No.8 無敵じゃん

「はぁ〜もーー疲れるっ!!!」



僕、ファン・ダンテの代わりにクラスDの副担任になったリーナ・アイリーンが勢いよく机に突っ伏しながら言う。昼。教員室。お弁当には手もつけず動かない。余程疲れたようだ。


「どうでした?コージロー先生」


後ろから話掛ける。


「完璧っ」

コージローさんは食堂のお弁当を食べながら自信満々にピースした。会心の手応えがあったようだ。


「なーーーーんでクラスAを真面目に一年授業してきた私が1日で敗北感を感じなきゃならないのよ!!」


「適当でつまんねぇ授業だったんだろ」

弁当をつまみながらリーナの方を見ずに言う。


「あんたには分からないでしょうねぇ私の苦労が!」


たぶん、自分が今クラスDの副担任だったら、同じ感情を抱いていたかも知れない。


少なくともリーナがここまで教師をやってきた姿は見ている。1年目以降、めちゃくちゃ手は抜いていたが、そうなってしまった気持ちもわかる。


「あー嫌になるわ〜もう人に教える自信無くなった」

「まだ頭が固いだけだ、10年やって半人前だぞ」

「あんた教師初日でしょ」


「お前の胸だけは柔らかかったけどな」


…!?


!?!?!?


!?!!!??!?!!?


爆発エクス!!!!!!


「言い方考えなさいよバッッッカじゃないの!?」


もの凄いスピードで顔面に魔法を放つ。コージローは何事も無かったように弁当を食べ進める。


「コージローさん!!!

その話!詳しく!!!!!」


回る椅子でくるりとゆっくりこちらを向く。

ニヤリと笑う。


「後で、な」


ええええ何したのコージローさんズルイよぉぉ



顔に出ていたらしい。


顔面を思い切りリーナ・アイリーンに蹴られる。うーんこれも良いけどやはりなんか違う。


「ここをどこだと思ってんだお前らは!!!」

「が、学園です…」

顔を押さえつつ、何とか答える。するとコンコン、と教員室の扉が叩かれる。


失礼しまーす。とクラスDのジフ・レインバール、ザック・ヘルパテス、クリス・クロスが

ひょっこりと顔を出す。生徒が昼休みに教員室に来るとはなんと珍しい事か。


「あ、あのコージロー先生」


「ぅおーん?」


咀嚼しながら返事をする。飲み込んでから喋りましょう、コージロー先生。


「先生の『魔術』のタネ、教えていただきませんか」

「おういいぞー」


そんな簡単に??というか…


「『魔術』ってなんですか?」


「なんで教師のお前までわかんねーんだよ」

ぶっきらぼうにザックが言う。面目ない。


「知ってる奴がそもそも少ねえのよ、なんたって必殺技だからな。何かが出来なくなる代わりに何かが出来るようになるリスクとリターンを天秤に掛ける技だ」


怪訝そうな顔をする3人。リーナも僕も同じ顔をしていた気がする。


「その俺の『魔術』のタネな、

ただの速度の制限だ」


『速度の制限???』

声がキレイに揃う。


僕はそもそもコージロー先生の『魔術』を見た事がない。生徒達、ズルいぞ。


「めっちゃ簡単に言うとな、ゆっくりなら動けるって事。そのゆっくり以上に速く動くと位置と姿勢はもちろん、起こしたアクション、起きた事象をリセットする」


「めっちゃ強いじゃん…」


ジフが口を尖らせ言う。

激しく同意する。正直そんな事されたら勝負にならない。


「となると…何が出来なくなってるかが知りたいんですけど」


リーナも興味あるようだ、そりゃあ学生時代秀才として有名だった彼女なら気にはなるか。


「俺も動けない」


『弱ぁ!』


ザック、ジフ、リーナが声を揃える。いやいや、違うだろ。恐らくクリスもソレがなにか分かっている。


「いや、それってコージロー先生の独壇場になる、って事ですよね…」


3人の頭の上に?の文字が浮かんでいる。リーナ、君はもう少し賢いと思っていた。


「普通の魔法使いがそんな『魔術』使ったら使い物にならない、でも賢者レベルのコージロー先生が使うとするなら多分、無敵だ」


「なんでそうなんのよ」


リーナも多分起こった事を思い返せばわかる

ハズだ。何だったら今さっき僕はソレを見た。


「せ、先生がさ、「不思議体験終了」って言って手を叩いたじゃん、もうその時には『魔術』は解除されてたはずなんだよ」


「ん?そっか」


ここまではクラスDの授業の中で起こった事。

ザックがハッとした顔をする。


「実技…オレらが魔法ぶつけてる時、

お前動いてたか…?」



「あぁ!!!」

リーナが素っ頓狂な声をあげる。



「私の爆発エクス、何もしてないのに防がれてる…」


クリスがまとめる。

「コージロー先生は速度制限の『魔術』のオンオフ、そして魔法そのものをノーモーションで使う事ができる、という事で良いですね…?」


「んーー正解」


ず、

『ズルぅ……』

全員が声を揃えて言う。聞いた事も見た事もない、

の連続に驚くぼかりだ。賢者とはこんなにも遠い存在なんだと改めてレベルの差を感じる。

ジフがささっと下から近いてリーナに話しかける。


「あんたは動かずに魔法使えんの?」

「…やろうと思えば出来るけど、粗末な完成度になるでしょうね」


基本的に魔法は手や足や口、体の動きで魔法を使う感覚を掴む。真っ直ぐ立ったまま魔力を練る、魔法を使う、それをコントロールするなんて芸当、賢者以外出来ないだろう。ちなみに僕はというと魔力を練るくらいなら出来る。


「まぁそうだな、1週間もすれば必殺技、教えてやらん事もないぞ?」


おおっと声を上げる。

「マジかよンな簡単に…」

「が、頑張って授業しないと…」

「私にも教えなさいよ『魔術』!!」


リーナも子供のようにコージローに迫る。

なんだかんだみんな魔法を上手く使いたいとは思っているんだなと思った。目の前にいる人間はその極地なわけだから当然といえば当然か。


「…私も必殺技出来んの?」


「ジフよぉ、お前さんはまず『瓦解』を身につけてからだ」


「なんか私だけ違ぁう」


「それがお前の他の人間には持ち得ない絶対的長所なんだから仕方ねぇだろう」


…僕も必殺技を教えてほしい。

1週間経ったらお願いしてみよう思った。

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