No.4 胸のでけぇ女が好きなのは分かったよ
「挨拶ぅ?」
コージローはまるで聞かされていなかったかの様に驚く。黒いスーツを着た真面目そうな男は少し呆れる表情を見せたが咳払いしてからすぐさま言葉を続けた。
「新しく赴任してきた教師が挨拶もなしに学園内を歩けば不審者が歩いてると生徒達に勘違いされても文句は言えませんから」
露骨に面倒くさそうな顔をしたコージローを無視して真面目そうな男はジフに話しかける。
「ジフさんは先に教室へ戻っていてください」
「はぁい」
ジフはそそくさと校舎へ戻って行く。自分の言う事をあの不良少女が素直に従った事に感動を覚えると共にコージローに感心する。そして自分の教師として、魔法使いとしての能力の低さに落胆していた。
「そういえばお前さん、名前聞いてなかったな」
「あ、自分ですか」
名乗る事も、名刺を渡す事も失念していたらしい。
この真面目そうな男は仮にも大人の魔法使い、かつ人にものを教える立場教師である。
「…ファン・ダンテと言います…」
「えーっと…めげるなよ、これからだぞ」
落ち込みようが顔に出ていたダンテ。教師では先輩なのに教師生活数時間の男から励まされる。
「と、とりあえず校舎に戻りましょう、コージロー先生が受け持つクラスDの皆さんに挨拶をしに行かなきゃ」
「クラスD?」
「リオハイムには学年という概念がありません。入学出来る最低年齢はありますが、年齢関係なく科目の試験やレポートの進み具合でクラスが毎年4月に振り分けられるんです!」
リオハイムの事を全く勉強していなかったコージロー。ここでダンテに聞かされて、初めて学園のシステムを理解する。
「じゃあ卒業とかはどうすんだよ…」
コージローの問いに自慢げにダンテが答える。
「その科目やレポートを終わらせれば、最速で3年で学園を卒業がすることが出来ます、5年で一定の課題をこなせられなければ留年か、または退学かをその生徒と生徒の親に選択してもらいます」
意外とちゃんとしている。特殊な学習システムでこの学園が自堕落になったわけではなさそうだ。
しかしコージローには聞きたい事があった。嫌な予感を感じながらも質問する。
「…もしかすっとだが、そのクラスDってのは」
「言葉が悪くて申し訳ないのですが…いわゆる落ちこぼれのクラスです」
ダンテは深々と頭を下げる。
リオハイムの教師陣ではコントロールをする事はもちろん、学生として教育することも困難な状態になり、それを賢者とはいえ教師経験のないコージローにクラスDを一任するのだから。胸中は不甲斐無さでいっぱいだった。
「そりゃよかった」
意外な言葉だった。
ダンテは顔を上げる。少し目を見開き、コージローの方を見たまま動きを止める。サングラスでコージローの表情は分かりにくいがとても嬉しそうに笑っている。
「そうでなきゃやりがいが無いよなぁ。俺ぁやるんなら1番になりてぇ性分なんだよ」
ダンテにコージローが肩を組んでくる。
「ダンテよぉ、簡単じゃあイケねぇよなぁ。物事はよぉ。ムズけりゃムズい程『なり甲斐』があるもんだ。1番になるってのは」
コージローはニヤリと笑う。
「一緒に1番目指そうぜ、手ェ貸してくれや」
ダンテも笑顔で言う。
「難しいかもしれないです」
コージローの動きが固まる。表情も固まる。
え?笑顔でなにをそんな否定的な事を?
頭の動きも止まる。
「学園に確認したら副担任には別の教師が当てられるという話になっていまして…サポート出来ないわけじゃあないんですが…直接は難しい、です」
なんだそりゃあ、と思わず声が出るコージロー。
まるで学園に向上心というか誠意を感じない。コージローがこのリオハイムに来たのは他でもないファン・ダンテの交渉によっての事である。
大きな仕事をしたはずのダンテが、コージローとバディを組まずに別のクラスを担当する事になっているという学園側の不思議な対応に表情が曇る。
リオハイムは「マジックコンペティ」10年連続最下位を回避する為に動いているはずではないのか?懐疑心を
「…こりゃあ『上』も相当堕落してるな、まぁ考えてみればそりゃあそう、か」
魔法学園一世一代の晴れ舞台で9年連続最下位になってようやく動く決断力の遅さ、並の学園なら2年連続最下位でもあの手この手で最下位脱出を計るはずだ。
「んで、その副担はどんなヤツだい」
「えっと…目つきが悪くて…黒髪で長くて…胸、胸がでかい、胸がでかいです!!」
ダンテが意外とムッツリである事が分かった瞬間である。
「外見じゃなくて内面だろ!性格だよ性格!!とりあえず胸がでかいってのはメモっとくがよぉ!」
コージロー、ダンテ。共に男の子である。
すいません、とダンテは恥ずかしそうに顔を手で覆う。
「えっと内面は……」
思わず言葉が詰まる。
「…ダンテ、ここにゃ俺らしかいねぇ。ストレートに言ってくれて構わねえ」
コージローのアドバイスもあってか、ダンテが半ば
「…バカでプライドが高い胸のでかいアホな女です!!!!」
言葉を選びながら話していたダンテが口汚い罵倒の言葉でなければ表現出来ない奴らしい。
ダンテがとにかく胸が好きなのは伝わった。
「挨拶ぅ、行くわ…」
2人は互いの健闘を祈る様に相手の肩を叩き続けた。
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