第49話

瀬里香と入れ替えに、緑が駅に降り立った。



改札口で、笑顔の陸斗が手を振っている。

緑が改札を抜けると、


「久しぶりだね」


と言いながら、陸斗は緑のスーツケースを持った。


「奥さんは?」


「1時間程前に帰ったよ。お義母さんの体調が悪くてさ、気になるからって。

車、横の駐車場に置いてあるんだ。行こうか」


陸斗の誘導で、緑は後ろをついて歩いた。




運転しながら、陸斗は上機嫌だった。


(邪魔者は消えたし、誰にも知られてないし。

心軽やかに、アバンチュールを楽しみますか)




「今からどこに行くの?」


陸斗とは逆に、緑は何となく、まだ落ち着かないでいた。



「海辺のホテルを予約してあるんだ。そこのレストラン、料理が美味いので有名なんだよ。先ずはランチをして…丁度いい頃にチェックインできる。昨夜もそこに泊まってたんだけどね」



「奥さんと?」



「ああ。チェックアウトの時フロントで、急遽連泊するってことにしてもらったんだ」



奥さんと…泊まったんだ。


奥さんが泊まった部屋に、今度は私が行くの?


(昨日…の夜……奥さんを 抱いた?)


聞きたくても言えない言葉だった。


知らなくていいことを想像すると、理不尽な嫉妬が炎の様になり、緑の体の中を駆け巡った。



「どうした。やっと会えたのに、そんな冴えない顔しないで。…ずっと、会いたかったよ」


陸斗は緑の手の上に自分の手を重ねた。



緑も正直、ずっと陸斗に会いたかった。

会いたい気持ちを無理矢理抑え続けていた。

藤川から聞いた陸斗のダークな過去も、緑自身が知ってしまった陸斗のとんでもない行いも、全て知りながら、陸斗のことを想い続けた。


陸斗のどこか刹那げなあの瞳に惹かれたのは、

何となく 自分と似ている部分を感じたからかもしれない。2人にしかわからない、同じ感覚を。



「着いたよ」


陸斗の声で、緑は我に返った。


目の前には、澄み切ったブルーの海が広がっている。



2人は車から降り、ホテルの中へ入って行った。



カシャッ



駐車場の側に立ってある木の影から、カメラのシャッター音がした。




瀬里香のスマホ画面に、陸斗と緑がリゾートホテルに入って行く姿が写った写メールが入る。

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