第19章
第54話
瀬里香はスマホに送信された、陸斗と緑が一緒にホテルに入って行く画像を見つめていた。
【あとは、瀬里香さん自身が決めることです】
と書いた 徹のメールと共に。
そこへ陸斗からのLINEが入った。
【渋滞に巻き込まれちゃったよ(汗)
帰り、ちょっと遅くなりそう】
瀬里香は返信しなかった。
やはり満席だった電車の、誰もいないドア付近に 徹と緑は向かい合わせで立っていた。
緑は複雑な表情をして、深く考え込んでいた。
「兄はふしだらな男だけど、憎めなかった。
どこか、淋しい目をしてたから…ですか?」
徹の言った言葉は図星だ。 緑は頷いた。
「確かに、兄には可哀想なところもあるんです。兄が中2、僕が小5の時に 母が男と家を出て…母のこと、こう言うのもあれなんですが、器量が良くて 父からすれば自慢の嫁でしたし、兄も 僕より母を慕ってました。いつ男ができたのかわからなかったし、そんなことする様な人にも思えなかった。僕はどこか冷めてましたが父や兄は、相当なショックを受けてました。」
「私には、お母さんは病死したと言ってました」
徹が頷いた。
「世間では割とよくある話かもしれませんが、兄にとっては信じられない話で、人に言うのも恥ずかしかったんでしょうね。父からよく言い聞かされてたんです。『女は怖いし、したたかだ。騙されるより、騙すくらいの男になれと。どちらにしても、悪いことなんですけどね」
徹は小声で笑ったが、緑は神妙な顔をしたまま電車の揺れに身を委ねていた。
「だからと言って 兄がしたことは、許されるべきことではないと思ってます。ちゃんと頭を打つべきです。それが 兄のためでもあるんです」
間もなく到着するアナウンスが車内に流れた。
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