No.3 お前は何番になりてぇか言ってみろ
古代の魔法使い。
魔力の残量を最大100として、1つの魔法を使うと魔力は10減る。力の大きい魔法を使うと30減る。
残量が0になったら?
寝るか、時間経過したら徐々に戻って行く。
まさに今、魔法を使いたい時はどうするか?
この世界には物質は生物、空気中にも微量の魔力がある。それを自分の魔力に再構築して補填する。木の魔力を使えば木は枯れ、岩の魔力を使えば岩は塵になる。
「あのさぁ」
ジフ・レインバールが不機嫌そうに口を開く。
「あーん?」
コージロー・ムラサキも不機嫌そうに口を開く。
「その古代の魔法使いと私の右腕がなんか関係あんの?」
授業をまともに受けた事のないジフはこの短い話の時間に耐えきれず口を挟んでくる。
「…関係なきゃ話さねぇだろ」
「じゃあ何が言いたいか早く言ってよ」
現在、魔法学園リオハイム内コロッセオ。現代でいう体育館の様な場所だ。
「授業に遅れるから手早く済ませろって言ってんの」
「ウソつけ、お前ずっと授業出てねぇって聞いたぞ」
「そんなナリして意外と引き継ぎとかやってんだ?真面目ぇ〜?」
最初のコージローに怯えていた少女はどこへやら。寝転がりながら教師を小馬鹿にする不良少女が1人。
「じゃあ結果だけを言おう」
「お、話わかるじゃ〜ん」
ジフの顔が一気に晴れやかになり横にしていた体を起こし、ピョンと勢いよく座り直す。
「お前の右腕は古代の魔法でうんこだから世界一の魔法使いになれる」
絶句。
あまりに支離滅裂。
瞬間、ジフはキレイな土下座をしていた。
「順を追って説明してください!!」
流石に今の説明で「分かりました頑張ります」とはならない。自分は魔力が無いから魔法は使えないと思っていた。それが今、この男が言うには世界一の魔法使いになれる、らしい。どれだけ怪しくてもこの話を逃してはいけないと思うと素直に態度に出た。
「しょうがねぇなぁ」
それを見たコージローは思わずニヤける。
人生の中で人にものを教えるといった経験が全くなく、賢者の称号を得ても、弟子はおろか指導依頼も来なかったコージローには「教えてください」の姿勢はとても気持ちのいいものだった。
「一回しか言わねえからよく聞けよ?足りねぇ頭フル回転させて記憶しろよこの化石野郎〜」
ジフの頭をぺちぺちと手で叩きながら言う。
ジフはこのリーゼントをぐちゃぐちゃにしてやりたいという感情をグッと堪えて聞きに回る。
「お前のその右腕の模様は古代の魔法使いの性質が分かりやすく形となって現れている。
さらに言っちまえばお前の魔力は今電池切れなんだ。使えなくて当然さな。」
へぇなるほど、と彼女は頷く。
長年の疑問が一気に解決した瞬間だった。ただそうなると新しい疑問が浮かぶ。
「色々試したけど、魔力を充電出来た事ないんだけど…」
「ジフよぉ、お前の魔力は古代の魔力なんだ、現代の魔力の使い方を習ってもそもそも種類が別なんだから動くわけねえだろう。バイクの動かし方を教わってボートが動かせるか?」
これも納得。しかしさらに新しく疑問。
「じゃあどうやって充電すんだよ…」
「まずは握手をしよう」
「…新手のセクハラじゃないよな。」
恐る恐る手を差し出す。手を握る。自分の手が少し冷たい事ジフは驚く。緊張なのか別の何かか、知らず内に冷えていた。
ちょうどいい。コージローはそう呟くと、言葉を続ける。
「俺の体温を吸って自分の手を温めるイメージをしろ。深呼吸しながら、ゆっくりでいい。」
言われた通り、深呼吸。
目を閉じて意識を集中させる。変化は起きない。
「焦るなよ」
もう一度深呼吸。手を握り直す。その際指を絡ませるような握り方に変わったが両者は動じない。
右腕の模様が光る。風がジフの元へ集まる様に吹く。次第に光と風が収まり、2人の手が離れる。
「感覚はどうだ」
「なんか…手がプルプルして…な、なんかイライラする…」
「よっしゃ!地面ぶん殴ってスッキリさせろ!ジフ・レインバール!」
即実行。それほどまでにむず痒く、腕の中に何かが蠢いているような、ムズムズ、イライラする感覚があった。
轟音が響く。物凄い量の砂煙が起こる。少し経って視界が晴れる。自分がとてつもなく大きなクレーターの真ん中にいる事を理解する。流石に驚く。
「え、殴っただけでこんな…」
「まぁ100充電して100出したわけだからな。こんなもんだろ」
こんなもん???それはどういう意味だと明確に顔に出たが意に介さずコージローは続ける。
「今お前は古代の魔力を100出したわけだか、普通はこれを小出しにして使うんだ」
一回一回充電してはぶっ放すをしていたら隙も大きいし不便すぎる。それは魔法使いではなくちょっとした砲弾か爆弾だ。ジフも理解していた。
「これが普通の魔力なら並以下の魔法使いで終わる、だがここは現代だ、古代と言われる文明の遥か先の時代だ」
コージローは興奮気味に話す。
「魔法は料理だ。」
違います。とは言えずジフは話を聞くことに徹する。
「炎の魔法を使うなら魔力を炎の魔力に変換して外へ出力する。火球を飛ばすならそれを飛ばすように弾く魔力を使う。それが鳥の形をしていたり龍の形をしていたり、魔法はレシピに乗っ取って使われている。」
ジフは初めて魔法がどう成り立っているかを理解した。これが授業かというのも理解した。
「だからお前の魔力はうんこだ。」
ここにきてようやくあの支離滅裂な発言の伏線が回収された。ジフは怪訝そうな顔をしているが大人しく続きを聞く。
「どんな料理にもうんこを入れたら食えたもんじゃあない。料理として破綻する。これをお前の魔力なら同じ事が魔法に対して出来る。
相手の魔法に少しでも古代の魔力を入れられれば相手魔法は
瓦解する。」
「それって…」
「相手の魔法を無効化出来る最強の盾だと思え。しかも魔力を放ちながら敵に突っ込めば最強の矛にもなる。」
魔法という世界の常識が、自分には縁のないものだと知ってから10数年。価値がないと思っていた自身の命。それが今、自分にしかない武器だと知った。
「ジフよぉ、俺はやるからには1番になりたいだわ、聞くがお前さん、何番になりてぇよ?」
したくても出来なかった事が、今なら出来る。
努力が出来るという喜び。
「1番になりてぇに決まってるじゃん…!」
涙を堪え、声を震わせながら、人生で初めての目標を口にした。
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