第4話 ~油断~
高校に入学してから3ヶ月程が経った週末の夕暮れ。
すっかりルーティン化された、至福ひと時を待ちわびて、駅の改札から足早に公園へ向かった。
ここ数日続いた雨のせいで、日がだいぶ長くなっていたことを忘れていたが、こんなに遅い時間でも、茜色の空が微かに地上を照らしていて、遠くの人影も目に止まる。
駅の階段を下りて、信号待ちしながら公園の方に目を向けると、2台の大きく真っ赤で派手なオートバイが入り口付近に見えた。
その奥のベンチに2人、座って何かをしゃべっている。
「うっ」
週末のささやかな至福の時間を奪われる予感がして、思わず声に出てしまった。
かといって、のどの渇きを癒すのも、ひと時の幸せもあきらめたくはない。
ひとまず、彼らに目をやるのはそれきりにして、目線も足も目的の自販機にまっすぐ向かわせた。
無事に自販機にたどり着く。
息つく間もなく、ズボンの右後ろのポケットから財布を取り出そうしていたその時だった。
ベンチに座っていた1人の男性がこっちに向かって駆け寄ってきた。
思わぬ事態に緊張が走る。
駅に着き、たかだか数分ではあるが、周囲は薄暗く、手元が良く見えない。
財布から、とりあえず一番大きな500円玉を取り出して、投入口に押し入れた。
「ガチャツ」
気配に気づき、思わず後ろ振りむくと、全身に真っ黒な革ジャンをまとい、頭には迷彩色のバンダナ。目つきは鋭く、こちらに向けている。
緊張のあまり、無意識に彼に意識が集まっていく。
彼から発せられる色はなく、無色。
予想外の出来事に意識が途切れた。
ただ残った彼への恐怖心が僕を追い込んでいく。
「スッ、すいません」
何に謝っているのかもわからずに、貴重な500円とその一言を残して僕は駐輪場へ駆け出した。
「油断したぁ~」
そう心の中で繰り返し、駐輪場を後にした。
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