No.10 喧嘩じゃねえ決闘だ

「実戦やるか」


『うおおおおおおお!!!』

教室が揺れる。コージローが学園に来てから5日が経った。リーナから見て魔法使いとしてやっとスタートラインに立ったくらいのレベルだったがコージローは実戦をやるらしい。

ちなみに今回の授業は座学であった。


「コージローせんせ??聞いてた話と全っ然っ違うのですが?」素早くリーナにデコピンするコージロー。


「リーナ、もう猫被りやめろ。生徒も薄々お前さんが性格良くねぇって気づいてるから意味ないぞ」


なあ、とコージローは生徒達に問いかける。

うんうんと皆が頷く。

「秀才だったって聞いたけど思ったより感覚派で授業分かりにくいとかな」

「馬鹿じゃないんだな、とは思うけど言葉にすんのムズくて擬音で表現したり身振り手振りで教えたりね」


リーナが膝から崩れ落ちる。4年も教師をやっていて誰も指摘してくれる人間はいなかったのか、一瞬だけコージローは同情した。


場所は移ってコロッセオ。


初の実戦という事もあってクラス全体が浮き足だっていた。その空気を引き締めるべくリーナが手を叩く。

「いい!?実戦は非常に危険を伴います!絶対気を抜いたりふざけたりしない事!」

はぁい、と気の抜けた返事を返す生徒達。


「本当に分かってんのかあいつらぁ…!」

「まぁ一回痛い目見るってのも経験だがな」

「それじゃあダメなんですって!」


コージローが胸をつつこうとする。リーナは胸を隠し睨みながら後ろへ下がって行く。


「種目はもちろん「デュエル」、魔法での殴り合い、もとい決闘だ。全員対戦するとなると時間がかかるから大体3分程度で次と交代させるぞー」


はぁい!と大きな声で返事を返す生徒達。リーナがため息と共に肩を落としていたがコージローは無視して進行する。


「ジフ、ザック、一回戦目だ盛り上げてやれ」


『よっしゃあ!』

声を上げながら2人が揃って前に出る。なんとも活気盛んである。


「ジフぅ…散々殴られた借り返してやんよ」

「1発殴って終いだバァカ」


なにやら因縁があるらしい。リーナは心配して何か言おうとしたがコージローは分かっててこの組み合わせにしたようだったのでおずおずとまた後ろに下がって行く。


「せつめーい」


コージローがやる気なさげに言う。

「デュエル」、お互いに魔障壁が張られた状態で戦闘が行われる。魔障壁が割れる、降参する、気絶する、戦闘不能の状態になった場合その者は敗北となる。


「シンプルぅ」

ジフ・レインバールの右腕が光っている。


「…おうズルくねえかアレ、充電満タンじゃねえか」


観客席にいるコージローとクラスの方を見て言う。


「満タンだと勝てないって?へーあんたってもしかして勝負する前に言い訳とか考えるタイプ?」


「穴だらけにしてやンよてめぇ、そういやメッシュ似合ってねえぞ」


両者、キレ気味の状態で開始の合図を待つ。


「はじめえ」

気の抜けた声で合図を出すコージロー。


合図ともにジフが走り出す。それより早くザックが魔力を練り、動く。


魔力混成。

発現。


シュート


「近づけなきゃなんも出来ねえもんなぁ!ジフぅ!」


先手必勝、乱射せずにジフ1人を吹っ飛ばす事に集中する。弾を拡散させず、威力を高めて

1発撃つ───


集約コンセントレイト


粉砕弾スラグぅ!!」


弾が放たれる。大きい。以前はソフトボール大の大きさだったが1発に凝縮したのか人より遥かに大きな魔力の弾が地面を削りながら飛んでいく。


「試すんならうってつけのサイズ感だなあ!!」


粉砕弾に手を伸ばす。


『瓦解』


次の瞬間、ドーンと大きな音を立てて爆発した。


「モロだが、」


砂煙を纏いながら、ジフが走って来る。

『瓦解』はまた失敗したらしい。


「お前はそんなすぐにゃ死なねえか!」


「じゃあ次はちゃんと殺す気で魔力込めろ半分坊主ぅ!!」


笑いながら煽り合う。


「へー意外と仲良いんだなあいつら」

観客席にいるクラスがヤジのような応援をしている後ろで、コージローが横たわりながら戦況を見つめている。


「アレのどこが仲良いに見えるのよ

あんた!?」


「ライバルみたいな奴と喧嘩をした事あるかい?」


「無いに決まってんでしょ…私の居た学校は

こことは違って品がいいの」


「じゃ、お前さんには分からんよ」


リーナがキーキーと騒ぐ。


ジフがザックに近づいていく。ジフは接近戦に持ち込まなければ勝ち目はない、ザックの読みは大筋当たっていた。


「近くに来るんならだ」

弾を1発撃つ粉砕弾スラグから拡散する普通のシュートに切り替える。


「オレを殴るんだってぇ!?」


銃を乱射する。断続的に爆発が起こる。この間、ジフは『瓦解』を試みるが全て失敗。ひたすらに突っ込んでくる。


「おい」

ジフが言葉を発する。


「今から殴ってやるよ」


「…あ!?」


身体や服が汚れてはいるが『瓦解』を試す際、魔力を纏った腕で弾に触れていた。結果的にこれが防御となっておりはたから見るほどダメージは負っていなかった。

気づけば接近、とまではいかないが10m程の距離まで近づいていた。


「空気中にもちっちぇ魔力があんだってよ」

「それがどうした」


初日の実習、クラスの魔法を散々受けていた

ジフ。


『瓦解』がちっとも成功せず、イライラして魔法をぶん殴って相殺していた。その過程で1つ会得した技があった。

右腕が光る。


「空気中の、魔力を、ぶん殴る」


ザックはすぐさま避ける事に専念、しかし全く見たことがない事象。どう避けるか、何が起こるか、一瞬考え、固まる。


化石の右腕ファサル──


息吹ブレス!!!」


真っ直ぐ突き出した拳の先が一瞬、黒く光る。


瞬間、ザックが後方に

少量の血と一緒に勢いよく吹き飛ぶ。

長めの距離を転がり、四つん這いのような形で踏み止まる。そのザックの姿を見下しながらジフが近づいて来る。


感触だ♡」


「脳筋猿が…!!」


笑いながら、両者が言う。

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