素直に人を好きになろう

入江水月

素直に人を好きになろう

少し前まで「暑い暑い」と毎日言っていたのに、気がつけば空気はひんやりしてもう立冬を過ぎた。パチンとスイッチが切り替わるみたいな季節の変わり方であっという間に年の終わりが近づいてきている。

今年のクリスマスは残念ながら平日なので、恋人と過ごしたい人は大変かもしれないけど、イルミネーションは年々あちこちで増えてるし、近くの素敵なスポットを探し出して二人で仕事帰りにちょっとだけデートするのもロマンチックで良いかもしれないよね。




楽しそうな人たちが多くてキラキラ華やかな雰囲気、毎年この季節はカメラ片手に街をうろつくのが私は好きだったりする。

(恋人がいない独り身の年はちょっと苦い気持ちがあった気もするけれど。苦笑)


幸せそうなオーラを周囲に振りまきながら歩く二人。

時計を見ながらソワソワしている待ち惚けの人。

スマホを握りしめて、俯き涙を拭う人。

さっき見たばかりの映画について熱心に語る恋人に微笑む彼女。

待ち合わせに遅れてきたのか恋人に必死に謝ってる彼。

手を繋ぎたいんだけどタイミングを掴めなくて不自然に動く男の子と、気づかないふりしながら早く早く!って待ってる女の子。


いろんな人たちがいて、それを眺めているのは楽しい。

…お、ようやく手を繋げたみたい。良かったね。

照れたようなかわいい笑顔(こういうときの顔って造形とかじゃなく本当にかわいいよね、こっちまで幸せな気分になっちゃう)を見せる女の子を見ながら、私はある女性のことを思い出していた。


「彼と結婚して幸せにしてもらうの」

新しい恋人ができるたびにそんな話をしていた君は、いま、この季節をどんな風に過ごしているのだろうか?




「一人だとイベントのとき淋しいしみじめでしょ」

「いまの彼、趣味とか好みとかあんまり合わないんだけど収入と学歴が良いんだよね」

「ほら、そろそろ結婚しないと格好悪いじゃん」

恋愛体質で一人ではいられなくて、いつも誰かに寄りかかってしまう君は浮かない顔をして、私にそんなことばかり言っていた。


形にばかりこだわって人の目を気にしていた、結婚すれば何となく幸せになるんじゃないかと思っていた君。

君はあの時、私の言葉を振り払って走って行ったけれど

もし君があの日のまま変わらず、苦しい思いをしているなら。

もう一度言うよ。




そのまま君が変わらないのならば、君の満たされない気持ちはこれからもずっと続く。




中身の入っていない空箱を外から眺めて「これが恋だ」と自分に無理矢理言い聞かせたり、世間体のために選んだ包装紙とリボンで派手に飾ったり、箱に書かれてもいない賞味期限や値段ばかり気にして、肝心な中身を詰め忘れてしまうのは、もうそろそろやめよう。


人生は映画みたいだなんて、ありきたりな例えだけど。

映画と違うのは、必ず幸せなラストが待ち受けているわけではないし、都合良いところでエンドロールが流れたりはしないこと。

私が。君が。寿命が尽きて眠りにつくまで。この映画は続いていく。

結婚したら幸せになれるという確約なんてないし、そこで幕が下りたりしない。


本当はどこかでそれに気づいているはずなのにね。

自分の気持ちを無視して、誤魔化して。

つけっぱなしにして忘れてしまう深夜のテレビのように、

ただ流れているだけの恋を(それをあえて恋と呼ぶのならば)君は一体いつまで繰り返すつもりなんだろう?


淋しさから始まる恋でも、とりあえず付き合ってみるのも悪い事じゃない。それがきっかけで始まってみたら本当に好きなることもある。

でも一緒にいてみても好きだと心から思えないなら、やめなよ。

彼に失礼だし、君自身も不幸だ。


まだ起こるかどうか分かりもしないほど先のことを心配する気持ちや、他の人に負けたくないなんてつまらない見栄を張る気持ちや、誰かに幸せにして貰おうって寄りかかるような甘えた気持ちなんて捨てて。

もっと素直な心で誰かを好きになろう。

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