No.6.5 『魔術』ってなんだろな

「必殺技使えたらどんなのにする!?」


小学生のような会話が聞こえてくる。


「そりゃクソデカいレーザービームみたいなのだろ」


「でもあいつ技っていう技じゃなかったぜ」


「おれ、透明になってあれやこれやしたい!!」


中学生のような会話も聞こえてくる。


「おうジフ」


半分坊主、もといザック・ヘルパテスが話しかけてきた。

殴られにでも来たのか?


「朝、あのコージローとかいう教師に連れてかれたろ、なんか良い事あったかよ」


お?なんだ?まさか私の機嫌が良いのを察した?


「よく分かったね」


「明らかに1人だけあいつ側だったからな、このクラスのやつはさっき初めて顔を合わせた。それより前に会ってるヤツはお前しかいねぇ、そしてそのお前のは機嫌が良いときた」


こんなに頭が回る奴だったか?いや悪童は地頭が良い奴がほとんど、私は馬鹿だから力でものを言わせてきたが。するとこのザックが私話しかけてきた理由がわからない。


「つまり、何が言いたいの?」


「『魔力がない』の解決策でも見つかったか?」


知らなかった。こいつ。意外と思慮深い。

たまにお金を「借りる」関係だったけどこんな一面があるとは、これもコージロー効果??


「まぁね」

「マジかよ…」

「お金、返すわ」

「いつだよ」


「「マジックコンペティ」優勝したら」


「返さねえってことな」


元々ら返すつもりは無かった。でも今は返してもいいかなと思っている。自分の魔力で地面叩いた感触が忘れられない。次の教科は実技。ウズウズしてくる。窓から見る景色も違って見える。


「コージローの必殺技…『魔術』だったか?アレ、

どう思うよ」


どう思う?仕組みの話か?それとも別のなにか?


「さぁね、『魔術』なんて聞いた事もなかったし?」

「お前は授業受けてねえから当たり前だろ」


…それを言われると何も言えなくなる。


「なにか条件があったはずなんだ、動けた条件が」


「あ、あの」


ん?

隣の大人しそうな男が話に入ってきた。ザックも眉間にシワを寄せながらそちらを向く。

あ、そういえば。


「ああー!さっきはぶん殴ろうとしてごめんね。でも明確にどうせ殴れないだろと思ってたから、ついやっちゃった」

「殴るまでのトリガー浅すぎんだろ…」


その大人しそうな男は苦笑いしながら言う。


「ぜ、全然気にしてないよ、それよりもあれ、コージロー先生の『魔術』」


「おう、なんか分かった事でもあったか?もしかしててめぇ動けたんじゃねぇだろうな」


ザックが睨みながら顔を近づかせ、言う。


「う、動けなかったけど多分、あの『魔術』の条件ってものすごく簡単な条件なんじゃないかなって…」


はぁ?

「はぁ??」


「『魔術』って何かが出来ない代わりに何かが出来るようにする魔法の『すべ』なんだよ」


「なに、あんた知ってんの『魔術』?」


驚いた。こんなやつが知っているなんて、コージローの隣にいた女の副担任すら何がどうなってるか分かっていなかった顔をしていたのに。


「ま、魔法オタクみたいなもんだよ、知識だけあってもそれが使えるわけじゃないし…」


なるほど、オタクか。

「納得だな」


大人しそうな男はまた少し苦笑いした。


「『魔術』をこのクラス全員、1人1人に適用して、それが断続的に発動しつづけてなお破綻しないんだ、よほど軽い制約なんだと思う」


「でもさぁコージロー、一応賢者だよ?そんくらいは出来るでしょ?何か出来なくする、を変えてたり」


「い、いや難しいと思う、『魔術』は一度コレと決めたら制約とかはまず変えられないし…」


「…謎は深まるばかりだな」


ザックは不機嫌そうに舌打ちをする。オタクはそれにビクッと反応し怯えていた。


「次の教科は実技かぁ」


「も、もしかしたら、お願いすればタネ、言ってくれるかもね」


「言うかぁ?あいつが」


「言う、と思うよ。たぶん。シンプルイズベストみたいな『魔術』で、わかっていてもどうしよもない、的なやつだと思うから」


チャイムが鳴る。


「…席戻るわ、おいオタク」

「は、はい!?」

「名前なんだっけ?」


「クリス・クロスです…」


そんな名前だったのか。名前だけはカッコいいな。


「わかんねぇ事あったらお前に聞くわ。じゃあな」


ザックはそそくさと自分の席に戻っていく。


「…やったじゃん、あんた気に入られたよ」

「ええ!?」


みんなが席に着く。

実技か、私も少し必殺技を考えておこう。

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