第18話 試験当日にイレギュラーは付きもの



「おはようございます。ルト様、本日は9時から試験ですのでそれまでには学園に着くよう行動してくださいね。後くれぐれもご自身が貴族とバレないようお気をつけください。貴族様が庶民枠を受けているという下に見られるレッテルが貼られるので、クロンド家の恥になります。ご注意を」

「了解でーす、気をつけまーす。ところでニコ、姉さんは?さすがに帰った?」

「ラヴィ様は朝一番にお帰りになられました。レイ様に呼び戻されたか何かで」

「そう、それなら良かった。じゃあ、準備してゆったり行ってくるわ」

「お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「ん」


「私は本日一足先にお屋敷に戻りますので帰りは自分で帰ってきてください。一応宿は明日分まで払ってあるのでご安心を。これもなにかの練習になるだろう、と旦那様が仰っていたのでルト様に後は任せますね」


「ん」

「では、私は失礼します」

「はーい、バイバーイ」

さて、眠たいな。でも起こしてもらった手前寝るのも悪いしランニングするか。ストレッチをした後に外に出た。


「今日は時間を決めてペース通りの走りをするかー」

切磋琢磨する人が居ればやる気って出るのかな?と最近よく思うことがある。


クレア先生によると『私は昔から相手がいなかったので教え子を自分で作って戦う事で色々な攻撃パターンだったり、複数人戦をしてましたよ。なので私の弟子は意外とそこら辺に居たりするかもしれませんね』

との事だった。まあ、あんな怪物ばけものが努力してないわけないんだよね。先生は昔から【鬼才きさい】と恐れられ、東方にある故郷の人からは相手にもされなかったらしい。


鬼才の意味が昔の僕は知らなかったが東方の事を調べた時に出てきていた言葉の中の1つだった。2年前に知り合ってほぼ付きっきりで教えてくれてるクレア先生の存在に助かってたんだなと実感している。


ここ数ヶ月間稽古をすると必ず気絶まで持っていかれることが極端に増えている、前までは寸止めされていた場面で見えない傷を負うことが増えているような気がして少し不安だ。教えに応えることが出来ているのか、あの人が自分から話すことは無いので稽古中は自主性を求められる、そちら方が育てる事において成長に繋がるそうだ。『』とまで言われたことがあったが、彼女なりの優しさと気が付くまでにかなりの時間を使って振り返っていたな。僕と師匠との間には出会った時にある1つの契約を結んでもらった事をいつまでも覚えている。

いつかチャレンジしたいな。


「っと、宿到着。パッと準備していきますか折角の試験だし早く着いても怒られないだろ」


「ランニング中に目が覚めたおかげで頭が冴えているな。今日は合格するぞぉ」


そういえば、今更だけど試験内容って1つなのかな?そこ聞いてなくない?王都の学園に入るために勉学に励むだけって簡単すぎない?今更だけど。でも、ニコが何も言ってないんだよな。なら大丈夫か!

「こちら、学園試験会場です!他の人とぶつからないよう間隔を空けながら歩いてください」


声が聞こえるくらいまで近くまできた、「この日に知り合いがいる事はないんだよな」少ししょんぼり。僕は人と喋っていたいタイプの人間だ、と謎に胸に力を入れていた。


「こちら、試験会場となっております。複数の列になって目の前の人の命令に従って動いてください」

「押さないでくださいねー」

「こちらの、魔道具に触れてください」

「こっちも、空いてるぞー」男が女装をしてるとひと目でわかるように作られている服を着てる人もいて

「俺も空いてるぞー?」バニーの格好をした身体の大きい男が立っている。



色んな人が居るんだな。王都ってやっぱ怖いわ、改めてそう思えた。

表現の自由とは聞くが個性の放出を許しているとは心が広いんだな、ここは。

なんて考えていると、僕の番が来た。

「そこの魔道具に手をかざしてねー、コレは侵入者を防ぐ役割になってます。すぐに終わりますよー」

『今はそんな魔道具もあるのか面白いな、ココ』

「はい、離してもらって大丈夫です。ルート君ですね?私はアスナって言います♪なにか困った時に気軽に声を掛けてください♪」

『ルートって誰だよ、名前も読めないんか?』

「はい、ありがとうございます。アスナさん」

「では、進んでいただいて大丈夫です♪試験会場はそれぞれの番号に割り振られてるので気をつけくださいね、毎年間違える人は少ないですけど居るので」

「分かりました、ご丁寧にどうもありがとうございます」

「はい♪、丁寧な返事は好印象ですよ」

『この人は音を使えるのか?背後に凄い音楽の符号オーラが見えるな』

「ジロジロ見てどうしました?なにかおかしな事でも?」

「あ、いえいえ大丈夫です。ココはキレイな場所だなって思って足が止まってました」

「そうですね、キレイなところですよ毎日きちんと掃除してますからね」

「毎日それは大変ですね。ご苦労さまです」

「私はやっていないですけど知り合いに居るので言っておきますね」

「お伝えください、では失礼します」


『結局、ルートって呼ばれたのなんでだろう?読みにくいのかな、あの水晶型魔道具。もっと簡単に出来そうなのに』

」あっ、やべ声出ちった

「・・・勿体ないとは何がだい?」

「…って、いつの間に隣に居たんですか」

「ついさっきさ、それで?勿体ないとは?」

「あ、いえ。名前を少し間違えられたのでなんでかなと少し考察してました」

「そうか、それで?」

「一応独り言だと思って聞いといてください、間違えていたら恥ずかしいので。結論から言うと水晶型の魔道具で自分の情報を相手に見せるって読み間違いとか起きそうだなって結果になりました」

「それで?」

「それ以降は無いですよ?」

「いや、ボクが聞きたいのはその勿体ないって発言の方だ。どこが勿体ないと思った?」

随分グイグイ来るなこの人

「あ、いや。水晶型を変えるだけでその間違い無くなりそうだなって思っただけで。気にしないでください」

「いやー、非常に面白い観点を持っているね。確かに水晶型の情報開示オープンステータス魔道具は読みにくい等の問題が発生はしていたんだ。だが、それを直せる技術を持っている人はこの世にもう居ない。そもそもこの水晶型になった理由として一昔も前のやつらは占いと言う能力を使い、人の運命を言い当てるというなんとも奇妙な技を披露してたんだと。その時に使う道具として挙げられるのがこの水晶って訳だ」

「なるほど、理解しました」

「そこに気がつくとは中々鋭い洞察力を持っているね。キミ名前は?」

「あ、僕はルトって言います。今日試験を受けに来ました」

「おー、ルトって言うのか。知り合いの息子に似ている名前も居るもんだな、よろしく。ボクはタルト・サイフォグリーズだ、ここの先生をしている。それ以上の情報は君がボクの専門は受けることになってからのお楽しみにしておこう。また、会える気がするよ君とは」

「そうですか?その時はよろしくお願いしますね、タルト先生」

「ああ、少しばかり拘束して済まなかった。早く試験会場に向かうといい余り時間が無いようだね」

「…ほんとだ、もうこんな時間。では先生またどこかで」

「ああ、またどこかで」


「…あの背中を見ていると懐かしい奴を思い出すな」


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