第11話 side:U 風呂上がりとキスと

お か し い だ ろ っ!?!?!?!


幼馴染って、いや、そもそも男同士ってこんなことしないだろ・・・!?

絶対におかしい。嗣にぃの中で人との距離ってどうなってんだよ?!

しないだろう、普通。男同士だから大丈夫って、何が大丈夫・・・。

いや、しないよな?・・・しないよな・・・?仲良くてもしないよな・・・?

・・・・・・あれ?どうなんだろうか??


ここで、俺はふと気付いた。


友人はそれなりにいる。あまり多い方でもないが、学校に行けば話をしたり、学外でも遊んだりと、今までの学生生活で困るようなことはなかった。

俺が風邪などで寝込んでいれば心配して連絡だって数人からは来るーーが、だ。

所謂親友、とかいうレベルで付き合う友人は、俺にはいない。

いつも一緒に居たのは当たり前のようにあさだ。家でも学校でも、あさは随分と近くにいる存在だった。

相談事もお互いにするのが普通だったので、事欠かなかったわけで。

つまり、仲の良い男同士の正しい在り方、というものを俺は知らない。

学校内ではどうだっただろうか。男同士二人でつるんでいる男の友人はいたが・・・手を組んだり肩を組んだりは見たことがある。それは俺だってされたことがあるけれど・・・流石にこんな内容の話を聞いたことはない。

俺はどんだけあさに頼りきって生きていたのだろうか。ツケがまわってきている気がする。


「ゆうくん?」


いつのまにか俺の身体はシャワーが流されていて、綺麗にされていた。

手際いいなぁ・・・まあ、しかし。相変わらず俺は嗣にぃの膝の上で、腕は腰に絡まっている。

え、ねえ、これもどうなんだろう・・・なんか、もう色々と混乱してくる。


「ね、ねえ・・・」


先ほどの今なので、言葉を交わすのも気恥ずかしくはあるのだが、意を決して俺は口を開く。


「ん?」

「・・・こういうのって、本当に・・・その、男同士で、す、すんの・・・?俺、ずっとあさと居たから・・・親友とか・・・」


暗にどころかハッキリと親友とかいませーん、と人間関係の薄さを露呈してしまっているのも恥ずかしさ倍増ではある。しかし、そんな俺を嗣にぃは笑うわけでもなく、首を傾げた。


「うーん。どうだろうね?僕はそういう経験がたまたまないけど・・・たまたまね?仲の良い友人と近しい接触はあるかな?少しの間留学した欧州なんかは普通にハグだキスだは普通だったし。こんなことも、他の人の話なんかでは聞くこともあるよ」

「え、と・・・ありえなくもないって、こと・・・?」


聞いてはみたものの、結局、普通かどうかの判断がつかず、今度は俺が首を傾げた。嗣にいはにっこりと笑う。


「そうだね。そんな恥ずかしいことでもないと思うけど・・・ああ、でもやはり仲が良くなきゃすることでもないだろうからね。誰にでも話したり、したりしては駄目だよ?繊細なことではあるだろうし・・・ゆうくんには僕がいるから、ね?」

「し、しないよ・・・っ」


ちゅ、と俺の髪に口付ける。ひぇ。嫌でも頬が熱くなる。

こういうのも普通なのだろうか・・・?!え、もう、何が普通で何が普通じゃないのだろう・・・わ、わからん・・・っ!


「ね、ねえっ、その・・・キスしたり、も、普通・・・?なの・・・?嗣にぃ、なんか近いじゃん・・・!」


現在進行形で俺は膝の上だしな!

昨日から抱きしめられたり、今だって額やら耳やら・・・えらく嗣にぃは近い。そりゃさっきのだって近いどころじゃないが。そこは、ありえなくもないと聞けば納得もできる。が・・・。


「向こうでは普通だよ。あちらは自由だからね。こちらではない習慣だけど、僕に憧れがあるのかもしれないね。ゆうくんは、嫌?嫌なら・・・控えるけれど・・・」


癒しになるのにな、なんて寂しそうな声で嗣にぃが付け加えた。

え、何それ。あさに逃げられて傷ついたから癒しが必要・・・ということだろうか?

そういえば昨夜だって、多少酔ってたとはいえ『傷心だし』と言っていたことを思い出す。いや、酔っていたからこその本音なのかもしれない。

ならば、


「い、嫌ではないよ、嫌では・・・っ・・・あさが逃げたのは俺にも関係あるかもしれないしっ・・・お、弟としてできる限りは協力するよ・・・嗣にぃは傷付いて参ってるみたいだから・・・」


そう答えるしかない。だって俺はあさの代わりだし、癒すのも役目のうちな気がするし・・・何より、嫌か嫌じゃないかのシンプルな問いだけで考えれば、嫌ではないのだ。だって、俺は嗣にぃが好きだし。

ただ、いつか勘違いしてしまいそうで、そこだけが怖い。けれど俺の悩みなんて知らない嗣にぃは俺を今度は両手で抱きしめなおし、


「ありがとう、ゆうくん。そう、僕は自分でもわからないくらいにまいってるのかもしれないね。だから、ゆうくんに癒しを求めちゃうかもしれないけれど・・・嫌な時は思いっきり殴ってくれていいよ」


ね?と、今度は額に口付けた。


「ちょっ、う、うぅ・・・っ」


俺は嗣にぃから視線を逸らす。本当に、これ普通なのだろうか・・・。

あああああ・・・大学では、ちゃんと友達作ろう・・・!ちゃんと話せる親友・・・!

そして、あさ、早く帰ってきてくれよ・・・。



あの後、温泉に浸かり、嗣にぃの背中を流してーー結局、それも要求された。身体が大きいの羨ましいやらムカつくやら・・・ーー俺は先に浴室から出た。

触れられた場所を無駄に強く拭いてしまい、変に意識してしまったときは、我ながらアホかと思った。・・・いや、アホだろ、俺・・・。乳首がジンジンとするわ、股間は変な感じだわ・・・もうやだ・・・。

下着を着け、適当に浴衣を着る。

風呂から上がると、とにかくどっと疲れが出て、ベッドに倒れ込んだ。

出したしな。アレな。出したしな・・・!!童貞には刺激強すぎると思うわ・・・。

部屋は静かで、嗣にぃが動く音が少し遠くでするくらいだ。

俺はいつしかうとうとし始めていた。


「あれ?ゆうくん・・・ちゃんとお水飲んだ?おーい?・・・風邪ひいちゃうよ。・・・・・・仕方ないなぁ」


嗣にぃの声が聞こえる。

俺は眠気に負けて動けず、嗣にぃのされるがままで・・・口の中に水分・・・うん?!?!

水分?!?!?!え、俺これどうやって飲んでる?!

吃驚して目を開けると、どまん前にあった。


「?!?!?!?!?!?!」


どまん前ならまだ叫ぶくらいで済むのだが、叫べなかった理由を今から述べようと思う。

なんと、まあ、嗣にぃが俺の口を塞いでいたからだ。

え、何?!これ、何?!何が起こってんの?!?!?!

眠気が一気に吹っ飛んで、俺は目を大きく開ける。


「・・・っ・・・?!」


俺が目覚めたことに気付いたのか、嗣にぃの顔が離れる。

え、ちょ?!ええええええええ?!


「あ、目が覚めた?少しお風呂が長かったからね。水分を摂っておかないと」

「え、え、え?!す、水分?!えっ?!」


ベッドの上で、嗣にぃの腕の中、抱えられながら俺は狼狽するばかりだ。

けれど俺とは打って変わって、嗣にぃは落ち着いているのだ。


「どうしたの?」


どうしたもこうしたも?!え、もう何?!よくわからないのだが?!

俺とあなた、口がくっついてませんでしたかね?!今ね!!


「いや、えっ・・・?!水分、そうか、水分?!え、そ、そう・・・キス、してるのかと・・・」


俺がそう言うと、嗣にぃがきょとんと・・・ねえ、きょとんとするのやめてくれない?!居た堪れないんだけど!!何で!あーーーーーー何で、俺は言葉のチョイスがおかしいのか!言わなくてもよかっただろう!キスとかさぁ!

しかし、次の瞬間、ふふ、と嗣にぃが微笑んだ。それは、なんとも色っぽく。

俺の胸がどきり、と高鳴る。


「キスってのいうのはね、こういうのだよ」


再び顔が近づき、唇が触れ合う。唇が触れ・・・ちょ、えっ・・・。

何度か啄むように、俺の唇の上を嗣にぃの唇が辿る。

何が起こっているんだろうか、今。俺は瞠目して、息を殺す。


「・・・ゆうくん、口、あけて」

「・・・っ、あ、っ・・・」


ちょっとだけ離れた嗣にぃが俺の唇の上で呟き、その吐息に我に返って俺は息を吸った。そうやって開いた間から、ぬるりと何かが入ってくる。


「んっ?!」


それが嗣にぃの舌だと気付いた時には、もう遅かった。歯列を割って入ったそれは、俺の咥内を舐め、俺の舌を絡めとる。

俺は、嗣にぃが好きすぎて他の人とは付き合ったこともなく、キスなんかしたこともない。いや、厳密に言えば誓いのキスがあったので二度目ではあるが・・・どちらも嗣にぃだ。

当たり前だが、誓いのキスは触れ合っただけのもので、こんなことはしない。

これは所謂ディープキスというやつでは・・・。


「ん、んっ・・・ふ、あっ・・・」


息の逃し方がわからなくて、口を大きく開いて息を吸おうとする。すると、更に唇同士を深く重ね合わされて、舌がますますと絡み合い、唾液が入り混じる。

なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ・・・!

はじめての感触に戸惑う。舌が擦れ合うたびに、じりじりと身体の奥からも熱が生じるようで、俺は身を捩らせた。


「あっ・・・は、ぁっ・・・んっ・・・っ」


じゅ、と音を立てながら咥内を吸い上げて、嗣にぃの唇が離れた。

俺はそれを見ながら、息を吸う。多分、俺は興奮しているんだと思う。鼓動がうるさい程に聞こえて、息は浅くしか吸えなかった。

嗣にぃは、緩く俺の頬を撫でる。


「ゆうくん、蕩けてて可愛い・・・」


は?!とろけて、て何だよ。意味がわからない。そもそも、俺、何で嗣にぃとキスしてるんだろ。これはキスだよな?キスは、キスなんか、普通はしないだろ・・・なのに、なんで。

だが、頭も胸も煩く働くのに、俺の四肢はまるで別の生き物のようだった。

殴るなり、叩くなり蹴るなりすれば良い。そうすれば多分止められる。

なのに、俺の手はそうすることなく、嗣にぃの胸元の浴衣生地を握っているだけで、足は先ほど達したくせに、また硬さをもちそうなものを抑えるために腿を擦り合わせるだけだった。

俺の唇をペロリと嗣にぃが舐め、そのまま、また唇が塞がれる。

舌が入ってきて、先ほどのよりも強い力で絡まった。


まずい、これ、すごく気持ちがいい・・・。


そこから受ける初めての快感に力が入らない。そういえばさっきだってそうだ。嗣にぃが俺のものに触れてきた時だって、力が入らなかった。

やっぱり好きだからだろうか・・・。


「ん、ん、んっ・・・ふあっ・・・つぐに・・・ぃっ・・・」


頬を撫でた手が、喉元を撫でて、浴衣の合間から胸へと入ってくる。

指先が肌の上を撫でていく感触に、更に熱が高まり、どうかなりそうだった。

まだジンジンとしている乳首の上を、嗣にぃの爪先が引っ掻く。


「ん、ふっ・・・っ・・・あっ・・・」


唇は奪われたままで、息を継ぐ合間で、声が漏れる。

自分でも驚くほど、欲に塗れた声音だった。

おかしい、こんな・・・なんで、こんなことしてるんだっっけ。

疑問は浮かぶのに、強く拒めないままで、嗣にぃの手も舌も俺を翻弄し続けた。


「・・・ゆうくん・・・」


嗣にぃが俺の名前を呼びながら顔を上げたことで、ようやく俺は口を解放されたのだが、その長い指は俺の胸元にあるままだ。

数度か引っ掻かれた乳首は、浴室の刺激もあってか簡単に硬くなっていて、そこを、強く摘まれる。ごく弱い電流が走るような感覚に、俺の肩が跳ねた。


「ひゃんっ・・・やぁっ・・・つぐに・・・っ」

「これは・・・まずいなぁ。すごく、まずい・・・僕からしかけといて何だけれども・・・ゆうくん、嫌がらないと、このまま食べちゃうよ?可愛すぎる」

「た、べる・・・?」


思考回路なんてとうの昔にぐっちゃぐちゃだ。

止めなきゃ、と思うのに、気持ち良すぎて止めらない。

食べるってなんだっけ?俺を食べるのか。うん・・・?どういうこと・・・?


「あっ・・・やぁっ・・・、むね、やだ・・・っ」


考えている間も、胸の突起を指で弾かれて、また声が漏れてしまう。

嗣にぃは俺の目元に口付けながら、苦笑を漏らした。


「そう。このまま、抱いて、しまいそうーー・・・」


俺を抱いていた手に力が込められて、嗣にぃと俺の身体がより近くなり密着する。

嗣にぃの唇が俺の目元や、鼻先に触れて、もう一度唇の上を通った。


「だい、て・・・」


俺は力無く繰り返す。

だくってなんだっけ?だく・・・だいて?だいて・・・。

・・・抱いて・・・抱いて?!抱いて?!?!?!あ、抱く?!?!?!?!

え、まってそれって抱く?!?!え、ちょま、セッ・・・?!

馬鹿みたいに惚けた頭は何度か繰り返して、その言葉の意味を理解する。

それはまずいだろう?!?!?!??!?!?!?!?!??!?!?!

ちょっと、待ってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!?!

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