第7話 ~再会~
あれから、一週間、いつもより少し朝早く、駅のバス停で遅刻ギリギリまで彼を待ち伏せていた。けれども、彼に出会うことができなかった。
週が明けて、今度は思い切って1時間以上早く駅に向かってみた。
まだ、朝の6時。公園にはお年寄りもまだいない。
スズメの群れをけ散らしながら、公園を抜けて、駅の反対側のバス停へと向かった。
「こんな時間に来るのか?」
と、自分に問いかけながら、待つこと数分、駅の改札のある方に目をやると、見覚えのある男子高校生がこちらに向かって歩いてきた。
見覚えが核心となるぐらい近づいた時、彼は手に持った参考書からこちらに目線を向けて、一瞬の無表情からの笑顔で駆け寄ってきてくれた。
「あれぇ~、どうしたぁ~」
「あ、おはようございます」
「うん、おはよう」
「随分早いね」
「あのぉ~、この前は500円返してくれて、ありがとうございました」
「お礼といってはなんですが、これ」
と言って、百円玉を差し出した。
「拾得物のお礼って2割って、聞いたもので」
「ハハぁ~、律儀だね、君」
「少し、時間ある?」
「あ、はい」
歩きながら、横断歩道を渡って公園に向かう途中、彼は自分のことを話してくれた。
彼は高校3年生で朝から大学進学のための勉強会に参加するために早朝、学校に通っているとのこと。
子供の頃、大きな病気をして長い闘病生活をした時に、大好きになったお医者さんに憧れて、医師になるべく一生懸命勉強中なのだそうだ。
「あの時さ、どうして逃げたの?」
「あ、そのぉ~、派手な大きなバイクが停まっていて、急に駆け寄られてきて怖くて」
「そぉっか~」
「真っ赤なナナハンと900の『大型』があって、薄暗い中、黒革のつなぎ着て、迷彩のバンダナで目を吊り上げて」
「そりゃ怖いよね・・・」
「あ、なんかすみません」
「ま、いいって」
「・・・・・・」
ノーリアクションで口を噤んでいる。
「えぇ~!限定解除もってるんですかぁ~!!すっごいですねぇ~・・・って」
「派手に驚くところなんだけど・・・」
「・・・・・?」
当時、400㏄以上のバイクに乗るには2輪大型免許、通称限定解除が必要で、その合格率は数パーセントという、弁護士並みに難しい免許だったのである。
「まぁいいや」
「大学生のいとこがさ、やっと大型取れて関西の方からバイクで遊びにきてたんだよね」
「あの時は、学校休んで一緒にツーリング行ってきた帰りでさ」
「楽しくって、ずっとしゃべってたら急にのどか沸いちゃって、自販機の方にかけだしたら君が500円おいて逃げちゃった」
「正直、こっちが驚いたよ」
そんな会話をしているうちに、公園前のいつもの自販機にたどり着いた。
「はい、これ俺のおごり。好きなの選んで」
と言って、彼は僕が渡した100円玉を自動販売機に投入した。
不思議と逆らうことも、遠慮することもなく、例のジュースのボタンを押した。
ガチャッという音と共に、当たったことのないスロットマシーンが回りだす。
いつものように、7が二つ並んだあと、最後の数字がゆっくりと当たりをじらしている。
次の瞬間、7が三つそろって、電光掲示板が激しく点滅しはじめた。
「お、今日はついてるね」
「じゃ、このあたりは俺がもらうね」
彼も同じジュースのボタンを押した。
缶を取り出し「カシュっ、パキっ」とふたを取り、「乾杯!」と缶を突き出してきた。
僕は、まだふたを開ける前の缶を、そっと彼の缶にノックする。
「か、乾杯」
まだ、得体はしれない人ではあるが、彼の心地のよい声と口角のしっかり上がった笑顔は僕の緊張と警戒心を少しずつ解きほぐしていく。
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