前のエピソード――第30話　変わらないことのリスク

「完璧主義」という言葉には、一見するとポジティブな響きがある。高い目標を掲げ、妥協せずに努力を重ねる姿勢は、成功や成長の原動力になるとされている。しかし、完璧主義が行き過ぎると、私たちを縛り、息苦しさや疲弊感をもたらすことがある。その結果、本来の目的を見失い、自分自身を追い詰める原因になってしまう。

たとえば、仕事の場面での完璧主義を考えてみる。「一切のミスを許さない」「最高の成果を出さなければならない」というプレッシャーの中で働くと、過剰なストレスを抱えることになる。ミスを恐れるあまり、新しい挑戦を避けたり、過度に時間をかけてしまうことがある。このような状況では、効率的な働き方や柔軟な思考が阻害され、かえって生産性が低下してしまう。

また、日常生活でも完璧主義は私たちを縛る。「部屋は常に片付いていなければならない」「人に見せる自分は常に完璧であるべき」といった考えが、知らず知らずのうちに負担となる。完璧を求めるあまり、些細な失敗や不完全さに対して過敏になり、自分を責める原因になることも多い。

さらに、人間関係においても完璧主義は問題を引き起こすことがある。「相手に迷惑をかけてはいけない」「常に正しいことを言わなければならない」といった思い込みが、人との距離を遠ざけたり、素直なコミュニケーションを妨げることがある。完璧を求める姿勢が、かえって孤独感や不安を生む原因となるのだ。

では、なぜ私たちはここまで完璧を追い求めるのだろうか。一つの理由は、現代社会が「完璧であること」を求める傾向にあるからだ。SNSでは、成功や美しい瞬間が切り取られた投稿が目立ち、それが「理想の姿」として広く共有される。その結果、私たちは「自分もそうでなければならない」と感じ、無意識のうちに完璧を目指してしまう。

もう一つの理由は、「評価されたい」「失望させたくない」という欲求だ。完璧であることで周囲の期待に応え、評価を得ようとする。しかし、その欲求が強すぎると、自分の内面や本当の気持ちを無視してしまい、心の健康を損なうことがある。

では、この息苦しい完璧主義から解放されるにはどうすれば良いのか。一つの方法は、「不完全さを受け入れる」練習をすることだ。完璧ではなくても十分であると認めることで、自分に対する期待を緩めることができる。たとえば、小さなミスに対して「それも私の一部だ」と思えるようになると、プレッシャーが軽減される。

また、「できたこと」に目を向けることも有効だ。完璧主義の人は、どうしても「まだ足りない部分」ばかりに注目しがちだが、自分が達成したことや進歩を積極的に評価することで、満足感や自信を得ることができる。

さらに、完璧主義の根本にある「他人からの評価」に過剰に依存しないことも大切だ。他人がどう思うかではなく、自分がどう感じるかを基準に行動を選ぶことで、より自由に生きられるようになる。周囲の期待に振り回されるのではなく、自分自身の価値観を大切にすることで、完璧主義から解放される一歩となる。

完璧主義は、私たちを高みへと導く力を持つ一方で、その重みに押しつぶされるリスクもある。だからこそ、自分に適度な甘さや許しを与え、「完璧ではなくてもいい」と思える柔軟さを持つことが必要だ。完璧であることよりも、自分らしくあることを大切にする生き方が、私たちにとって本当に豊かな人生をもたらしてくれるのではないだろうか。