第10話 ~サボタージュ~

「理屈が分かれば、君が悩んでるそれ、ただの個性だって思えるでしょ」

「ただの個性ならみんなも持っている、だから、他の人とそんなに違いはないのさ」


少し、間をおいて


「そうだ、いいこと思いついた」

「君、学校サボったことある?」


「いや、ないです」


「じゃ、今日、初体験だ」

「ちょっと付き合って」


と言って、彼はベンチからスクっと立ち上がり、駅に向かって僕の手を引いた。


改札を抜けて、ホームへ上がる。


まだ少し早いせいか、人はまだまばらである。

空き缶を屑籠にいれて、止まっている電車に飛び乗った。


「ちょっと実験に付き合ってもらうよ」


と彼は言い、さっきまで読んでいた参考書を開いて読み始めてしまった。

僕は、何が始まるのか戸惑いながら、視線を彼と車窓の景色の間を何往復もさせていた。


やがて普段、乗り換える駅に着く。

いつもなら降りて、隣の下りホームに渡って学校に向かう。

僕が不安そうにホームの方に目を向けると、彼は「大丈夫だから」と言わんばかりに無言の笑顔を向けてくる。


扉が閉まって、いつもと反対方向に動き出す。

車窓から木々は消え、住宅ばかりが目に映る。

一駅ごとに、どんどん人が増えてくる。

はじめての超満員電車で、息が詰まりそうだ。

やがて、電車は高い建物が立ち並ぶビルの中に吸い込まれていった。


「やっとついたね」


そういうと、読んでいた参考書を閉じた。

ここは、市の中心街にある終着駅。

人波に流されながら、ホームに降り立った。


「さて、始めるとしますか」


と彼はつぶやく。


何を始めようというのだろうか?

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