2 きび団子

 浜中少尉は腰から自動式拳銃を抜いて安全装置を外した。防弾防刃対策は万全だが、それでもどうにもならない相手のときはどうする。以前には拳銃を持てと言われたし、射撃の練習もしたが、当たらないし、頼ると隙ができるので遠慮した。浜中少尉が「もういい」と諦めた。

 解体現場の足場に張った防音防塵シートが風に揺れ、紐が鉄パイプに触れて悲しく鳴っていた。

 ゴーグル越し、浜中少尉は僕を見て頭上を指差した。ゴーグルも付けるように言われたが、視野に頼るようになるとの理由で断ると、もう何も渡さないとむくれられた。僕はダッフルコートのフードをかぶった姿で足場から、破片塗れの三階フロアに忍び込むと、古い階段が上に続いていた。エレベーター縦穴に風が吹き込んで、低い音がビル全体に響いていた。浜中少尉は階段を壁際に様子を探りながら上がると、来いと合図をした。腕に付けた装置を示して、敵が近くにいることを教えてくれた。鬼が現れると、一定の周波数と複雑なパターンが発生しているとのことで、それにウェアラブル端末が反応し、ゴーグルに敵が映されるらしい。階段の上にはいくつもの柱のあるワンフロアが待ち構えていた。「あなたも付けなさい」と言われるが、いざとなったときの勘が鈍るので断っていた。たぶんビルを支えていた柱だが、一部の天井は抜けて冬空が見えた。突然、浜中少尉は柱の陰から発砲した。浜中少尉には何か見えているのか、次の柱へと飛び込んで発砲した。僕は抜いた腰鉈を彼女の背後へ投げつけると、硝煙が流れる闇へと駆け込んだ。上段に拳を突き入れ、怯んだ敵の膝に硬い靴底を蹴飛ばし、背後のやわらかな腹を手刀で裂いた。僕の体が三人の青白い引火で照らされた。

「後ろや」僕が短く放つ。

 浜中少尉は振り向きざま三発発砲した。僕は浜中少尉をすり抜けて敵の喉を掴んで地面に叩きつけた。

「撃ちすぎたわ」

「命中してたからええんやないか」

「肉体は死ぬけどね。魂は地獄穴へ吸い寄せられる」

 不意に闇からゴシックのドレスを着た女が現れた。美しい白い顔に乱れた髪がアンバランスだ。胸に添えた両手に何か持っていたが、どうやらぬいぐるみのようでもある。

「わたしのかわいいアイドルが死んだのよ。でもわたしは蘇らせることができる。彼女の魂を入れる器さえあれば。でもこれは違うのよ」

 目を剥いた。

 白い顎に血が溢れて、膝から崩れ落ちた後ろでは、長い髪の女が打刀を鞘に納めるところだった。

 浜中少尉は拳銃を構えた。

「この件に関わるな」

 僕は浜中少尉に拳銃を下ろすように頼んだ。当たることもないし、攻撃すれば何があるかわからない。

 女は闇へと消えた。

 結局、五人いた。

「何が一人よ」浜中少尉は愚痴を言うと「デイジー3、現場の掃除を頼むわ」とインカムに命じた。「すぐに今の映像を解析して」

『了解』

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