No.14 お前が盾でお前が矛で

「うわぁ!」


間一髪でお互いを避ける。


「ご、ごめーん!」

「気ぃつけろクリスてめぇ!!」


クリスがザックとジフにぶつかりそうになる。

現在、物に乗って空を飛ぶ授業中。先ほどからザックらが危うく誰かと衝突しそうになる事が多い。


「…明らかにコントロール効いてないわね、やっぱ2ケツだから?」

「それも、あるだろうがありゃザック本人の問題だな」


またクラスメイトにぶつかりそうになる。

その度怒号と謝罪の声がコロッセオに響く。


「ザックは魔力を外に出したり、逆に圧縮させたり、力で魔力を従わせてる感じだ、だから箒を魔力で覆ったり、物を動かしたり、小手先が試されるような魔法は基本向いてねえ」


「ジフちゃんも乗せた理由は?」


「ジフは『フラッグ』では致命的なまでに弱い。古代の魔力の性質上乗り物に乗ってるだけで魔力が無くなっていくからな。それで魔力が無くなってきたら充電しながら動いて?ジフがこれを出来るようになる未来が見えねえ」


「だからザックくんの後ろに乗せて攻撃に専念させる、ってワケ?相性悪くない?」


「相性は悪い、今はな。そして、逆だ」

はあ?と声に出すリーナ。


「ザックが攻撃でジフが防御、だ」


ザックはもう一つ特徴があった。それはシュートの性質によって生まれた癖。


基本、ザックは狙いを大雑把に決め、弾を

とにかく乱射し状況に応じて弾の種類を変えて戦う戦闘スタイル。その際、ザックは魔力を断続的に放出していくと共に補充も同時にこなしていた。故にトリガーハッピーな戦闘スタイルを成立させていた。


「そ、それ…私でも難しいわよ?」

「熟練の魔法使いでもリロードの時は隙が出来るだろうな、まぁこれは慣れだな」


ではその戦闘スタイルを箒を操る事に置き換えると?


「だ、断続的に加速しながら魔法を使って戦える!?」


「攻撃役としてはこれ以上ねえ適任だろ?」


「無茶でしょ!?スタミナ切れするわよ!?」


問題はその本人の集中力とスタミナだが、まだ乗り物に乗って初日。伸び代は存分にある。


「俺らが「マジックコンペティ」で優勝するならエースはアイツだと思う」

「ま、マジ…?」


リーナがやたら驚いた顔をしている。この期に及んでまだ本気で優勝を目指しているとは思ってなかったらしい。


「そのエースを守る最強の盾がジフだ」

「あ…!」


ジフの『瓦解』がまともに機能すれば誰にも

止められない最強のコンビになる。


生徒の性質を理解し、教師としても学園としても上を目指そうとする姿勢をひしひしと感じる。そんなコージローを見たリーナは少しこの男の認識を改めようと思った。


「ただなー…」


「ただ、なによ?」


「仕方ねえ事なんだが、『フラッグ』の出場生徒人数は10人だから、2ケツすると1人いなくなるのと同意になるんだよな…」


攻撃としてはこれで良いが守備になると相手は10人で攻めてくる。しかしこちら側は実質9人での守備となる。


「…必然的に10点取られたら11点取るスタイルになるって事ね」

「弱小学園が最初からやるには少しムズいスタイルだな、まあ練度を上げれば良いだけだが、な!」


寝転がり、うーん、と大きく体を伸ばしリラックスするコージロー。リーナも釣られて寝転がらずに体を伸ばす。


つい半年前なら想像がつかないほどクラスDが順調に成長している。2人は空を飛ぶ生徒達を穏やかな気持ちで眺めていた。チャイムが鳴る。

『フラッグ』の実習の時間が終わる。


「はぁ、やっっっと解放されるぜ…」

「私もずっとお前の体臭我慢してたんだからお互いさまだな」

ルカとクリスが後ろから2人を羽交い締めにして抑える。


「あ、ジフ、放課後時間ある?」

「この状態で言うことかっ…!?」


ルカは意外と力が強かった。


「ジフ、街で買い物しよう」

「…………なにぃ?」


睨みながら返事をしたが、内心驚きと若干の嬉しさでいっぱいだった。なんとか顔に出さずに返事をする。長い不良歴の成せる技である。


ジフは人と、友達とどこかへ出掛ける事が初めてだった。


(ふ、服…あったか!?)

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