第3話 私のバカ!

 違う、また違う。私の期待を無視して、七人ほどの人が通り過ぎてゆく。たった五分の間が異様に長く感じられる。


 どくん。


 来た。急に現れたように見えて、心臓が勢いよく飛び出した。早く喋りたい。紗依に向かって走る。


 ついに目の前に立つ。飛び出した心臓の余韻がはっきりと聞こえる。

「あ、えっとぉ、香菜ちゃ…お、おはよ…」

 私を見たとたん、紗依の頬がみるみる赤くなっていった。弱々しい声で挨拶される。その反応であの事がフラッシュバックに映し出され、私も顔が熱くなる。

「…はよ!」

 おはようの お が空気のように抜け、はよ が裏返ってしまった。


 あ”ぁ”ーーーもう昨日何回もシュミレーションしたのに、全部言えなかったじゃん!


 私のバカ!バカ!

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