第8話 変わることから目を背け続ける国
日本社会は「変化を恐れる」とよく言われる。しかし、恐れているだけでなく、意識的に変わることを避け、目を背け続けているようにも見える。伝統や慣習を守ることが「美徳」とされる一方で、時代の流れに適応しなければならない瞬間に背を向けてきた結果、社会のさまざまな側面で停滞が生じているのではないだろうか。
たとえば、労働環境における変化の遅さはその典型だ。「働き方改革」が掲げられて久しいが、現実には形だけの取り組みが多く、長時間労働や古い上下関係に基づく「顔色文化」が根強く残っている。リモートワークやフレックス制度が一部の企業で導入されても、周囲の目を気にして結局オフィスに出向く人が少なくない。また、「出社していないと働いていると見なされない」という時代遅れの考え方が多くの現場で蔓延している。こうした状況では、テクノロジーを活用した柔軟な働き方を実現するどころか、生産性向上や働きやすさを追求する余地もない。
教育の分野でも、変化を避け続けている姿勢が見える。子どもたちが未来を切り開くために必要なスキルや知識を考えれば、IT教育やクリエイティブな思考を育むプログラムは必須だ。しかし、いまだに暗記型の試験対策が中心の教育が続き、子どもたちが「教えられる側」に留まっている。さらに、多様性やグローバル化への対応も不十分だ。他国では多言語教育や国際交流が当たり前になっている中、日本では英語教育ですら「話せる」レベルに達しない現状がある。
また、行政や政治の面でも、変化を避ける文化は深刻だ。少子高齢化という日本社会の最重要課題に対し、抜本的な改革はほとんど進んでいない。移民政策や労働力の多様化といった「変わる」ことを伴う選択肢は、議論されるものの具体的な施策には至らない。結局、現状維持に固執し、将来への不安や問題を先送りにしてしまう。
こうした「変わらない」姿勢が社会全体にもたらす影響は計り知れない。新しい価値観や方法論を取り入れないことは、競争力の低下を招くだけでなく、国民一人ひとりが自分の可能性を最大限に発揮できない社会を作り出している。特に若い世代やマイノリティにとって、この硬直した環境は大きな障壁となる。彼らの声やアイデアが抑え込まれることで、社会の活力そのものが失われているように感じる。
では、どうすればこの「変わらない」社会を動かせるのだろうか。一つの方法は、「変わることのリスク」を恐れるのではなく、「変わらないことのリスク」に目を向けることだ。私たちが現状を維持する間に、世界は動いている。変化を避けることが、最終的には私たち自身の首を絞める結果になるのだと理解する必要がある。
もう一つは、小さな変化を積み重ねることだ。大きな制度改革や文化の転換はすぐには実現しないかもしれない。しかし、個々人やコミュニティが「新しい考え方」を受け入れることで、少しずつ社会全体が変わっていく。そのためには、私たち一人ひとりが「変わること」を意識し、実行に移すことが重要だ。
変化を恐れ、目を背け続ける社会には未来がない。むしろ、変わることこそが希望を生む。新しい価値観や方法論を取り入れ、柔軟で活力のある社会を目指すために、私たちはまず「変化を受け入れる心」を育てるべきではないだろうか。その小さな一歩が、この国の未来を大きく動かすきっかけになるはずだ。
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