第20章

第57話

「おおっ 徹君、ご無沙汰です。先日は瀬里香がお世話になりました」



「私は体調不良で、その節は失礼しました」



勇次郎と美愛子が立って、徹にお辞儀をした。



徹も2人に深々とお辞儀を返したが、そこはかとなく 気まずい感覚は否めなかった。



「さぁさどうぞ、座ってください」


勇次郎が、徹に自分の向かいのソファに座るように勧めた。



「私、何か冷たいお飲み物を持ってきますね。

 …あなたも、そこへ座ってらして」


美愛子は席を立ち際、緑にも座るように言った。



徹と緑は複雑な表情のまま、静かにソファに腰掛けた。



勇次郎と徹、瀬里香と緑が向かい合った。




「あなた、陸斗の…」


瀬里香が緑を見て 口火を切ったその時、



「申し訳ございませんでした! 今更もう、嘘をつくつもりはありません。自分がした行いは本当に最低だったと反省しています。謝罪をしても、許される話じゃないとも思っています。いかなる罰も受ける覚悟で来させて頂きました」


緑は膝に付く程 瀬里香に深く頭を下げ続けた。



瀬里香の隣で、勇次郎が苦い顔をしている。




「割と早く、気づいてたんです」



「えっ?」


瀬里香の言葉に緑は思わず頭を上げた。




「検診の日、突然悪阻に見舞われて病院の洗面所に駆け込んだ時、私を介抱してくださった…あの時の看護師さんだったんですね。その前にはいつだったか、陸斗のマンションのエレベーターですれ違っていたことも 思い出しました」



「知って…らしたのですか…」



「はい。何れの日も、近くを通られた時に 陸斗がマンションで使っているのと同じシャンプーの匂いがしたので」



緑は驚きのあまり、手で口を覆った。




「富枝さんは、元気にされてますか?」



今度は勇次郎の言葉に驚き、緑は勇次郎の顔に釘付けになった。




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