第12話 未来への責任を先送りする社会

日本社会には、目の前の問題を解決せずに「先送り」する文化が根強く存在している。政治、経済、教育、環境といったあらゆる分野で、未来への責任を後回しにし、その場しのぎの対応で済ませようとする姿勢が見受けられる。この先送り体質が、次世代にどれほどの負担を強いるかを考えると、私たちには大きな責任があるのではないだろうか。


たとえば、少子高齢化の問題は何十年も前から指摘されているが、本質的な解決策はほとんど進んでいない。出生率の低下が続く中で、子育て支援や教育費負担の軽減といった政策は進められているが、それらが実効性を持っているとは言い難い。一方で、社会保障費は増大し続け、高齢化が進む中で若い世代の負担はますます重くなっている。このままでは、次世代が持続可能な社会を築く余地が狭められてしまう。


また、環境問題も同様だ。気候変動やエネルギー問題への対応が急務とされている中で、日本では再生可能エネルギーの普及や脱炭素化の取り組みが進んでいるように見える。しかし、実際には具体的な目標達成へのロードマップは不透明で、多くの政策が「検討中」や「先行試行」として停滞している。環境問題は、時間をかけて少しずつ改善できるものではない。今行動しなければ手遅れになる問題を、後回しにする余裕は本来ないはずだ。


さらに、教育の現場でも先送りの文化が見られる。デジタル化や多様性への対応が叫ばれる一方で、教育制度そのものは大きく変わらず、旧態依然とした仕組みが残っている。例えば、生徒の個性を伸ばす教育や、未来に必要なスキルを育むカリキュラムの導入は、いまだ試行錯誤の段階にとどまっている。これでは、次世代が直面する課題に対応できる人材を育てることは難しい。


先送りの背後には、「現状維持が最も安全」という心理があるのかもしれない。変化にはリスクが伴い、特に日本のように安定を重んじる文化では、現状を維持する選択肢が優先されがちだ。しかし、その結果として問題が積み重なり、未来に大きな代償を支払うことになるのだとしたら、それは「安全」ではなく「危険」な選択肢と言える。


では、この先送り体質をどうすれば変えられるのか。一つの方法は、「未来を考える視点」を常に持つことだ。政策や行動の選択肢を検討する際には、「今の対応が次世代にどのような影響を与えるのか」を問う文化を根付かせる必要がある。短期的な利益や成果だけでなく、長期的な視野を持つことで、未来への責任を果たす姿勢が育つだろう。


また、国民一人ひとりが問題を「他人事」と考えないことも重要だ。私たち自身が社会の一員として、どのような未来を作りたいのかを考え、それに向けて行動することが求められる。たとえば、選挙で長期的な視野を持つ候補者を支持する、環境に優しいライフスタイルを選ぶ、教育や社会問題について自分なりに情報を集め、声を上げるといった行動が挙げられる。


未来は、私たちが今どう行動するかで決まる。先送りされた責任を背負わされるのは、次世代の子どもたちだ。だからこそ、目の前の問題から目を背けず、一つ一つに向き合うことが必要だ。未来のために、私たちは今何をすべきか。その問いを常に持ち続けることが、責任を果たす第一歩になるのではないだろうか。

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