No.13 アオハルってやつだな

「お前さんら、そろそろ空飛んでみるか」


『おおおおおおっ!?』

クラスDの教室が色めき立つ。いつもと違うざわつき方にジフが驚く。


「またあんたは勝手に授業変えて…」

リーナは呆れつつも流石にコージローの性格に慣れたのか、テキパキと準備を整える。

 

周りとのテンションの違いに若干焦りつつ隣の席の男、クリス・クロスに話しかける。


「ちょっとクリス、空飛ぶってなに?なんの隠語?」


「い、隠語っていうか…たぶん『フラッグ』の実習になるのかな、って」

「『フラッグ』ぅ?」


「マジックコンペティ」団体戦目玉種目

『フラッグ』。


10人対10人で行うこの世界における最大のスポーツ。


コロッセオ内を乗り物に乗りながら空中で旗を奪い合う。奪った旗を相手陣地にある柱の頂点に刺すことで得点となる。奪う際、どんな魔法を使っても良い。


なお戦闘中、地上へ落ちてしまった場合。その生徒は失格となり控えの生徒と交代となる。失格となった生徒はその試合中出られない。


「はー知らんかったあ」


「じ、ジフさんはどういう生活を送ってたの…」

「魔法とは無縁の生活だよ、見てもイラつくだけだったから「マジックコンペティ」もほとんど見てないし」


「よ、良かったね…魔力、使えるようになって」

ぎこちない笑顔で笑う。

「…あー、そうだな」


コロッセオに到着した。

そこにはコージローと大量のが生徒達を出迎えた。柱、絨毯、ドア、イス、さらには何の共通点もないであろうマイク、ハンガー、ぬいぐるみ、バーベルと多種多様な物が山積みになってた。


「な、なにこれ」


コージローが指をパチンと鳴らす。

「リーナ!説明してやれ!」


「なんでココで私にパスすんのよ!!!」


『フラッグ』は乗り物に乗りながら行う競技。

ただその乗り物に関して制限が一切無い。

鉛筆に乗っても良いし船に乗っても良いのだ。

ただ小さい物に乗る場合、魔力の消費は抑えられるがその代わりコントロールが非常に難しく、あまり使っている人間はいない。


大きいものは魔力の燃費が悪いがとにかく安定して乗り回せる。1番人気が高いのは小さくも大きくもない中型の柱や箒の長物。

加速させ易く、取り回しが利く。スピードが命のこの競技ではコレらがオーソドックスと言われている。


「あとは絨毯とかドアの真四角な物はスピードは遅いけどとにかく安定するわね、ゴール守るキーパー的な人や詠唱とかして大技を出す人にはコレをお勧めするわ」


そんなリーナの説明を無視して生徒達はもう物を選び始めていた。


「いつから!?」

「乗り物に制限はない、ら辺からだな」


説明を始めてから2行目である。

クラスDは座学的な授業はまだ苦手なままであった。


「おうクリス、てめえどんなのにすんだ?」

ザックがクリスに話しかける。

言葉にはしないがザックがクリスに話しかけるときは困っている、迷っている時が基本なので何か意見を聞きたいらしい。クリスもそれを分かっていた。


「僕は普通に箒かな、オーソドックス故に性能は乗ってる魔法使いによって明確に差が出るけど、まず基礎を覚えたいからね…」

「そうかよ」


興味なさげに答える。


「ジフ、何乗るの」


ルカがジフに話しかけてくる。

「私ぁとにかく魔力の消費を抑えたいから小物になるかな、なるべく攻撃に魔力を使いたいからな」

「ふーーん」


するとコージローが後ろから両肩に手を置く。

「あわぁ!なんだよ!」


「ジフ、お前さんは乗らなくていいぞ」


…ジフの思考が停止する。


「ジフ、やったね」

やったねじゃないが?少し気分がウキウキしていただけに落差が激しいとより落ち込む。


「『フラッグ』は10対10の乗り物に乗りながらやる競技だが、なにも10人が10人物に乗らなきゃダメなんて書いてねえんだわ」


「まさか」


そのまさか。


「お前さんはザックと2でやってもらう」


ザックが驚いてこちらを振り向く。


『は!?』


───────────


「はいはーい、あんたら人とぶつからないように、まずはゆっくり飛ぶのよ〜まぁどうせ無視するんでしょうけど」


ぎこちないながらクラスのみんなが空を飛んでいる。


2人を除いて。


「あんま動いてンなよてめぇ集中出来ねぇだろ!!」

「動いてねえよ半分坊主!!さっさと飛べや!」


自転車の2人乗りの様に、少し長めの箒に跨っていた。コージローのアドバイスもあってかジフはザックの腰に腕を回して密着していた。心なしか2人の顔が赤く見えない事もない。


「だから動くなって!!」


「動いてねえって!!!

あ!さてはお前照れてんじゃねえの!?なんだよそうならそうって言えよ!」

「はぁぁ!?ンな訳ねえだろ壁に興奮する奴がいるかバカが!!!」

ジフがザックを持ち上げる。


そのままジャーマンスープレックスを決める。


その様子を真顔で見つめるリーナ。コージローがリーナの肩にポンと手を置く。穏やかな笑顔で言う。


「…お互いに歳を取ったな」


コージローの手を思い切り叩き落とす。


「これ以上ごちゃごちゃ喋るとリーゼント縦に割るわよあんた」


リーナ史上1番凄みのある雰囲気に気圧され、小さくゴメンと言いながらコージローは離れていった。

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