第52話

ー cafe seaside ー


徹と緑が向かい合って座っている。


徹は黙ったまま、窓越しに海を眺めていた。


緑はおずおずしながら時折徹の顔色を窺っていたが 覚悟を決め、思い切って口を開いた。


「香坂先生の…弟さん、ですよね」



「はい」


徹は海を見つめたまま返事した。



「あの…なぜ私を、知っているのですか?」



徹は少しの間黙っていたが、ようやく緑の方に顔を向けると 言葉を返した。



「兄が勤めていた病院へ、時々様子を見に行っていて。 その内 あなたのことを知りました」



緑は一瞬絶句した。

が、なんとか重い口を開いて徹に聞いた。


「なぜそんなことを? それは、お兄さんの何かが心配だったからですか? それとも…」



「お待たせしました」


cafeの女性店員がアイスコーヒーを持って来て

緑と徹の前に静かにグラスを置いた。


「ごゆっくりどうぞ」


女店員が頭を下げ その場から離れると、徹は穏やかな口調で言った。



「兄の奥さん、瀬里香さんのことが好きだからです」



思いもよらない言葉に 緑は再び絶句した。



「初めて会った時から、ずっと好きでした。あんな純粋な人が、なぜ兄貴の奥さんになったのか ずっと納得出来ずにいました。でも、僕がそんなこといつまでも思ってたってどうしようもない。だからせめて、陰からでも 瀬里香さんを守っててあげたいって…そう思ったんです」


「だからわざわざ病院に様子を見に行ってたんですか? 例えば探偵とかに依頼をして、代わりに身辺調査とかして貰うことも出来たのでは」


「そんなお金なんかないですよ。…あなたは、兄のことで 探偵とかに依頼されたのですか?」

 


緑は口籠った。



徹は察した様に 微かに笑った。


「兄のことだから、恐らくこういうことをするんじゃないかと思って。ま、当たってたんですけどね。昔から変わってないなと思いました」



緑はもう、観念するしかないと思った。


「…事実を知って、どうされるんですか?」



「これから、青井家に 一緒に行きませんか?」



「えっ?」



突然の徹の言葉に 緑は目を丸くした。

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