Intersection.

いばらのおうさまとじょおう

【 I 】について

問題:Iについて解け。

「U−I<2(2U−I)」


 執務室に戻るとカモミールの香りがする無地の小さなカードだけが、机に置かれていた。こんなことをするのは、セリスしかいないと思いつつカードに目をやる。声を掛けてくれればよかったのにと溜息をつくが、仕事の邪魔をしたくなかったのだろう。あの人はそういう人だ。

 聖歌隊の練習が始まった。心地よい響きが気持ちいい。溜まった書簡や、書類の承認に取り掛かる前に、その数式を解くことにする。


U-I<2(2U-I)を展開。

U-I<4U-2I


Uを右辺に移項。

-I<4U-2I-U


-2Iを左辺に移項。

2I-I<4U-U


I<3U


 解き終えて、セリスが何をしたかったのか考える。問題は【 I 】について。I<3U…。多分、ただの数式ではない。私がそれをあまり得意としていないことは知っているはずだか、私にこの問題を解かせたいことに意味がある。


 煮詰まって、背伸びをする。少し離れて、解いた数式を眺める。そこにあるのは完全な調和の世界。聞こえてきている歌と同じ…。秋の柔らかい陽射しが窓から入ってくる。さわやかな朝の空気を入れたくて窓を開け放つと、いたずらな風がさっき計算用紙にしていた紙を巻き上げた。

 私は慌てて紙を拾い、答えを見た途端顔が赤くなっていくのが自分でも理解できた。セリスは解りきっている事を伝えるため、ワザとこんな曲解な手段をとったのかと思うと自然と笑みがこぼれる。全く素直じゃない人だ。



『わたしは あなたを あいしている。』

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