬉しそうに見ては、耳に顎に唇に・・・様々な場所にキスを降らす。
「ゆうくん、どうする?ここで、されたい?それとも、ベッドに行く・・・?」
問われる。なんですかね、そのエロ二択。本当に勘弁してほしい。本当に!止めるはないのかよ!
それに嗣にぃ言わせるのとか意識させるの好きすぎじゃないだろうか?!
俺は困惑しながら首を傾げた。が、答えを言わなきゃ許してくれないらしく、嗣にぃは、どっち?と聞き返しながら俺のものをフニフニと握り動かす。
ちょ、も・・・!なんちゅう!なんちゅう・・・!
俺は嗣にぃの引っ掻いた衣服を握りしめながら、見上げる。
「ベッド・・・が、いぃ・・・んんっ・・・」
羞恥で震える声で呟いた。恥ずかしいんですよ!言わされるの!とてつもなく!
嗣にぃは、美しく微笑む。正直、その微笑みはーー悪人に見えた気が、した。
あああああああああああああああああああああ・・・俺またどうなるのおおおおおお・・・。
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