第10話 side:H 幼馴染と欲情と
ゆうくんの漏らした声に吃驚して、思わず見つめてしまう。
まさかあんな高くて、しかも甘い声を出すとは・・・思ってもみなかった。
ああ、本当に・・・幼馴染の双子は可愛すぎる。
男の子であってもこんなに魅力があるとはね・・・ちょっとこれは、真面目に大丈夫だろうか?大学生活。
今朝も同じようなことを思ったけれど・・・本格的に危険な気がする。
ゆうくんが進む大学は、どちらかといえば品行方正な学生が多い。ただ多いというだけで、当たり前だが全部が全部そうではない。僕は卒業生だし、駄目な人間も少なからず見てきた。
そしてそういう人間に限って魅力的に映ったりするものだ。そういう輩が近寄らなければ良いのだが・・・いかんせん、双子は容姿もそれなりに良い。
というか、愛くるしい顔立ちなのだ。黒目がちで大きな瞳は二重でぱっちりしているし、まつ毛も長い。丸みのある柔らかそうな頬に小さめの唇もふっくらとして桃色だ。
あーちゃんなんかは間違いなく美少女にあたる。それはそっくりなゆうくんも一緒だ。何せ一見、二人は同じ顔だ。
実際、あーちゃんは一緒に出かけた際に僕から離れてしまった時、高確率でナンパされるしスカウトされていたりもした。ただ、あーちゃんは自分で追い払ってしまうのだが。
そもそも母がご執心ーー執心というか執着というか。とにかく母の昼乃さんのそれはあまりにも強過ぎて、たまに僕がドン引くくらいだ。あの人は父と昼乃さんと、どちらかしか助けられない場合、昼乃さんを選ぶと僕は思っているーーの昼乃さんが双子と同じように愛らしい顔立ちで、双子は一心にその血を引き継いでいる。まるで分身のようにそっくり。双子のお父さんーー今はもうお義父さんにあたる人も随分と顔が整っているのだが、そちらには似なかったようだ。母が双子を馬鹿みたいに可愛がる理由の一つに、昼乃さんの分身のような見た目は絶対に関係していると思う。
しかし不思議なところなのだが、昼乃さんをはじめ、あーちゃんにしろゆうくんにしろ、その辺は随分と無頓着だ。
ゆうくんともなれば男の子ということもあり、輪をかけて自分の容姿なんて気にしていない。
双子はお互いを気にかける割に、自分には気を回さないという本末転倒ぶりだった。それでも今までは二人一緒だったし、気の強いあーちゃんがいれば大丈夫な節もあったが・・・いかんせん、あーちゃんは今はいない。
ゆうくん一人ともなると、危険でしかないように思う。あーちゃんの存在が強過ぎて、あまり気にかけていなかった。しまったなぁ。護身術でも教えるべきだっただろうか・・・、いや、心配のしすぎだろうか?
でもこの可愛さにやられて手込め・・・なんて事態が起こらないとも限らないのでは・・・。密室なんてすぐに作れるし、アルコールを無理に勧められたとき、この子は断れるのかどうか・・・。
僕が守りたいところだが、どうするのがベストか。ついていくわけにも・・・。
「ね、ねえ、嗣にぃ・・・もう、お湯に戻りなよ。ね?」
色々と考えていると、ゆうくんが握っていた手を離して、僕の手の甲をぺちぺちと叩いた。上目遣いに僕を見上げるゆうくんの顔は浴室の暑さもあってか、上気している。
・・・・・・色っぽいな・・・・・・?
あれ?・・・・・・色っぽいな・・・・・・?
腹の奥の血が熱くなった気がして、息を飲む。
いや・・・えぇ・・・これ、僕は・・・欲情しかけてないか?えぇ・・・。
まあ、そりゃ興奮してどうにかしてしまうほどではない。けれども。
落ち着け、自分。相手は9歳も下の男の子だ。いくら結婚する相手だったあーちゃんとそっくりとはいえ、昔から可愛がってるとはいえ、あまりにも血迷い過ぎだろう。僕は双子を唯一見分けることができた筈なのだが・・・どこかで同じに見てるのか・・・そもそも分けて見てなかったのか?
あー・・・混乱してるな、これは。大濠くん辺りに話したらぶん殴られそうだ。
ああ、うん。大濠くんのあの不機嫌顔を思い出したら、なんとはなしに冷静になれた。ありがとう、大濠くん。
「・・・嗣にぃ・・・?」
ゆうくんが、やはり見上げたままで僕を呼んだ。
あー可愛い・・・。
「いや、うん。本当に可愛いね、ゆうくん。心配になっちゃうなぁ・・・変な人について行っちゃ本当に駄目だよ?さぁ、背中流そうか」
「えっ、いや、ほんとさっ・・・えええええ・・・」
正直なところ・・・僕が一番変な人の気もするが、そこは黙っておこう。
気を取り直して、ゆうくんの前にあるボディソープへと手を伸ばす。
あ、しまったな。洗面所に置いてあった使い捨てのボディスポンジを持ってくるのを忘れてしまった。・・・まあ、手でいいか。何回かプッシュして手のひらに液体を馴染ませてから、小さな背中に広げた。
「ちょっ、えっ・・・?!手?!手でやんの?!ひぇっ・・・」
「まあまあ。汚れは落ちるし大丈夫だよ」
「そういう問題じゃなく・・・っ・・・うっ、ぁ・・・くすぐった・・・っ」
当たり前だが、僕に比べればゆうくんの背中の面積は狭いし、僕は手が大きい方なのですぐに終わってしまうのだ。ゆうくんは擽ったさに耐えるためか、身を縮こまらせていた。それがまた小動物のようで愛らしい。
これ、前も洗ったらもっと可愛いのでは・・・なんて悪戯心が湧き上がる。
背中から脇腹に手を滑らせると、ゆうくんが大きくびくりと震えた。
「ちょっ・・・前は自分で、できる・・・っ!やめっ・・・ひっ・・・」
抗議するために身体が伸びた隙をついて、手を前に回り込ませた。
何度か抱きしめてるから分かってはいたが、腰も細いなぁ・・・。
脇腹から腹にかけてボディソープを塗り広げ、更にその上、胸元まで指を滑らせる。
「やめっ・・・う、ぅっ・・・あっ、ん・・・」
僕の指が胸の突起の上を掠めた時、ゆうくんが息を呑んで、声を漏らす。
あん、って。あん、って・・・いやぁ、僕がもう少しトチ狂ってたら襲っちゃいそうだ。と、考えるあたり随分とアレなんだろうな。
今まで女性とばかりお付き合いをしていて男性の方は嗜好が違い、性的な意味合いで触れたことはない。なので比べられるものでもないが、ゆうくんは割と・・・感じやすい方ではないだろうか。敏感というか。
男でも乳首は開発すれば感じるらしいと聞き齧ったことはあるが、僕は女性とでも触れる方が好きでーー触れられるのが嫌いなわけでもないがーー自分で試すこともなかった。
そしてこの時、僕はうっかりと考えてしまったのだ。
ゆうくんはどうなんだろうな、なんて。
冷静に考えれば、素っ頓狂でしかない。興奮しかけた反省もどこにやら。
「嗣にぃ、もうやめ・・・えっ、ちょっ・・・どこ触ってっ!やぁ、んっ・・・」
まだ平らに近い乳首の上を緩く優しく引っ掻く。
ゆうくんが僕から逃げようと身じろぐので、片手は胸に残したまま、もう一方の手を細い腰に回して、僕の膝の上に引き寄せ抱き込んだ。
「ちょっ!!嗣にぃ?!ね、ね、ぇっ・・・!!俺、ゆうだよ・・・ねぇっ・・・あさじゃない・・・っ、ふ、ぁ・・・」
「うん?うん、そうだね。ゆうくんだね。僕は一度だって間違ったことないでしょう?」
間近になったゆうくんの耳元に顔を寄せる。
横目に映るゆうくんは真っ赤だ。・・・可愛い・・・。
僕が息をするたびに、ゆうくんは小さく震え、僕の指が乳首を引っ掻くと細い肩が跳ねた。
え、これは・・・なんというか・・・愛愛しい・・・。
指先に当たる突起物は何度か刺激を与えるうちに硬さを持ち始めていて、ふと視線を下ろした先にあるゆうくんの下半身ーー股間のところが、そこに巻かれたフェイスタオルを押し上げている。
ーーゆうくん、勃起してる。
「・・・ゆうくん、興奮しちゃった?」
耳元で問うと、頬を紅潮させながら目をぎゅっと閉じて、顔を左右に振る。
指摘された場所をなんとか隠そうと、ゆうくんの両手が下半身に下ろされたが、伸ばした僕の手の方が少しばかり早かった。何せ僕の手はゆうくんの下半身に近い腰にあったので。
フェイスタオルの上から、ゆうくんのものを緩く握り込む。
「や、やめっ・・・嗣にぃ、やだっ・・・はなして・・・っやだやだっ」
「え、でもなぁ。このままだときついよね?男同士だし、大丈夫だよ」
嫌がるゆうくんの耳朶に口付けながら宥めた。
男同士だし大丈夫、だなんてどの口が言ってるのだか。自分で自分に突っ込む。
こんな状態に男の友人と陥ったことはないし、そもそも触ろうだなんて思いもしないだろう。
試しに、今一度交流の深い大濠くんーー大活躍だな、僕の脳内で大濠くんはーーと治くんを思い浮かべてみたが・・・うん、ないな。ないない、したくない。大濠くんはジムに誘う時も煩いし、可愛げがないんだよな、ゆうくんと違って。治くんは可愛げというか愛嬌があるけど・・・うん、こんなことしたら明るく「訴えますよ」って言われそうだ。総じて二人に触ろうなんてこれっぽっちも思わない。まあ、それはあちらもお互い様だろう。
あーこれ、そうだね、セクハラだなぁ・・・しかし、ここまで来たら止まれるものでもないし、止める気もない。・・・大問題だね、僕。
「つぐに・・・ぃっ・・・やだぁ・・・っ、んっ」
「大丈夫だから。ね・・・?集中してみて?」
僕の手を何度も掴んでは離そうとするが、ゆうくんの手には力は入らないらしい。それをいいことに、僕は指先でタオルをずらして、ゆうくんのものに直接触れる。
あ、これ・・・乳首と一緒に弄ったら、胸で達することも覚えるのではないだろうか?時間はかかるかもしれないけど。
既に勃ち上がっているゆうくんのそれは掌に収まる可愛いサイズだ。特段小さいというわけではないと思うが、そこを隠すための陰毛も薄い。どこからどこまでも可愛いな、と思っている僕に、自分でも苦笑してしまう。
ボディソープをの滑りはまだ手に残っていたので、それを利用しつつ、上下に扱いた。
「ふあっ・・・やっ・・・、つぐにぃ・・・っ、てぇうごかさな・・・あ、あ、っ」
「気持ちいい?こっちは、どう?」
もう一方の手で、こちらも姿を現した乳首を軽くつねった。
「ひあっ・・・や、っ・・・ぁんっ」
すると、ゆうくんはか細い悲鳴をあげて背中をしならせた。その背中が僕の胸に押しつけられる。
胸の方でも少しは快感を拾えているらしい。敏感なこともあり、快楽には弱いのかもしれない。
うううん・・・本当に大丈夫だろうか、この子は・・・。蛮行を強いている僕が言えたものではないが、誰にでもこんな風に無防備なのは、ちょっとどころじゃく、まずい。
しかし、だ。そう思う反面、僕の手に翻弄されるゆうくんは、非常に・・・堪らない。
辛うじて、まだ僕のものは抑制できているが、酔いでもしていたら、口八丁で最後までしていそうだ。・・・まずいね。
「ゆうくん、可愛い・・・」
「あ、あ、あ、あっ・・・やめっ・・・つぐにぃ、やあぁ・・・」
ゆうくんのものを上下に扱きながら、時折、親指の腹で鈴口を擦り潰すように撫ぜる。先走りが僕の指を濡らした。人から触られているのも影響してか、興奮が強いのだろう。達するまでの時間はそう要らなさそうだ。きゅ、っともう一度乳首をつねる。
「ふあぁっ・・・やっ、手、どけ・・・でちゃっ、やあぁ、っあ、あ、あ、あっ」
「気持ち良いね。いいよ、イって。大丈夫だから」
耳元で囁く。
嬌声が徐々に途切れ途切れになっていて、ゆうくんの興奮に終わりが近いことを知らせてきた。僕はちょっと強めに棹を握りなおして、上下に動かす速さも増させる。何度かそうして動かしたあと、ぐり、と鈴口を指先で抉り、乳首を強く摘んだ瞬間、
「ひあっ・・・あああああっ・・・!あ、あっ・・・」
ゆうくんが達して、白濁としたものを指の下から吐き出した。
薄く白い液体が僕の指先から浴室のタイルに零れ落ちる。ゆうくんはビクビクと身体を数度震えさせてから、僕の胸へと倒れ込んできた。それを受け止めつつ、胸にあった手で抱き込む。
いやぁ・・・我ながらこれは幼馴染の域から逸脱した行為だとは思う、が。
肩で息をするゆうくんが可愛くて、耳朶や髪に口付けを繰り返した。
暫くして、少しずつ落ち着いたゆうくんが、僕を涙目で見上げる。
「こ、こんなの、よくないっ・・・この、馬鹿っ・・・!馬鹿っ・・・!大馬鹿久嗣!奥さんってこういうのも含むのかよ・・・っ?!」
真っ赤な顔で、罵られる。そりゃそうだ。結構やらかしてしまったし。
まさか自分でも逃げられた花嫁の弟に手を出すとは思いもしなかった。
うん、これは土下座ものだ。もう一度髪に口付けたら、まだ力の入らない手で胸を叩かれる。えー・・・可愛い。
お風呂から出たらちゃんと謝らないとなぁ・・・あ、でも奥さん役で言いくるめられる・・・かもしれない・・・。
言いくるめられたら続けられるな。こういうのも込みで。
とまで考えて、・・・とんでもないな、僕は、と我に返る。
ゆうくんは、本来妻になる筈だったあーちゃんの弟で男の子で、幼馴染で・・・そういう対象ではない筈だ。
でもきっと僕は良いように言いくるめる気がする。得意なんだよね、そういうの。
うん、僕はトチ狂っているな。花嫁に逃げられたショック、で済む話だろうか。
・・・こんなんだから、あーちゃんに逃げられたのだろうか。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ああ、それでも。僕を罵ってくるゆうくんも、可愛いなぁ・・・。
それから少しの間、罵られつつも、僕はゆうくんの体温を味わっていたのだった。
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