No.2 近づいて殴りゃ勝てんだよ

見学。


見て学ぶと書いて見学。

見て?学ぶ?魔法も使えないのに?魔力がないのに?何を見て学べというのか。


なので授業になったら逃げ出して遊びに行った。木を登ったり壁を越えたり走ったり。子供の遊び方である。子供なのだから当然といえば当然。ただいつまでも子供のままではいられない。


親が『私』をリオハイムに入学させると言ってきた。


驚きも焦りもしない。


ああ妥当だなと思った。他の「やる気」のある学園に無理矢理入れられて「頑張れ」「やれば出来る」なんて言われなくて良いと思ったらだいぶ楽だ。というか最高だ。


お前はこの先どうやって勝って行くつもりだ?


魔法学童の教員に言われた言葉だ。


「近づいて殴れば私が勝ちます」


お前はバカかと言われ、殴られそうになったのでしっかり躱してから正当防衛として教員を殴った。


親と学童からしこたま怒られた。


「勝ったんだけどなぁ」


そう思ったけど、言ったらまた怒られそうだったので言葉を飲み込む。


しばらくして魔法学園リオハイムへ入学した。

リオハイムの唯一褒められている点は寮があることだと言っていた。親が。子供の前でそういう事言うかな普通。余程『私』が鬱陶しかったらしい。


数日経つと魔力を持っていないと言う事がバレた。すぐさま悪い考えを持つ輩に絡まれた。


治安が悪いとは聞いていたがここまでとは。そういう時の行動だけは早いんだな本当。


なので蹴って殴って制服を「借りた」

あいつは明日からスカート履いて登校してくるのかな。


学園内は原則魔法の使用は禁止。だがここはリオハイム、治安と頭の悪さなら世界一だ。昨日の輩が仕返しに来た。


なので今度は刺すか斬るかしようとナイフを取り出したが相手が逃げたので刺せず斬れず、捕まりたくはなかったので少し安堵する。



夏。



まともに授業を受けずに「マジックコンペティ」の時期が到来。様々な種目があり、個人、団体の2つの成績が総合して順位が決められる。


個人なら『デュエル』、クラスなら『フラッグ』が目玉の種目だ。


さすが先輩達、流れるように敗退していく。

悔しがりもせず、少し汗ばみ、笑いながら、晴れやかに退場していく。まるでやり切ったかのような態度に少し腹が立つ。授業をやらず遊び呆けていた『私』がイラつく義理はないが。


結果的にこの年で「マジックコンペティ」逆V9を達成することになった。


それからしばらくして、新しく1人の教師がやってくると学園内で噂になった。9年連続最下位になってようやくマズイと思った結果が教師を1人連れてくる、というのがやる気の無さを伺える。


夏服が肌寒くなってきた季節。

朝、寮から校舎へと続く道を歩く。輩から制服を「借りておいて」正解だった。足下が全然寒くない。


広場を通り過ぎれば校舎の入り口。

通り過ぎれば。


通り過ぎればの話である。


広場に人だかりが出来ている。何かの催し物?こんな朝から?それとも事件?とうとう死人が出たか。いつか誰かやるとは思っていたが。


「通ってよーし!」


…検問?リオハイムで?いや、リオハイムだからこそか。


「あ!」


まずいな、『私』のカバンにはナイフとメリケンサックが入っている。今はおしくらまんじゅう状態。ガラの悪そうな男子生徒のポケットに『私』のナイフを忍ばせる。


メリケンサックの方は護身用という事で納得してもらえるだろう。


「どいつもこいつも魔力ビンビンじゃねぇか!本当にいるんだろうな化石野郎は!」


「見ればわかると思います!本当に魔力が無いんですから!!」


『私』だ。

『私』を探している。何かやったかな?やったな。

心当たりが多すぎてダメだ、逃げるか?

しかし時すでに遅し。『私』の後ろにも人だらけ。


瞬間。腕を掴まれる。


「こいつです!魔力ないやつ!」


一斉に注目が『私』に集まる。腕を掴んだ男子生徒を睨む。何ともひ弱そうな男だ。

あとでお金を「借りよう」

そう思う。


「お前が化石野郎か」


頭上に男。浮遊する魔法なんてあったっけ。勉強不足なので分からない。


リーゼントにサングラス、真っ白な白衣とネクタイを締めていないワイシャツに和柄のジーンズ。絶対に関わってはいけない人種だ。連れさらわれて研究対象として非人道的研究をされた後臓器を売り飛ばされるんだ。間違いない。


身体を浮かされる。こんなことなら授業にだけは出席して頑張ってますアピールをすれば良かった。


「右腕見せろ」


腕?腕を売り飛ばそうとしているのか?腕一本で助かるならぜひと差し出す。


「捲くれよ」


じゃあ最初からそう言え。

そう言ったら殺されそうなので大人しく捲る。


鑑定するかの様にまじまじと見つめる。


「お前、名前は?」


「…ジフ・レインバール」


「よしジフ。世界一の魔法使いになろう。」


広場にいる全員が同じ事を思った気がした。


「は?」


『私』ジフ・レインバール16歳。

他の女生徒より少し高い身長、細い眉、吊り上がった目、黒のショートボブに金のメッシュが入った髪。


この世界で唯一魔力を持たない自他共に認める

『不良』少女。


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