第6話 ~偏見~

人は、見た目で判断する生き物である。

それはある種の本能ともいえる。


人がまだサルだった頃、蛇や猛獣を見れば襲われないように、逃げて命を守っていた。

犬や猫だって、元は狼やライオンの類であって、警戒の対象だったはずだ。

いつしか向こうから近づいてきてくれて、何百年、何千年もの時かけ、人はある種の獣に対し、時に人間同士よりも強い信頼関係を結ぶことができるようになった。


彼から受けた、野獣に襲われるかもしれない、という恐怖の感情に起因する人への見立てはやはり偏見というのだろうか?


そんな、自分への言い訳をいくつも考えた。


でも、野獣は、500円を返すためにわざわざ小雨の中で待ったりはしない。

でも、野獣は、高校生にとって500円が貴重であることを慮ったりしない。

そう、偏見だったのである。


彼を野獣に例えたのは、だいぶ失礼に思える。

とっさの出来事だったとはいえ、わざわざ返してくれたお礼も言えていない。

そう思うと自分の方がまだ人になり切れていない、おサルのように思えて恥ずかしくなってきた。


「今度、ちゃんとお礼を言おう」


自分の人としての未熟さと、人の温かさを身に沁み込ませながら、朝の揺れる電車の中で、返してもらった500円玉をぎゅっと握りしめた。

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